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カラフル  作者:
CAMPARI
2/21

2.

違うことを考えたーーあれは由希が入院する前だ。由希とラブホでセックス……確か騎乗位から正常位に体位を変えたときに由希の電話が鳴った。


「彼氏からだ」

「出れば?」

「今?」

「そう」


ハダカの由希は携帯電話を手に取り通話ボタンを押した。その間、念のために腰の動きは止めている。


「もしもし……」


電話に出た由希の顔には嬉しさや笑顔はなかった。なんなら別れ話でも始めるんじゃないかと思うほど、目は真っ直ぐ天井を向いている。

だからちょっとした“イタズラ”を考えた。彼氏と電話してる由希にキスをする。驚いた由希の顔がおもしろくて舌を出してディープキスに発展させた。左の耳からは携帯電話からかすかに聞こえてくる彼氏の声、おれと由希の唇からは唾液の音、そっと唇を離すと「もう……」由希は多分口をそう動かした。

「しいっ」って人差し指を口に運ぶ。「そっちでしょ!」由希の唇が動く、それを笑顔で返して腰をゆっくり動かし始めた。


「ちょっと!」


焦った由希がそう言う。「ううん、なんでもない」そんな言葉で会話を紡ぐと同時に目を閉じる。彼氏との会話はどうやら次のデートの約束、必死で洩れそうな声をガマンして眉間にシワを寄せる由希のーー欲求不満なのかな、7月の京王線の電車の中は暑くて、正面の女の子の胸元にもうっすら汗が滲んでいる。


明大前で電車からホームに降り立つ。さっきまで向かい合ってた女の子はここで降りたのかそうじゃないのか、知らないけれど深く考えたら不思議なこと。けれどあまり考えずに改札へと向かった。


「今、駅に着いたけど」


由希に電話で案内されるまま、居酒屋とラーメン屋を横目に大通りへと出た。「そういや腹減った」のことばにカレーライスのじゃがいも抜き作ってあるよとの返答。なんでじゃがいも抜き……由希は確か北海道の出身だったことを思い出しながら、北海道イコールじゃがいもという数式を考えつつ足取りを早める。

多分、部屋着だろうピンクのパジャマを着た由希は、一際大きなマンションの下に立っていた。


「久しぶり」由希の頬が少し痩せた気がした。「重かったでしょ、気を使わせちゃった?」

「大丈夫だよ。でも思ったより元気そうでよかった」


パジャマの柄は花。なんの花かは知らないけど熱帯地方っぽいキレイな花だ。


「あのさ、普通は彼氏とか呼ぶんじゃない?」

「だって彼氏より雅くんの方が楽しいんだもん」


由希の部屋はマンションの2階、エレベーターに乗るとすぐに到着した。


「どうぞ」


由希に促され1DKの部屋の玄関を開けると小さな由希が、グレーのスウェット姿で立っていた。


「こんばんは、斉藤絵理です」

「あ、どうも、こんばんは。皆川雅也です」


玄関に入った途端に香るスパイスは、空っぽの胃をこれでもかってくらい誘惑する。


「おじゃまします」


勧められるテーブルの上にはデザインがかわいいグラスが3つと、真っ赤なボトルが1本。


CAMPARI.


イタリア生まれのそのボトルの名前はカンパリ。いわゆる食前酒のたぐい。真っ赤な液体の表面は少しの振動で波を打ち、これから始まる食事を楽しむ手助けをしてくれる。

今日は酔いそうだ、その予感は見事なほどに的中し、結果的に由希の妹、絵理の唇にキスをするーーそして、カンパリのように恋をした。

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