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カラフル  作者:
くったく
19/21

4.

有希から電話があったのは、アルタで観葉植物なにかないかなって出勤前に探してたとき。「久しぶり」なんて声に久しぶりって返す。「元気そうだね」って聞かれたからおかげさまでって伝えた。

有希を見捨てるーーその思いとは裏腹に、話題にしちゃいけないなって思ったけど、口は勝手に心と同調して動いていた。


「知ってたんだ、雅くんには関係ないでしょ」


生活が大変、だからってなんで風俗、観葉植物どころじゃなくなったおれはアルタを後に出るも、通りは人。人。人。絵理は知ってるのか、それが一番の疑問だ。


「へえ、絵理って呼んでるんだ」


その言葉の裏に潜んでいるのは嫉妬の類。アルタから一番街へ、嫌になるほどの喧騒が有希の声のじゃまをする。


「なんなら試してみる?これでもけっこう人気あるんだよ」

「ふざけるな!」


叫ぶ声に反応して通りの何人かが振り返る。けどおれの顔が怖かったのか知らない振りして通り過ぎて行った。「有希お前……」電話はもう切れている。有希のことは知っている、多分今ごろ携帯電話を握り締めて泣いている、そう思う。けど関係ない、見捨てる、おれはそう決めたんだ。


チカさんが自分のことを風俗嬢だって言ったときおれはなんて言った?「いろんな仕事がありますから」、含み笑顔でそう言ったはず。いろんな仕事、なにがいろんな仕事がありますからだ。有希にはただ怒鳴って切られて、会話らしい会話もなしに通信は終了。


「雅也さん聞いてくださいよ。昨日彩香とキスしちゃいました」


そう笑顔で話す高橋に、良かったなって、テキトーに思いついた言葉をしゃべった。

昨日ーー正確に言えば今日、おれは初めて絵理を抱いた。その余韻に今朝まで、いや有希から電話が来るまで浸っている自分がいて、明日から始まる同棲に期待を風船みたいに膨らませてる自分がいて……。


「今度ダブルデートしましょうよ」

「中学生か!」

「いいじゃないですか」


けどどんな自分も確かに今はここにいる。ここで、ブルーラグーンで、ホウキとチリトリ持って店内の掃除をしてる。店長はレジ金の計算、大塚は店の入口と窓の掃除、いつもと変わらない風景を背に無理に深呼吸をしつつも、どうしようもない頭の中をむだに1つ1つ整理してみてる。


肩の力を抜く、そのやり方を教わった通りに実行する。力を抜きたいとき、まずはそこに力を入れてぎゅっとしてから力を抜く。そうするとストンと簡単に力は抜ける。


「皆川さんどうしたんですか?あんまり元気なさそうですけど……」


年下に気を使われるようじゃカッコ悪い。まかないの煮魚を箸でほぐしてご飯に乗せる。


「そうか?ところで高橋、キスくらいで浮かれてるようじゃまだまだ子どもだな」

「皆川さん、もしかして……」

「もう大塚みたいに童貞じゃないんだぜ」

「ど、童貞じゃないッスよ」


キョドる大塚を見て店長が「ねちっこいセックスしそうだな」なんて言うから笑って賛同した。


「そんな……」


落ち込む大塚は休みも返上で出勤、バンドエイドは1枚から3枚に増えていた。


「高橋」

「なんですか?」

「遊園地行こうか」

「……は?」

「ダブルデート」


いいですねって口元を緩ませる高橋に、羨ましいですって大塚がボソッと呟いた。今日はカラ元気……カラ元気?普通さ、元気がないからカラ元気って言うわけで、今のおれに合う言葉じゃないだろ。昨日の夜のこと、明日の引っ越しのこと、楽しいことばっかりじゃないか。

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