5.
絵理と2人、新宿駅に向かって手をつないで歩く。一応念のため、周りを確認するけど高橋と大塚はどうやらいない。
「彩香、高橋さんと少し飲んでから帰るって」
「毒牙にかかったか」
「なにそれ、いい人そうだったよ」
駅の構内は金土ほどじゃないけれど雑踏はひどく、埼京線イコール痴漢っていうイメージがあるから山手線で帰ろうかと提案。
「雅也さんが守ってくれるから大丈夫」
想像通りの満員電車で離れないように絵理の手をしっかり握る。人の背中と背中の間で向かい合い、絵理の腰に軽く手を回す。
「大丈夫?」
「うん」
痴漢がいるかどうかは知らないけど、会話することで彼氏が一緒だぞってアピール。不安気にうつむく絵理と会話は続かないけど、伝わる体温はお酒のせいだろうあったかい。
池袋のホームに足を出すとちょっと一息、大丈夫って聞いたら大丈夫って、そう話す絵理の笑顔に安心した。
「守ってくれる人がいるっていいね」
「おれでよければ」
2人笑顔で西口へと歩を進める。マンションに着いたらまた明日って言って、ご飯はそれからコンビニででも買おうと思った。
「雅也さん」
「なあに?」
「今夜、部屋、泊まっていい?」
そこで踊ろうかと思う感情を抑えて、でもきっと変な笑顔してて……。化粧とか朝の用意とか考えて絵理の部屋に泊まることにした。とりあえず先にコンビニで、あんかけトロロ焼きそばってなんか微妙そうなの買って、自分の部屋でシャワーだけ浴びて絵理の部屋に向かう。
すっかり寝る準備も、着替えも終えた絵理、「すっぴん」なんて恥ずかしそうにしてたけど、正直あんまり変わらない。
「パジャマ、買わないとね」
今の空気にさすがに緊張はする。セックスーー期待しないわけでもないけど今日はしない、それだけは泊まるって決めたときから心に言い聞かせている。
「ご飯食べていいかな?」
「お茶飲む?」
「うん、ありがとう」
まるで付き合い始めのカップル、いや付き合い始まて4日目だからその通りだ。
「やっぱり微妙な味」
「なんでそれにしたの?」
「あやしいから」
クスリと笑う絵理、釣られて笑うおれ、同棲したらこんな感じなんだって想像しながら、でも悪くないなってほくそ笑む。
「同棲したらこんな感じ?」
「今おれも同じこと考えてた」
それから30分後、絵理はベッドの中でおれの腕の中にいる。「恥ずかしい」そう言いながら何度も何度もキスをした。
パジャマ越しに伝わる絵理のからだは今まで抱きしめた以上に、素直にその肌の線を教えてくれる。眠るときはブラをしないんだろう、その膨らみはおれを包んでくれるよう。包んでるのはおれ?包まれてるのはおれ?この感覚が気持ちいい。
きっと絵理の頭の中にもセックスって言葉はあったと思う。けれどゆっくり頭を撫でる手のひらに、安心したのかいつの間にか寝息を立てていた。
眠れないーーしょうがない。いつも寝るのは朝になってから。はだけるパジャマの胸元から覗く谷間に、視線が釘付けになるのは心情。考えてみたらなんだか学生みたいな恋愛をしている、なんなら高校生だってもっとオトナな恋愛をしているはず。なら中学生?まさか……小学生?
絵理の唇をそっとなぞってみた。愛おしくなってぎゅって絵理を抱きしめてみる。目を覚まさないことに安心して、絵理の体温を全身で受け止めた。ポカポカとあったまり始めるからだの、芯の隣りにあるまどろみがまばたを、少しだけほんの少しだけ重くしてくれる。
「おやすみ」
聞こえてないだろう、でもそう言って目を閉じた。