表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カラフル  作者:
それぞれ
14/21

4.

「高橋、おれ今日まかないいいや」

「皆川さんもしかして、愛妻弁当ってやつですか?」

「ひとり者のお前には分かるまい」


甘い玉子焼きと鶏の唐揚げ、タコのウインナーにミートボールが入った手作りのお弁当は、旨いかって当然旨い。

目が覚めたら10時を過ぎていた。鍵はちゃんと閉めるのと、そう書いてあるメモをテーブルの上に寝起きで見つけて落ち込んだ。


「ああ言っちゃった……」


付き合って4日目、同棲の誘いは早いかってそりゃそうだろ。嫌われたかなって考えてたら携帯電話のランプに気付いた。


ーー引っ越しはいつにする?それと今日、友達とお店に遊びに行っていい?


いわゆる有頂天って言葉はおれのために存在する。でも返す文章は朝はごめんねって。困らせちゃってごめんねって。お店の行き方分かるって。


「羨ましいですね。どこで会ったんですか?」


もう別に秘密にしておく必要もないだろう。


「高橋、前に一番街の入口でナンパした女の子2人組覚えてるか?」

「はい、お互いにいい思い……あの女の子ですか?」

「その妹だ」


姉妹ともやっちゃったんですかって言う高橋に、まだやってないって……全く信用されてない。しょうがないけどまだのものはまだ。

絵理が友達を連れて店に来たのは9時半くらい、隣りの髪がショートの子は彩香さんって名前らしい。


「なに飲む?」

「カンパリソーダ」

「えっと、わたしはカシスソーダで」


かしこまりましたって言うのも照れる。絵理カッコいいじゃんなんて友達の声を聞こえない振り、ポーカーフェイスを装いコリンズグラスを2つ並べた。ペジェカシスとカンパリ、並ぶボトルは共に赤。けれど全く違う赤と赤はそれぞれの個性で、加えるソーダとレモンのバランスは微妙に違ってくる。


カンパリソーダーー今日のカンパリソーダはレモンを薄めで作った。


「どうぞ」


笑顔の2人の前に並ぶ2つのグラスに沈む氷は、口をグラスにつけるときにじゃまにならないちょうどいい高さ。


「おいしいです」

「うん、おいしい」


細やかな気遣いにだれが気付くって、きっと100人いたら1人くらい。でもおいしいお酒を作る、それがおれの仕事。


「雅也さん、料理のオススメってどれ?」

「そうだねえ……」

「なんかいいな、2人の雰囲気」


茶化す彩香さんにいいでしょって言ったら笑ってた。近くで聞こえた高橋の声も笑ってる。


「はじめまして、キッチン担当の高橋です。皆川さんには日頃からお世話に……」

「お前だれだよ!」


余計なこと言うなよって心配は高橋には必要ない。「料理はお任せ下さい」なんて腕を胸に当てて言うセリフはよく似合う。


「今日はおごるよ、好きなだけ飲んできな」


2人はいいよいいよなんて言いながら、でも快く承諾してくれた。その後カウンターを飾る料理は今まで見たことない、なんならおれが食べたいレベル。


「高橋、こんなメニューうちにあったか?」

「店長いないんですし特別サービスです」


2人の「ありがとうございます、おいしいです」、高橋の「いえいえ」、うまいなあなんて思いながらおかわりのガルフストリームとネグローニの準備に入る。


響くシェーカー音はいつも以上に鋭く、キッと冷えたカクテルは笑顔を簡単に引き出してくれる。絵理のデパートの同僚、彩香さんは社交的で、いつの間にか高橋と仲良くなって、でも内向的な絵理の方がいい。絵理の絵理ーーおれだけのもの、それが心を安心させてくれる。


「こんか幸せそうな絵理の笑顔なんて初めて見た。デパートの中じゃおとなしいくらいなのに隅に置けないな。皆川さんは絵理のどこが好きになったんですか?」


少し考えて言ってみた。


「一目惚れ」


なんか体がかゆいなんて言い出したのは高橋、ヒューヒュー言ってるのは彩香さん、絵理は顔真っ赤にして、そういえば大塚……ま、いっか。


「同棲するんでしょ?」


その言葉に心が震える。でも絵理と目が合って、絵理がネグローニを口にしながら頬の肉を上げて笑って、イタズラっぽい顔したから「うんそうだよ」って答えた。


「いいなあ……」


結局2人は閉店までそこにいて、彩香さんは「いいなあ……」を20回くらい連発していた。


「一緒に帰ろ」


ダウンライトの奥で、きっと頬を赤く染めた絵理が小さく頷く。高橋はいつの間にか彩香さんと連絡先を交換したらしい。締めのデザートはデザイナーズブランドのようなデコレーションのアイスクリームになった。凄すぎて笑った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ