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カラフル  作者:
それぞれ
13/21

3.

「確か先週の土曜日も来ましたよね」

「覚えててくれたんですか、ありがとうございます」


女子大生の2人組はおれのファンだなんて言いながら、スプモーニとチャイナブルーを口にしている。


「たなたのオリジナルが飲みたいです」


ドキリとするような言葉にも「かしこまりました」と答え、先週は確か柑橘系のカクテルを飲んでたことを思い出す。2人のグラスが空になったころ、ピンクの服の女の子にはピンクのロングカクテル、ブルーのネックレスを付けた女の子にはブルーのロングカクテルを、それぞれに可愛くレモンピールでデコレーションしてテーブルに飾った。


「おいしいです。名前とかあるんですか?」

「ありません、気に入ったら付けてください」


ミキ&マイスペシャル、楽しそうに2人はそう言っていた。きっとまた来てくれるだろうから、レシピをメモに残しておく。


「隊長!」高橋がニヤついている。「モテモテですね」

「お前ほどじゃないよ」


午後の9時を過ぎたころ、チカさんが1人で来店した。店長の視線がこっちへ向き、おれが高橋に目を送る。分かってるな、分かってます、サッカー並のアイコンタクト。


「いらっしゃいませ。ご注文は?」

「セックスオンザビーチ」


かしこまりましたと応えて早速取り掛かる。手を指を動かしながら考えちゃいけないって思いながらも、頭に浮かぶのは雑誌の写真。


「どうぞ」

「ありがとう。皆川くん、あたし風俗嬢なんだ」


唐突。


「そうですか」

「引かないの?」

「いろんなお仕事がありますから。それでどうしたんですか?」


頬の筋肉は至って普通、問題ないと思う。


「田舎に帰ろうかなって……」

「どこへ?」

「岐阜」


一期一会、それがこの仕事をやる上で分かったルール。


「今日はいっぱい飲むわよ!」

「ガンガン作ります」


いっぱい飲むって言ってたチカさんは本当にいっぱい飲んで、挙げ句の果てには店長にも飲ませ、おれも高橋も、大塚まで。0時を回るころには店長はグタグタだった。


「長澤、しっかりしろお!」

「もう勘弁して下さい」


Sの店長はすっかりM、並ぶテキーラのグラスは全て大塚行き、助けて下さいなんて声を無視して仕事が忙しい振りをする。一期一会、そういうセカイ、それは充分理解している。


今ごろ部屋でゆっくりしてるだろう絵理からのメールには、休憩入ったら電話してほしいって書いてあった。時計はもうすぐ1時を指す、大丈夫かなって思いながらも通話ボタンを押した。少し眠そうな絵理の声にごめんねって声をかける。


「ありがとう、声聞きたかった」


そらからの話題は専ら仕事のこと、およそ10分の休憩時間にこれでもかってくらいたくさんしゃべった。


「お客さんにセクハラされるんだよね」

「本当に?おれもまださわったことないのに」

「コラ、そういう問題じゃないでしょ!」


絵理の性格は決して社交的とは言いづらい、きっと人見知りも激しいと思う。けどだから絵理の笑顔は、数少ないだろう絵理の笑顔はおれだけに向けられる。それがおれの自慢だ。


「雅也さんよりわたしの方が雅也さんが好き」


その言葉の意味を知るのはもう少したってから。今はただその声を聞いていたい、もっともっと聞いていたい。


仕事終わりの店長は半ば廃人で、しゃべる言葉に3人は絶句した。


「おれさあ、昔チカと付き合ってたんだ」


返す言葉は見つからない。


「あいつ見てると危なっかしくてさ、すぐ1人でどっか行っちゃうようで、でもほっとけなくてな」


恒例のお疲れの1杯は、さすがに4人ともソフトドリンク。


「あいつが風俗で働き始めたのはおれと別れてからすぐだった。バカヤローなんて怒鳴ったけど関係ないでしょって。別れたら関係ない、人と人との関係ってなんだろうな」


聞いてる3人は、大塚でさえジンジャーエールを飲みながら黙っている。


「それより皆川、最近お前目当ての客が増えたな」

「……そうですか」

「サパクラブにならないようにな」


ホストとバーの中間位置、サパクラブにするつもりは一切ない。そう言おうとしたけど店長は眠りそうで、「明日休んでいいか?」と呟きながら店の鍵をおれに渡して先に帰った。残った3人もその後すぐに帰路に着いた。


久しぶりにコンビニ弁当を買った。炭火焼カルビ弁当を何万食って炭火で焼いてる工場を想像したらおもしろかった。きっとスゴイ煙で、周辺地域はカルビの匂いが立ち込めて……そんなわけないなと思いながら箸を握る。


絵理はきっと今ごろ寝てる。おれも早く寝ることにした。部屋の呼鈴が鳴ったのは眠りについてから1時間後、寝ボケ眼で開くドアの向こうにいるチェックのワンピースと生足に見とれた。


「お弁当作ってみたんだけど、食べる?」

「すぐ行かないとダメ?」

「まだ時間、あ……」


手を引いてそのままからだを抱きしめる。閉まるドアの鍵をかけ忘れたけどどうでもいい。


「雅也さん?」

「……ねむ」


ちょっと強引だった。絵理をベッドまで連れて行くと、押し倒すつもりはないけどそうなった。両腕の中の中の肩は小さく、居場所を探しているよう。


「あ、ごめ、髪型……」

「大丈夫」


絡まる絵理の足は冷たい。ポン、と頭を撫でると絵理は首をすくめた。


「絵理、一緒に住もうか」

「……え?」

「おれと一緒に、同じ部屋で住まないか?」

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