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カラフル  作者:
それぞれ
11/21

1.

「皆川さん、いいもの見つけましたよ」


まかないの用意が終わった高橋が薄い雑誌を手にニヤついている。


「そんなことより高橋、お前どれだけテキーラ好きなんだ!」

「最高ですね。それよりこれ見てください」


雑巾でカウンターを拭きながら雑誌を見る。


「風俗情報誌じゃないか」


ペラペラとページをめくりながら「金土は朝まで仕事ですし、お互い1人者同士これ見てがんばりましょう」と言う高橋に笑みを向ける。


「高橋、だれが1人身だって?おれを昨日までのおれと思うなよ」

「え、マジですか?」


それからの質問は全部無視、せっせと磨いたカウンターはいつも以上に輝いている。


「紹介してください」

「いやだ」


今日のまかないは焼肉丼。高橋が言うにはなんとかっていうイタリアンのアレンジだそう、名前はどうでもいいけど味は旨い。


「これ旨いな」


店長もどうやら気に入ったらしく、また作ってくれよと風俗情報誌をまだ見てる高橋に言った。

そんな時、携帯電話がズボンのポケットで振動した。絵理からメールかなって表示された名前を確認、由希、ゴクリと唾を飲み込み確認する。


ーー絵理から聞いたよ、おめでとう。ちゃんと幸せにしてあげてね。


由希のおれに対する気持ちには気付いてた。けれどそれに対する自分はそこにはなく、ただ知らない振りだけ続けてた。


「皆川さんちょっと……」高橋が妙な顔してこっちを見ている。「ちょっといいですか?」

「どうかしたか?」


高橋の手招きで店の入口辺りに行く。広げてある風俗情報誌のページ、そこにはチカさんのハダカの写真が掲載されていた。


「マジ?」

「……ですよね」


だれにも言うなよ、言えません、そんな会話をした後テーブルに戻って焼肉丼に箸を刺す。


「どうした?」


店長の質問に「いやちょっと……」と、答える高橋の空気に店長は何かを感じ取ったようだ。ただ隣りにいる大塚は興味心身で、なにやら言ってるけどテキトーにあしらっておいた。

店長はヤクザ、チカさんの声を思い出す。風俗嬢、だからって今まで通り、なんら変わらない、変わることはなにもない。


金曜日の客席はいつも通りの満席で、キャバクラのお姉さんたちの同伴組が引けたころ、テーブル席の大半はスーツで埋まる。スーツじゃないのは大学生だろうグループ、カップルは自然とカウンターに座った。

並ぶシェーカーとグラスはいつもの倍、それでもファーストドリンクがそれぞれに行き渡ると余裕が出来る。次はキッチン、ホールは店長に任せて大塚がキッチンのヘルプに入る。


「皆川」オーダーとオーダーの間で店長が声をかけて来た。「チカのこと内緒な」

「知ってたんですか?」


店長がチカさんを“チカ”と呼んだことを気にしつつも、すいませんの声に反応してオーダーを取りに行った。

落ち着き始めたのはそろそろ終電がなくなり始める時間帯、やっと休憩を回そうと順番に高橋が作ったまかない片手にレジ裏のデッドスペースへと入る。閉店は朝の4時、深夜2時を回ればキャバクラのお姉さんたちのアフター組が来る。それまでに休憩を取ろうという作戦だ。


「皆川さん次どうぞ」


高橋に促され休憩を取った。どんぶりには和風っぽい味付けの肉のあんかけの何か、高橋が作ったんなら味は問題ないだろう。

ふうと一息ついて絵理のことを考えた。きっともう眠ってるだろう、そう思いながら携帯電話を開く。メールの着信が1件、忙しくて気付かなかったらしい。


ーーがんばってね、おやすみ。


明日の朝、確か絵理は遅番だから7時に起きるって言っていた。7時ちょうどに電話して寝起きの声を聞こうかな、そんなことを考えながら箸を口に眉間に寄るシワ……マズイ!食えたもんじゃない。後で聞いたら作ったのは大塚で、店長に至っては2度と作るなって怒る程。


ふと見るイスと壁の間に例の風俗情報誌が置いてある。めくるページのチカさんは、バッチリ化粧して髪はアップで、胸元にある蝶のタトゥーは張りのある胸元に沈んでいる。


「偶然を装って店へ……」


からだのラインは本当にキレイで、小さな2つの突起と少なめなヘアーは好みと言えば好みと考えつつも、絵理の顔が頭をよぎったからごめんなさいって謝った。


あと3時間、窓の外の歌舞伎町の街には喧騒と活気が満ちている。働き始めたころは不思議だったけど今は慣れた。どんぶりの半分くらいを残し頬を叩いて気合いを入れる。

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