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カラフル  作者:
交わり始める感情
10/21

4.

「どうぞ」


皿の上ではトマトソースの中でムール貝とブラックタイガーが踊ってる。


「平山さん、カンパリってボトルキープできますか?」

「大丈夫だよ。名前はどうする?」

「2人の名前で」


新品の青いラベルにボトルネックが飾られ、そこに雅也と絵理、それに今日の日付を油性のマジックで書いた。


「記念に」

「はい」


何を話していいか分からないのはきっと彼女も同じだと思う。彼女ーーそう、文字通り絵理は彼女になった。


「気付いてたんだ」


パスタを取り皿に分けながら絵里さんさんに聞いた。


「寝付けなくて。目を閉じてたら皆川さんが起き出して、声をかけようかなって思ったら……」

「なんかごめん……」


ネグローニを口に運びながら申し訳なくなって下を向いた。


「嬉しかったんです。それに、キスした瞬間、その、電気みたいのがビビビって……」

「今度はちゃんと……」


カンパリソーダもネグローニもトマトソースも全部が赤。


「ちゃんとしよ」


彼女には赤がよく似合うーーいつか、赤い洋服をプレゼントしようって決めた。

それから何を話した?仕事が大変だってこと、映画や音楽が好きだってこと、東京に来て自分が働いてるデパートの大きさにビックリしたこと、好きな食べ物嫌いな食べ物、とにかく時間はあっという間に過ぎていった。


「そろそろ帰らないと」

「そうですね」

「変だよ」

「……え?」

「敬語」

「あ、うん、そう、だね」


平山さんにチェックを伝え、お財布を用意する絵理さんに大丈夫って声をかけ店を後にした。


「絵里さん」

「皆川さん、絵理でいいよ」

「じゃあ絵理、皆川さんもやめようか」

「……雅也、さん」


ハタから見たらただのバカップルだろう会話は、2人にとってはきっと、大事な会話。


「でも同じマンションってすごい偶然だよね。もはや奇跡に、近い」

「そう、だ、ね」


例えば「送ってくよ」とか駅で後ろ姿を見送るとかがない別れ、敷いて言えばマンションのドアの前で「また明日」、そう言うくらい。


7月の外の風は気持ちいい。西口公園に差し掛かるころ、左側を歩く絵理の手をそっと握ってみた。目が合うと絵理はギュッと握り返し、お酒のせいなのかあったかい彼女の手のひらに安らぎを感じた。

203号室のドアの前で、ちょっと気まずく立っている。


「お茶、飲んでく?」

「遅いし今日は帰るよ」


絵理がドアに鍵を差し込み開閉音と共に開く先、構造はやっぱり同じでもそこは絵理のセカイだった。玄関に入り振り返る絵理の目はこんなに大きかったかな……テーブル越しで見るよりもっと近くに絵理がいる。

だから抱き締めた。背中の後ろで勝手に閉まるドアの音がする。腕の中の絵理の肩は小さく腕は細く、でも丸いおでこはおれの胸を頼ってる。


「……絵理」


ゆっくり上を向く彼女と視線が優しく交わると、精一杯そっと唇を重ねる。感じる電気は前回よりも強く、腕を添える両肩を、絵理をおれが守ると、誓わせるには充分だった。


永遠ーーそこには永遠って名の時間が確かに存在する。「また明日」、そう手を振るまで、確かにそこには永遠があった。


ずっとずっと一緒にいれると思ってた。絵理といつまでも一緒にいれると思ってた。付き合った数時間後に、将来2人が別れることを想像する方が難しいのは当たり前のこと。


でもなんでだろう、なんで2人の心はスレ違いを始め、結果として別れを決断し、駅のホームで絵理を20時間も待つことになったんだろう。


なんで……。

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