『百の昔の凶つ歌』 ~アルデガン前史~(外伝4)
三つの百のその昔
残酷な男一人あり
剣の技こそ強くとも
武人の誉と無縁の男
弱き者を虐げなぶり
苦悶せしめて悦べり
牙持つ骸に男は出会い
からくも薙いだ生首に
盾なき腕に牙を受け
残酷な心残せしまま
邪悪な魂抱きしまま
牙持つ者に身を堕す
残酷な男はうち興じ
牙の力に酔いしれし
魂残し吸い残した者を
苛む味をやがて覚えし
二つの百のその昔
赤子負いし母捕え
岩の中に閉ざして嗤う
我が子を食みし母嗤う
赤子の骸を抱えし母
滅びを願いて光浴び
ただ母だけが復活し
赤子だけが灰と化す
狂気に落ちたるその母の
責めすら届かぬ砕けし心
やがて男は飽き果てり
狂った女をうち捨てり
今度は赤子を牙にかけ
赤子は母を吸い尽くす
母は良人を吸い尽くし
夫は空しく朽ち果てり
赤子の傀儡に堕ちし母
我が子の魂に呪縛さる
またも男は飽き果てり
傀儡の母をうち捨てり
二人の女が出会いし火の山
さまよい続けたその果てに
「牙持つ赤子、私の子!」
狂った女が追いすがり
傀儡の母が迎え撃つ
脅える主を守るため
洞に隠した子を巡り
牙持つ二人は争えり
いくつの十が過ぎしとて
滅びぬ二人はただ争えり
「これはよき余興よな」
興じて嗤う残酷な男
一つの百のその昔
尊き僧侶が訪れし
「牙持つ女堕ちたる女
砕かれし心哀れなり
争う所以は知らざれど
神の御元へ還るは今ぞ」
尊師の放つ強き光が
二人の女を浄めたり
残酷な男は歯噛みせり
余興を奪われ怒りたり
されど男は尊師を畏れ
洞の奥へと逃げ延びし
「おのれおのれ、この屈辱
晴らさでおかぬこの恨み」
北の大地に尊師は開く
魔物を封ぜし城塞都市
「ならば我がこの地を毒そう
この地を我の狩場となそう」
尊師が逝きしその後に
歪んだ復讐誓いつつ
残酷な男移り棲む
久遠の闇の岩窟に
邪悪な悦び貪りながら
尊き遺志に仇なすため