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零の境界  作者: 北條槐
第一章
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第三話 魔法 前編

 俺は今、カノンと会う約束をした場所、広場の噴水前に向かっている。

こちらから約束したのだから遅れたり、ましてや待たせたりなんてさせないように。

「・・・・・・とは言え流石に早過ぎか」

 そう呟いた後、何となく空を見上げた。この世界は前世とは違い、太陽が二つある。いや、正確には太陽と太陽と同じ大きさの謎の星、と言うべきか。名前以外は解明されていない、何て名前だっけな・・・・・・、輝精星? 太陽とは違いどこまでも澄みきった蒼い色をしている。ラスティアの裏山同様、前世では見られなかった物の一つなので、俺は何かと気に入っているんだよな。って、んな事はどうでもいいか。



 噴水前で待つこと約十分、約束の時間までは後二十分くらいあるため、正直言って暇だ。こんな時携帯電話やゲームがあれば、と前世の便利アイテムを思い出してしまうのは、前世に未練が残っているからなのだろうか。にしても、

「ふぁ・・・・・・眠ぃ」

昨日の夜は狩りに使う刀を研いだり、やべぇこっちの世界で友達と遊ぶの初めてだから何を着て行けば良いのか全く分からねぇ! と言って、木製のクローゼットの中にある自分の服を弄くり回したり、色々していたからあまり眠れていない。このくらいの睡眠時間なんて前世では普通だったのだが、いかんせん今は十歳の体だ。育ち盛りと言うのは中々辛いものだな、としみじみ思うようになって来た今日この頃。



 そんなことをボ~ッとしながら思っていると、

「ぅわッ!!」

 と背後からイキナリ大声で声を掛けられる。ボ~ッとしている時にそう言う事をされると、

「うおぁ!?」

 こんな風に飛び上がってしまう訳で。

「ふふ、そこまで驚かれると脅かし甲斐があるわね」

 この声は・・・・・・、と思いながらジト目で後ろを振り向く。

「イキナリやってくれるじゃねぇかよ、カノン」

 と、そこには予想どうりにカノンが居て、右耳に掛った緋い髪を右手で払い退けながらしてやったりな顔で立っていた。

「あまりにも無防備でボ~っとしていたからつい」

「ついでそんな事しないでくれよ。寿命が縮んじまう」

 まぁ、カノンの無邪気な子供特有の笑顔を見ていると、そんな事がどうでも良く思えて、怒りなどどこかへと飛んで行き、気が付けば俺とカノンは笑い合っていた。



「それにしても以外と早く来たんだな。約束まであと十五分くらいはあったはずだろ」

「え、それを私より先に居たシェイルが言う?」

カノンはジト目でイタイところを突いてきた。

 それは・・・・・・、と言葉に詰まるが、余り言い合っていると長引きそうなので止めておくことにした。


「ま、まぁ、そんな事は置いといてだな。カノンは何かしたい事とかあるか?」

 いきなり話題を変えられたのが気に食わなかったのか、カノンはムスッとして、

「それを私に聞くの? 普通そう言う事って男子が考えて来るのが常識じゃない」

 何故かこの世界・・・・・・と言うか恐らくカノン自身の常識で理不尽に怒られる俺は何なのだろう。

「もちろん考えた。考えたけど・・・・・・、どうも経験が無いからな。よく分からなかった」

 と言うのは大方嘘な訳だが。ただ単に、前世とこちらの世界の遊びはどこがどう違うのだろうかと思い、カノンから聞き出そうとしているのだ。

「ふぅん。なんだかガッカリ」

 本当にガッカリしているのか、カノンは肩を落として残念そうにうなだれている。

「何でだよ」

「期待してたからよ」

 期待、か。

「まあ、ゴメン」

 カノンの期待を裏切ってしまったと思い、何となく謝ると、カノンは一瞬キョトンとし、

「あはっ、何でシェイルが謝るのよ。私が勝手に期待していただけだから、そんな謝らなくてもいいわよ」

 微笑みながら許して(?)くれた。

「そ、そうか」

 でも何故だろう。余計に申し訳なくなって来た気がする。



「「・・・・・・・・・・・・」」



「そ、そう言えば、シェイルってケンカはまあまあ強かったけど、魔法とかは使えるの?」

 しばしの沈黙の後、先に口を開いたのはカノンだった。

「いや、存在自体は知ってるけどな、実物を見た事がないからかな。使えない」

「じゃあ、使いたいと思ったことは?」

「そりゃあまぁ、使えるに越したことはないな。と言うか正直言って使ってみたい」

 だって魔法だぜ魔法。そんなファンタジーな事できたら最高じゃないか。

 とか心の中でひっそりと思っているとカノンが、

「それじゃあ、やり方教えてあげよっか?」

 と、言い放った。

「は? ちょっ、何!? カノン、お前魔法使えるのか!?」

 するとカノンはふふん、と鼻を鳴らして、

「練習すれば誰にだって使えるわよ、魔法なんて」

 さらりと、まだ膨らみなんて全く無い胸を反らして誇らし気に語る。

「そんなものなのか。なんつーか・・・・・・ファンタジー・・・・・・」





 と言うことで俺とカノンは、俺の提案でラスティアの裏山に来ていた。もし魔法が変に暴発でもしたら大変だからだ。

「はぁ、はぁ・・・・・・。ちょっとここの坂キツすぎじゃないの?」

 カノンは膝に手を当ててぜぇはぁと息を切らしている。

「確かにキツいけどたかが三十分だぞ。たるんでるんじゃないか?」

「うるっさいわね! て言うか何でシェイルは魔物と戦いながら来てたのに息一つ切れてないのよ!?」

 怒りの琴線に触れたのか、カノンは怒り出した。

「そりゃあ日頃の特訓のおかげだな」

「はぁ、シェイルって人間を辞めたのね」

「失敬な! これでもまともな人間だよ」

 とか言いつつ一回死んだ身だけどな。

「って違う! 俺たちはこんな事をするためにここに来たんじゃないだろ!? 早く魔法の使い方を教えてくれよ」

 早く魔法を使ってみたくてわくわくして仕方がなかったので、カノンを急かす。

「分かったわよ」

 そう言ってカノンは何度か深い深呼吸をして、

「ふぅ。それじゃあまず。精練って知ってる?」

 意味の分からない事を言って来た。

「精・・・・・・練? ってなんだよそれ。いきなり専門用語みたいなこと言われても分かんねえよ」

「ここから教えなきゃいけないの・・・・・・」

呆れた様子でカノンは言うが、分からないものは仕方がないだろ。

「まぁいいわ。えー、と。確か・・・・・・、利き手の人差し指を出して」

「人差し指?」

 カノンの意図が分からなかったので怪訝そうに尋ねると、

「いいから早く出しなさいよ!」

 またしても怒られたので指示通りに左手の人差し指を前に出す。

「うん、それじゃあ次。人差し指に意識を集中して空気中のマナを感じ取るの。こんな風に」

 言い終えるとカノンも右手の人差し指を前に出して、集中し始める。

 すると、


 ぽぅっ・・・・・・


 と、指先に赤色の光が灯る。

「! すげえな。どうなってんだソレ?」

「理屈なんて分からないわよ。ただ指先に熱を感じ取る感覚でやると出来るだけなんだから。王都の学校にでも行けば習えるんじゃない?」

 

「まあ、やってみれば分かるわよ。さっさと集中する!」

 またまた怒られたので、一か八かやってみる事にした。


 確かこう指先にマナを感じ取って、


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・、


 ・・・・・・・・・・・・、


 ・・・・・・。


 ぽぅっ。


 集中すること約一分。俺の人差し指の先から・・・・・・。

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