第二話 初めての友達
ラスティアの裏山の件から一週間。俺は親父に連れられて領の広場の噴水前に来ていた。昼時なので領の人々で溢れ返っている。
「シェイル、お前には友はいるのか?」
親父は俺と同じ色の銀髪を少し弄ると、何気無くといった感じでそう言った。全く唐突な質問である。だが確かにこの世界に転生してから・・・・・・と言うか十歳までの記憶を辿ってみたものの、友達がいた記憶なんて皆無だ。
「いや、いない」
親父の表情を伺いつつそうキッパリと答える。すると親父は、
「そうか。なら質問を変えようか。・・・・・・それでは、友が欲しいと思ったことは?」
友達とか言われてもな。実のところ俺の精神年齢って高校生だからなぁ。今の俺が友達を作るとなると小学生くらいの子だろ?
・・・・・・いやいや、流石にありえないって。
「別に。今でなくてももっと大きくなってからじゃ駄目なの?
」
「よし、家に帰ったら腕立て、腹筋、背筋、素振り等々を千回みっちりと───」
「は!? 無理だろ死ぬって!? 実の息子にナニをやらせる気ですかアンタは!!」
そんなメニューこなせれる訳が無いだろうと猛反論する。が親父はため息を吐きながら、
「はぁ、シェイル。お前も年頃の男なんだから、友くらい作れ。それが嫌なら今日はさっき言った、いや、更にキツい特訓メニューで潰れるぞ」
くっ、我が親父ながらなんて卑劣な真似をッ!
「誰が卑劣だ」
何ィッ! まさか、心を読まれただと!?
「お前の親なんだからそれくらい分かるさ」
・・・・・・親だからって分かるものなのだろうか。いや、それんな事はないはず。と言うか今も読まれてたよな。
「まぁ、そんなことは置いといて、だ。夕飯までに友を作ってこなければ今夜のお前の夕飯は・・・・・・母さんの特別メニューで決定だな」
最後の方はボソッと呟いて聞き取り辛かったが、確かに聞こえた。特別メニューだと。
「ッ!? と、特別メニューってまさか───」
俺の背中に悪寒のようなものが走った。恐らく今の俺の顔は引きつっていることだろう。それに声が裏返っていたはず。そう、俺をここまで脅かすその根源とは、
「うッ、分かったって。作れるかどうかは分からないけど、やれるだけやって見るからあの得体のしれない暗黒料理だけは・・・・・・ホント勘弁して下さい」
あんな何と形容していいのか分からない失敗料理を食わされるより、少々乗り気では無いが同年代の友達を作る方が余程マシだ。
とは言ってもアテがある筈も無く、現在は領内の広場周辺を右往左往している。
「友達、か」
そう言いながら、左手の人差し指で頬を掻く。
こちらの世界に来てまだ一週間と少しだが親父に言われるまでは考えもしなかった。
恐らく今の考えが変わらない限り、成人になると同時に旅をするために領を出るつもりでいる。そんな訳で友達を作るよりかは特訓に励んだ方が良いと思っていたのだが。
「つーか友達なんて、キッカケが無えと作ろうとしても作れるものじゃあるまいし。そんな機会がその辺にコロコロと転がっている訳が───」
そんなことをぶつくさと呟いていると、
ドサッ!
と、言う音が近くで聞こえた。何なんだ? と口に出す前に、気付けば俺は音のした方へと足を進めていた。
「お前本当にムカつく女だなぁ」
怒気の混じった子供の声が家々の隙間───路地裏のような所から聞こえて来た。声色からして男だろう。
・・・・・・物陰に隠れて少し様子を見て見ると、場には押し倒されたような形で壁に背を預けている恐らく俺と同年代くらいであろう白いワンピースを着た、緋色の長い髪を持つ女の子一人と、先程の声主であろう今の俺から見ると、かなり体格のデカイ男の子が居た。その男の子の後ろには仲間なのだろうか、ガリガリに痩せた子と、逆に太った二人の男の子達がいた。
「あなた達には言われたくないわ」
女の子の方はキッと男の子達を睨みつけるようにして反抗している。
「いつも俺達の邪魔ばかりしやがってッ!」
後ろにいる二人の内、ガリガリに痩せた方が憎悪の気持ちを込めて女の子に叫んでいる。と言うか叫んでいるだけで何もしていないのだが。
「・・・・・・いつも一人でいる子に対して、大勢で寄って集って虐めたりしているあなた達を止めるのが邪魔だったって?」
女の子は男の子三人も相手にも関わらず、少しも引く様子もなく反論する。
「あぁ、そうだよ! 俺達の遊びの邪魔をするってんなら女だろうが容赦はしねぇッ!」
そう言って体格のデカイ男の子が腕を振り上げる。
まぁアレだ。少し話しを整理してみよう。男の子達はいつもどこかで一人の子を狙って遊び感覚で虐めをしているらしい。体格のデカい男の子が虐めて(もしかするといつもはもっと大勢かもしれないが)、あのガリデブ二人組は虐められて居る奴を見て楽しんでいる、って感じの最低な奴らなのだろう。
で、それをあの女の子が見かける度に止めている。が、男の子達はそれが気に食わなくて今の場面に至ると、こんな所か。となると、やる事は決まってんじゃないか。
「はぁ、しゃあなしか」
そう呟き、俺は物陰から飛び出し女の子を後ろに隠すようにして、男の子達の前に立ち塞がる。
「な、何だよお前」
体格のデカイ男の子が少し狼狽えながら俺に問う。
「お前らこそ何なんだよ。女の子一人に三人で掛かって虐めてるだなんて、恥ずかしくねぇのか!!」
俺はかなりの怒気を言葉に載せて男の子達に大声で叫ぶ。
「何だお前、その女の仲間かよ」
「違ぇよ。俺はたまたま通りすがっただけの・・・・・・いや、ある意味では仲間になんのかな」
「そうか。へッ、だったら問答無用だッ!」
体格のデカイ男の子が先程から振り上げていたままだった腕を俺に向かって振り下ろしてくる。恐らく体格差があるため余裕だとでも思っているのだろう。だがしかし、毎日のように親父の特訓メニューをこなしたり、魔物や動物と対峙している俺にとってはその辺の人間の行動などある程度はスローモーションに見える訳で、避けるのは容易かった。
のだが、ここで避ければ後ろにいる女の子に当たってしまう可能性がある。そのため、あちらの攻撃が当たる前にこちらから攻撃を仕掛けさせて貰うことにした。
ドスッ!!
思いっ切り、そうだなぁ、サッカー選手がボールをゴールに向けて蹴るが如く、渾身の力で脚を体格のデカイ男の子の股間に蹴り上げる。
すなわちそれは男子にとって最大の攻撃な訳で。
「がああああぁぁぁぁああッ!?」
体格のデカイ男の子は叫びながら、飛び上がったと思うと、その場でうずくまり、もがき始めた。俺は後ろにいる傍観しているだけのガリデブ二人組を見つめて、
「お前らもやるか? なんなら二人同時に掛って来てもいいぞ」
自分でも驚くほどドスを効かせた声色で後ろの二人組に問う。二人はサーっと真っ青な表情になり、勢いよく首を横にブンブンと振る。
「だったら」
俺は一旦そこで言葉を区切り、大きく息を吸い込んだ。
「早くどっかへ消えろッ! 今すぐにだ!!」
俺は大きく吸った息を全て吐き出すように、大声で、そして先ほどよりも怒気を加えて叫んだ。
すると二人組はビクゥッと肩を震わすと、泣ベソをかきながらどこかへ行ってしまった。
「お、前ら。待・・・・・・ってくれッ。勝手に、逃げるな、よォ!」
体格のデカイ男の子は股間を両手で抑えながら立ち去ろうとする。が、ここで返してしまってはいけないのだろうと思い、
「おい待てよ」
後ろの襟を掴み動きを止める。体格のデカイ男の子は焦りと恐怖、主に負の感情で表情を歪ませながら、ビクビクしながらこちらに顔を向ける。
「次こんなことしてみろ。・・・・・・そんなのじゃ済まさねからな」
俺が言い終えるや否や、体格のデカイ男の子は襟から俺の手を払い除け、悲鳴を上げながら走り去って行った。
「ふぅ、やれやれだなホント。やっぱりどこの世界にでもあんな奴らはいるんだよな。・・・・・・って、あぁ」
しまった。友達を作らなきゃならんのに、これじゃあこの辺の子達から恐れられてしまうんじゃないのだろうか。そう額に手を当てて考え───
「ね、ねぇ」
「はッ。えっと、何?」
───ようとしたが、いかんいかん、この子の存在を忘れてしまう所だった。そう思いながら女の子に振り返る。
「えーと、助けてくれて、その・・・・・・、ありがと。あなた見かけによらず強いのね」
「あ」
正直、ドキリとした。何たって良く見てみるとかなりの美少女だったからだ。
背中まである緋色の髪に、琥珀色の瞳、端正な顔立ち───って、決して俺はロリコンなんかじゃないぞ!? ・・・・・・と願いたい。
「え、あ、いやー、助けたって、そんな。たまたま近くを通りかかって、気になって来ただけだって」
「気になっただけ? だったら、何で助けてくれたの?」
言いながら女の子はグイッと体と顔を寄せて来る。
「強いて言えば何となく、かな。まぁ、親父からの試練(?)のついでみたいな物だから気にしなくても」
「試練って何よ?」
子供独特の幼い顔をキョトンとして更に顔を近付けて来る。いや、近い! 近いから!
「あー、うん。俺さ、毎日毎日強くなる為の特訓ばかりしてて友達居なくってさ。だから夕飯までに友達を作って来いって言われて」
はは、と苦笑いをしながら答える。
「友達・・・・・・か」
女の子は腕を組んで、考えるポーズを取る。
「まぁ、アテなんて無いんだけどな」
俺は左手の人差し指で頬を掻きながら苦笑いをする。
「ね、ねぇ! それ私じゃ駄目・・・・・・かな?」
「はい?」
今、何て言った!? 何かとんでもなく嬉しい言葉が聞こえて来た気がする!
「あ、ごめんなさい。男の子が女の子と友達になるなんて嫌よね」
何故かいきなり悲しいことを言い出して来たぞ!?
、待て、落ち着け俺。確かに相手は女の子だ。だけども、このチャンスを逃して良い物なのか? いや、駄目だよな。
「いや、そんなことないって! むしろ俺からも・・・・・・その、よろしく頼む」
そして俺は女の子に向かって微笑みながら左手を差し出す。
「俺はシェイル・ラスティア。よろしくな」
すると女の子は一瞬驚いたかと思うと、少し照れくさそうにしながら左手を差し出し俺の手を握る。
「私はカノン・セレスティ。よろしく。ってちょっと待って。ラスティア・・・・・・ラスティア?」
カノンは俺と握手したまま、斜め下を向き、何かを呟き始めた。
「ラスティアってまさか、ヴァン様の!?」
「ヴァン様って・・・・・・あー、親父の事か」
当たり前のように問いに答えると、カノンは一瞬目をパチクリしたかと思うと、
「なッ、ええぇぇぇぇええ!? ご、ごごごめんなさいッ! じゃなかった。スミマセン! わた、私、シェイル・・・・・・様がまさか領主様の御子息とも知らずに」
何故かイキナリ謝り始めた。領主の息子って言う立ち位置ってこれ程までに凄まじい物なのだろうか。
「気にしなくて良いって。さっきまでみたいに自然に、そう、普通に喋ってくれたら良いって」
「そ、そんな。とんでもありませ───」
「あのなぁ、友達だろ?」
「───あぅ。分かりま・・・・・・分かったわよ」
『友達』と言う言葉が効いたのか、カノンにそれ以上謝られたり、無理に敬語を使ったりされるのは無くなった。それにしても「あぅ」って。
ハッ!? いかんいかん、俺は決してドキドキなどしていない! していないからな!?
「あ、そう言えばさ、明日の・・・・・・そうだな。昼過ぎ空いてるか?」
「え? あ、うん。特に用事なんて無かったと思う」
「そっか」
「何で?」
って、うおぁッ! 何でこの子はすぐに顔を近づけて来るんだ!?
「何でって、それはまぁあれだ。友達なんだから遊ぶのが当然だろ」
幸い、明日は特訓も掃除もが無いしな。
「それもそうね」
カノンは納得したらしく、少しだけ頬を赤に染めて笑顔で首を縦に振って答えた。
「よし、決まりだな。じゃあ明日の一時に噴水前に集合な!」
なんだか駄文すぎかなぁorz
でもそれが俺なんです!
・・・・・・自重します。