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第四話 尾羽の神様

自分のことを知ってもらうことは簡単なことじゃないし、隠したいこともあるはずだが。

 目の前の彼女は自信満々に、何かを準備している。

 八重さんも彼女の準備が終わるのを待っている。

 整ったのか、彼女がむふーと息をつく。

「改めて、紹介しよう!私は尾羽月だ」「はい」「好きなものは甘い物と人間だ」「はい」

 あとは……。と何か言い忘れてないか考えている様子。

「私は、一応、神だ」そういって、俺の前に体を前のめりでそう伝えると

そういえば、彼女はどんな神なのか聞いていなかったなと思い質問すると。

「む、鳳凰神だ、一応……。」「小っちゃいけど」とむすっとしてしまった。

「蒼一様は悪い意味で聞いたわけではありませんよ、尾羽月様」

「……そうですが、聞き方が悪かったですよね」

 八重さんに助け船を出してもらってしまった。

「尾羽月様、蒼一様ならお家の関係図をお出しした方が早いかもしれません」「この八重が取ってきます、蒼一様少々お待ちください。」

 尾羽月さんからの説明が難しいかも、いや興味があるならと彼女は家系図を取りにいってしまった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 また、俺と彼女二人になってしまった。

 今度は彼女が口を開く。

「家系図なんて我が家にあったか……?」それに俺が続けて言う。

「神様の家系図が見ることが出来るなんて、ありがたいです、興味があるので」

「そ、そうか?でも……何も面白くないぞ」

 彼女はそう言いながら、残っているお団子に手を付けようとした時に

「持ってまいりましたよ」と八重さんが数冊の本を片手に持って帰ってきた。


 尾羽月さんに一冊手渡すと、「これなら、尾羽月様がどんな神様かを蒼一様にご説明できますよ」とほほ笑んだ。

彼女はその本を捲る、そして書かれていることをそのまま喋る。

「鳳凰神、末族、天尾家」「父、朝晴、母、緋羽羅の子、尾羽月」

「だ、蒼一はどこまで知りたい?私はこういった本は苦手だ……。」

 そうして、本は俺の手元に渡る。

 俺も先ほど尾羽月さんが音読したページを見ると本当に、彼女は鳳凰神の家系であることであるのは分かった。

 だが、注釈がついている。

(天尾家は政争向きではなく、穏健派である……翼は両親は大きいが、娘である尾羽月は人間界に降り立ったことと神食をやめている……。)

「尾羽月さん、神食って……。」「む、あぁ……なんて説明したらいいんだ、そのー、神はな、蒼一や八重みたいに三食ご飯は普通食べないのだ私は完全にやめていなくてな、たまに朝日を浴びて、神食をしている……。」

(そういうことか……。)

 そして、俺は彼女の長い尾羽にも目が行ってしまった。

「尾羽月さんのその長い尾羽は、遺伝なのですか?」「ん?尾羽……。あぁこれはうーん長さは母譲りで色は父だな」

 ファサ……。と尾羽を俺によく見えるように彼女は指差しで教えてくれる。


 長い尾羽は彼女の母譲りで色は父譲りである。

 そうなると、顔立ちや性格も母譲りでいいのだろうか。

「尾羽月さんのお顔立ちや性格はお母さま譲りでいいんですか?」「まぁ、よく母に似ているとは言われる」

「お父様の要素は……?」「うーむ……。はっ!蒼一まさか母を狙って……?」「いえ、違いますよ、純粋に気になって聞いてみたんですよ」

「違うのか、私に父の要素はあるかばあや」「そう、ですねぇ……。あまりございませんねぇですが羽の色は朝晴様似でしょうか、朝晴様は北方出身、緋羽羅様は南方出身ですから……」

「南方……ということは少し孔雀など南の鳥の要素が強いということですかね」あくまで推察だったのだが。

 俺の予測は当たっていたらしい。

「そうでございます!朝晴様は静かなお方でどっしりとしているのですが、どちらかというと鷹や鷲のような方です、反対に緋羽羅様は蒼一様の

 おっしゃる通り、南方ということですので孔雀系でございます、神官をやっていらっしゃったお方ですので鋭い雰囲気がございますがお二方は、とても尾羽月さまのことが好きでございますね。」

「すごい……。私の容姿から絶対、母や父の姿をここまで推察できた奴はいないぞ……。」

 彼女はまた目を輝かせる。

 俺からの質問として、彼女に問い続けると彼女は嬉々として答える。

八重さんにこの本の出どころを尋ねると、天尾家からだという。

 両親からの手書きのものもあるらしい。

(俺にも……こういう物があったのか?)

 そういった記憶はない、ただ彼女は両親に愛されている。

 それは痛いほど、伝わってくる。

(……。)

「……蒼一?」

 本を手にしたままぼんやりしていた俺に彼女の小さな手が目の前をかすめる。

「ぼんやり、してました?」「あぁ、疲れてないか?もう休むか?」どうする?と彼女はそう聞いてきたので。

「そう、させていただいてもいいですか?」「そ、そうしよう……ばあや、蒼一を部屋に」

「はい、ですが……尾羽月様もついてこなくてよろしいのですか?」

「私は、お団子を食べねばならんからな!あと、私も疲れておる人に無理強いはせんぞ」

 そう言う彼女に八重さんはわかっておりますよ、と返すと。

 俺を、最初の部屋に案内した。

 

 布団を敷いていただいてしまった。

「疲れている時は、眠るのが一番ですから」

 そう言いながら、彼女は俺を布団に横になるように促す。

「……すみません、談笑していたのに」「引け目を感じなくていいのですよ、尾羽月様があんなに楽しそうにお話になる姿を、私も久々に見ることが出来、嬉しかったですよ。」

 蒼一様はお話の引き出しがたくさんおありなのですね、と八重さんは笑う。

「では、しっかりおやすみくださいね」「白鳥家には私がご連絡を入れておきますから」

 そういうと、部屋を出ていこうとする八重さんの手を俺は掴んでいた。「どうかしました?まさか体調が?」八重さんは心配そうにまた腰を下ろす。

 俺は、唯一渡された風呂敷の包みを解く、ハッと中身を見た彼女の息使いが聞こえた。

 そして彼女は首を振る。

 「……忘れていました」「結納金です」差し出す。

 少しの着物と、白鳥家からしたらそれなりの額が包まれていた。

 彼女は風呂敷から俺の着流しや書生服、本を除くと。

 きゅっと、またきつく風呂敷をしばって俺に返す。


「……受け取れません」

「蒼一様、このお金は蒼一様のためにお使いくださいませ。」

 頭を下げ、顔を上げて彼女はこう言う。

「……わかり、ました」

 俺は受け取ることが拒否された、風呂敷を自分の手元に置いて、答える。

 

 八重さんは、そのままパタパタと俺の部屋を後にした。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 八重も蒼一もいない茶の間で尾羽月は、団子をはみながら過去の婚約者たちが自分に対してどんな振る舞いをしてきたか。

 思いだしていた。

 (まだ、あの誤解は解けていないようだな)

(……三人、婚姻関係を築けなかったが、私の一方的な愛だった)

 最後の夫のことがどうしても、脳裏にちらつく。

(……卵)

「……。」

 どうして、貴方と育んだ愛の形を貴方は忘れたと言って。

 割ってしまったのだろう。

 もう、聞けないことだ。

「はぁ……。」

 ゴロンと、体を倒す。

 畳のいい匂いがする、でも長い時間引きこもっていた時を思い出しそうで、涙が出そうになる。

「……泣くな」

「今度は、絶対上手く、いく」

 自分にそう言い聞かせ、胸をポンと叩く。

「……蒼一なら、一緒にいてくれるはずだから」

 その言葉は、部屋に静かに消えていった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 八重は蒼一の部屋を出て、鳳京の白鳥家に無事に蒼一が着いたことを知らせるために

 黒電話の受話器を持って、白鳥家の番号にかける。

 「こんにちは、鳳京通電でございます、ご用件を」「白鳥家にお繋ぎしていただきたくて」「白鳥家でございますね、お繋ぎいたします。しばらくお待ちください」交換手の愛らしい声が耳をくすぐる。

(式の段取りなど、何も聞いておりませんからお聞きしないと)

 私は、受話器を握る手が強くなる。

 機械音がなくなり、「白鳥家でございます」冷静な女性の声と繋がった。

「お世話になっております天尾家の世話係の八重でございます、先日の縁談はありがとうございました」

 名乗ると、電話口の女性はあぁと思いだしたかのように。

「こちらこそありがとうございました、つきましてはなぜご連絡を?」「……?」

「蒼一様のことと、式の段取りのお話をと思いまして……。」

 蒼一様のお名前が出た途端に、声色が変わった気がした。

「無事に着いたのならいいでしょう、結納金はもらいましたか?」「え、えぇ、少しお待ちくださいどういうことでしょうか」

「蒼一様とそちらのお嬢様の式のご予定は組んでおりません、今後蒼一様については探りなどは入れないでください」

 ぶつん、一方的に話して、勝手に切られてしまった。

(式の予定は、組んでいないなんて……。)

(なぜ……?)

チン、と受話器を置いて八重は頭を抱えた。

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