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第三話 ばあやという人

屋敷の紹介を一通り受け、俺たち三人はそろって居間で休憩を取ることに。

 八重さんは思い出したかのようにお茶とお茶菓子を持ってきますねと、居間から出ていった。

 ので、ここには今、俺と尾羽月さんの二人きりだ。

 相変わらず、彼女は俺のことをチラチラ見ては時折幸せそうな笑顔を浮かべる。

(表情が、よく変わるな……。)

 俺は、眼鏡ごしに彼女を見ながらこう思っていた。

 向かいに座る彼女、尾羽月さんはそわそわ、細い指同士をくるくると回しながら、いつ俺に声を掛けようか様子をうかがっているように見える。

「尾羽月さん」「!」俺の呼びかけに彼女の肩が跳ねる。

「な、なんだ蒼一」「話かけるタイミングを、見計らっていたでしょう」俺がそう聞くと彼女はギクッと顔を固めた。

「ソンナコトナイゾ」「そわそわしているので、違うなら」と話しの引き出しを引っ込めようとしたら彼女は「ち、違くない!そうだ、蒼一に色んなことを聞きたくて」「そわそわ、が収まらん」と真っ赤な顔でそう、言う。


「なんでも聞いていいですよ」「まことか!?」「まことです」さぁ、どうぞと質問を答えるぞと彼女からの質問を待ちかまえていると。

「そう言われると、聞きたいことがたくさんあって絞れぬ」「大丈夫ですよ、俺は逃げないし隠れもしません」「む、なら待ってくれ」

 俺がそう言ったタイミングで「お待たせいたしました」と八重さんがお茶とお茶菓子を持って入ってきた。

目の前に高級そうな練り切りが置かれる、お茶も新茶だ。

「ここまで、していただかなくても」俺は、めったに食べたことのない練り切りをじっくりと見つめていると。

 八重さんは「ぜひ、召し上がってくださいな、鳳京では食べなれていらっしゃると思って……。まさか、尾羽月様のようにお団子の方がよろしかったでしょうか?」と心配そうに言われてしまった。

 目の前の彼女は、小さな菓子皿にみたらし団子三本と、薄めのお茶であった。

 練り切りにも興味があるのか、団子を食べながら目をキラキラさせている。

 それを見た八重さんが尾羽月さんに、「尾羽月様、そちらのお菓子は蒼一様のでございますよ」と自身も余りものであろう大福を口にしながら注意するも。

「きらきら……。」「お花……。むむむ、でも私には箱根堂(はこねどう)のみたらしが……。」と自分のお団子と俺の練り切りを交互に見ながらうなっている。

 俺は、あまり甘い物は口にしないため、菓子切を使って、切って彼女の口の前に持っていく。

「む、いいのか?蒼一のお菓子なんだぞ」「あまり、甘い物を食べる習慣が無くて」そういって、俺は彼女の口に練り切りを入れてあげると。

 彼女の瞳はさらに大きくなり、輝きが増したように見えた。

 俺の甘い物をあまり食べないという発言に八重さんは「そうでしたか、なら今からでも塩っ気のあるものを」と煎餅を持ってこようとしたが。

「大丈夫です、お出しされたものは頂きますから」と断りを入れると、「そう、ですか」と腰を下ろした。

 練り切りをくれたお礼、なのだろうか。

 彼女は、団子を一本、俺の菓子皿に置いた。

「特別だぞ」箱根堂のみたらしはおいしい、蒼一にも食べてほしいと彼女は笑う。

「じゃあ、いただきます」「いいぞ」

 一口、口に入れるだけで醤油の風味が鼻を抜ける、団子ももちもちとしており甘い物が苦手な俺でも一本食べきってしまった。

 それを見て、彼女はふふふと笑いながらまた自分の団子にかじりつく。

 食べ方が少々やんちゃなため、みたらしの餡が口周りについているのを、八重さんがちり紙で拭う。

(尾羽月さんが、神なのはなんとなく見た目や周りの空気で分かったけれど)

(八重さんのこの普通の人に見えて、少し神様寄りの雰囲気があるのはどうしてだろう)

 俺は、お茶を飲みながら。

 尾羽月さんの世話を焼く八重さんを取り巻く周りの雰囲気に目が行ってしまっていた。

 それに気が付いたのか彼女は、コホンと咳払いをし。

 「さて、尾羽月様、蒼一様」「お二人が無事にこうしてお顔を合わせることができたということは、次にやることはなんでしょう」と話題をこちらに振ってきた。

 尾羽月さんは、んー、と言って考える素振りを見せている。

「ここは、もう少しお互いについて知る、自己紹介の時間といたしましょう」ね?蒼一様と八重さんは笑顔でこちらを見る。

 俺は、「いいですね、俺はお二人のことを知らないので」と話に乗ることにした。

 では、誰からと順番決めの話になったが、俺は「八重さんの雰囲気が、朝羽村の人たちとなんだか違う」と話すと。

 じゃあ、手本としてと自身の紹介からしてくれることになった。

「では、自己紹介を……。もう何年も自身を紹介なんてしてませんから、手短に」

「私、八重は、尾羽月様のお世話係なのはもうご存じだと思いますが、蒼一様は気づいていらっしゃいますね」

にっこりと笑うと、彼女は続ける。

「人間では、ございますが元はこの朝羽山の頂上、遥か上空にある鳳凰神(ほうおうしん)の神域、天尾家本家の巫女を務めておりました」

(だからか……。)

 八重さんは神域で巫女をやっていたそうだ、尾羽月さんが生まれて本家から尾羽月さんのご両親がこの家を神域から離した時に、優秀な巫女として共にこの朝羽村に屋敷を構え、神域とこの屋敷を行ったり来たりしていたらしい。

「なので、若干人間より、頑丈でございます。」私の紹介はこれくらいにしましょうかねと八重さん自身の紹介を終わらせようとしたため

 俺は、待ってくださいと。

「その、周りの煌めきも神域の加護……。でしょうか」

 俺の発言に、八重さんは最初は目をぱちくりさせていたが、あぁと言うと。

神気(しんき)のことでしょうか、そうですねぇ私は視えないのですが蒼一様はそういうものがお見えに、だから先ほどから私の周りをご覧になっていたのですね」

 神気とは、一度または複数回、神域や神と交流を持った人間が放つ淡い光のようなもので、神や上位存在と関われば関わるほどその光は強くなるという逸話がある。

 合点がいきました、と八重さんはそう言う。

「事前に、そう云った本や資料を読み漁っていたので……。」眼鏡を上げてそう答える。

 尾羽月さんは、話についていけないようで、少しムッとした顔をしている。

「……ばあや」「はい、どうなさいました」「私も、蒼一と話したいぞ」

 さらにムッと!した顔で八重さんに抗議すると、八重さんは。

「ばあやは、もう結婚できないから蒼一様は取りませんよ」と返すも尾羽月さんはムッとした顔から戻らない。

 「それはもうたくさん聞いているぞ!」と言うとそっぽを向いてしまった。

「…拗ね」「……拗ねてないぞ」「……。」

 俺が言いかけた言葉に反応する、体ごと俺と八重さんからそっぽを向いているが、尾羽だけは俺と八重さんの会話を聞いているみたいに

 ふわふわと動いている。

「おへそを曲げる癖が、直らなくて……。この八重も尾羽月様のお母さまも手を焼いておりました……。」

 となぜか、回想モードに入りそうになった八重さんは、いけませんねまずは尾羽月様がこちらにまた興味を向けてもらわねばいけませんから。

 蒼一様、お耳をと、八重さんが耳を貸すように言う。

 俺は、されるがままに彼女の言葉に耳を傾ける。


 んん、と咳払いをして。

「……尾羽月さん」「……。」「尾羽月さんは、俺のこともっと知りたいって思わないんですか?」

 この問いに、彼女の一番長い尾羽が揺れる。

 (このまま行くんですか?)と八重さんに確認を取ると。

(ばっちりです、あともう一押し)の合図を出されてしまった。

 はぁ、と息をつく。

(意外とこういうことは苦手なんだよな)

「……夫婦になるなら、俺はもっと尾羽月さんのことを知りたい」

(もうどうにでもなれ……。)

「だから、尾羽月さんのことを改めて俺に教えて、くれませんか?」

 彼女はゆっくりと振り返る。

 俺は止めたいのに口が止まらない。

「何があったのか、全部……。」

 

 そこまで、言うと彼女は少し機嫌を直したのか完全に俺の方に向き直っていた。

 俺は、彼女の5人目の婿となる。

 書類に目は通したし、見合いのようなものだってした。

(あの時の見合いの人ではない)

 俺が彼女のことを知りたいと声を掛けたときと見合いの時の彼女の纏う神気が全く違ったから。

 だから。

(貴女が傷つかない範囲で)

(俺に貴女のことを教えてほしい。)

(……家族になるなら、貴女の傷も背負っていきたい)

 俺がそう考えている向かいで彼女はほんの数分前の調子を取り戻していた。


「そうか!蒼一は私のすべてを知りたいんだな!」

 白金の瞳を細めて彼女は笑っていた。

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