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路地裏の亡霊たち  作者: Nova
第1章:Set Fire to the City

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The Lost City

 この日は程よく晴れていた。最初に来た時は霧がかっていて薄暗い街だと思ったものの、街中に出てみるとそうでもないらしいとエミリアは気づいた。レオンの送ってくれた住所をマップアプリで確認すると、目的地までのルートが端末に表示されている。

 目的地はセントラルスクエアのカフェ&バー・マスカレイドだ。月影のビルがあるエリアはルミナスイーストと記載されている。主に月影関係の設備や関係者の居住区画などで構成されたエリアであると、説明が記載されている。エミリアがふとマップ全体を見てみると、街には方角ごとに幾つかの区分けがあり、マップにはその各エリアごとの名称と、簡単な説明書きが載っている。


「……この街、もしかして想像以上に広いんじゃ?」

 Lost Cityは、街単体での自治を可能とした、ある程度の規模感のある街であることをエミリアは知っていた。しかしながら、ここまで大きな都市であるとは全く想定してはいなかった。エミリアはキュッと唇を結んで、マップを睨んだ。

 中央のエリアはセントラルスクエア、東のエリアはルミナスイースト、北は海になっていて、その湾岸沿いはソルティノースと記載されている。にも関わらず、南と西には記載がない。

「……ん?このエリア、読み込めないな……。」


 マップ上で南と西には一応の区分けがあるらしいことは見て取れる。しかしながらエリア自体はグレー表示になっていて、エミリアが何度画面をタップしてみても情報にアクセスすることができないでいた。

「おかしいな。」Lost Cityに来る前に一通り街の情報を調べておいたエミリアだったが、円形放射状の街であることを知っているだけに、どこか不自然さを覚えないではいられない。

 しかし、何がどうなっているかの確証もなく、この場で確認することもできない以上、エミリアには、自分の持つ情報の誤りを否定することなど到底できないだろうと思った。


「はぁ、ま、今は気にしても仕方ないよね。」エミリアは端末から顔を上げ、気を取り直して街を見渡す。

 先ほどから歩いている街の景色は、官僚的な月影とは打って変わって賑やかに感じられた。人の往来も多く、想像していた街並みと近しいものが眼前には広がっている。

 月影ビルがあったルミナスイーストの区画には明確な門による区切りがあり、門衛に挨拶をしてエリアを出ると、そこから先はセントラルスクエアという中央エリアに接続しているはずだった。


「なぁ、聞いたか、まただってよ。」

「また?あぁ今朝の朝刊の話だろ?」エミリアの耳に、街行く人々の話し声が入り込む。

「火事だよ、火事。もう何軒目だって?最悪だなぁ。」

「この前、あそこの企業のフロントが荒らされたんだってね〜。ちょっと感じ悪かったからいい気味だわ。」

「やだわ、自分のとこが標的になったらどうするの?」

「その時はその時よ!気にしてたって仕方がないじゃない。」

「あぁ、ま、それもそうよね。」複数の男女が忙しなく行き交いながら情報交換をしているようだ。


 エミリアがよく見ると、セントラルスクエアに立ち並ぶ建造物は一昔前の趣を残したレンガづくりの建物ばかりだ。ルミナスイーストにあった、月影の現代的な建造物に比べると、やはりいくらか見劣りしているような気はするものの、由緒ある風情というものが感じられるため、それもまたエミリアにとっては魅力的な街並みであるように見受けられる。

 しかしながら、行き交う人々の声で語られる話題はどこか物騒で殺伐としており、しかもそれをなんでもない世間話のように語っているのが不自然に聞こえ、エミリアは思わず顔を顰めた。


「……きゃあ!」急に何者かとぶつかってしまい、エミリアはよろけた。

 後ろを振り返ると、走り去っていく人影が見える。道の真ん中で立ち止まっていたのがいけなかったと思い、エミリアはメインストリートの端の方へと身を寄せた。

「……新参者かい?お嬢さん。」ガサついて下卑た笑い声と共に、エミリアは腕を掴まれ建物の間へと引きずり込まれる。

 目の前にいるのはひょろながい手足にボロボロのコートを纏った浮浪者のような男であった。

「今日はあったかくて良かったねぇ。……しかし前を見てないのはよくないぜ?連れ込まれたって文句は言えねぇ。」男はエミリアの腕を掴んで頭の上に固定する。


「……離してください‼︎」壁際に押さえつけられて身動きがとれないでいると、エミリアは言い知れない恐怖で唇が冷えていくのを感じていた。

「……君、おイタはいけないな?」上質なシルクのように滑らかで、肌触りの良さそうな男の声が聞こえてくる。

「ちょっとその子を離してくれるかい?僕はその子に用事があるんだ。」エミリアを押さえつけていた男の後ろから、銀髪の青年が現れる。


 銀髪の青年は爽やかに微笑みながらも、一切の拒否を受け付けないような雰囲気を纏って男に近づき、腕を掴んで、一息のうちにひねり上げてしまった。

「ぎゃあ‼︎」苦悶の表情を浮かべる男に対し、銀髪の青年はなおも緩めることなく力を込めた。

「いぎっ‼︎……くっ、離せ‼︎わかった、もう消えるから離してくれ‼︎」そこまで聞くと銀髪の青年は浮浪者のような男の腕を解放した。

 男は一度だけ青年を睨んだものの、ひねられた腕をさすりながら後退り、路地の奥へと一目散に逃げてしまった。


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