第十八話 村娘のリリアーナ
「そういえばさっきのやつが私が馬に乗っていたと言っておったが、あれはどういう事なのだ? 私は自転車に乗っておったはずなのだが……」
あーそっか。
そういえば、偽装の事ウェルシュに言ってなかったな。
ちゃんと説明しておくか。
「まずこの自転車なんだけど……実は俺のスキルなんだ。だから、こんな風にいつでも出し入れができたりする」
ウェルシュが「すごいのだ」とか言って、子供みたいな反応をして驚いている。
「これにはレベルもあって、レベルが上がると機能が追加されていくんだ。さっきおじさんがウェルシュを馬に乗っているって言ってたのは、自転車の機能で自転車を馬に偽装していたからなんだ」
「イブキはすごいのだ! こんなスキル見た事も聞いた事もないぞ!」
ウェルシュが興奮した様子で、俺の顔近くまでパタパタ飛んで近づいてきた。
「分かったから、落ち着いてくれ……」
翼が顔にあたりそうで怖い。
まあ、俺のスキルっていうより最高神様にもらったスキルなんだけどね。
「という事は、これからもっと機能が色々増えていくって事だよな?! それは楽しみなのだ!」
なんでウェルシュが楽しみにしてるんだ。
けど、確かに他にどんな機能が追加されるかは俺も楽しみだな。
それじゃ、レベルを上げて機能を増やす為にも自転車を漕いで行きますか。
◇ ◇ ◇
街からだいぶ離れたな。
建造物などは見かけることが無くなり、目に映るのは広大な草原と緑の山々ばかりになってきた。
街から離れると道も整備されてなくて、ゴツゴツしてだいぶ漕ぎずらいな。
けど、人とすれ違う機会は明らかに減ってきているので、そこは助かる。
それでも人とすれ違う事はあるから、そんな時はウェルシュに俺の服の中に隠れてもらっている。
「えーまた隠れるのか? めんどくさいのだ……」って毎回言ってくるけど、なんだかんだで言う事を聞いてくれる。
けど、これは早くどうにかしないといけないな。
そんな事を思っていると、前方から女の子の叫び声が聞えてきた。
「誰か助けて!!」
目を凝らしてみると、どうやらモンスターらしきものに襲われているようだ。
俺は急いで自転車を漕ぎ、女の子の助けに向かう。
近づいて分かったのだが、どうやら襲っているモンスターはゴブリンのようだ。
体はそんなに大きくないけど、筋肉が物凄く発達しているな。
少し怖いけど、今後旅をしていたら魔物に出会う事もあるだろうし、戦ってみるか。
ウェルシュにもし俺がまずい状況になったら助けてくれるようにお願いしておこう。
「ウェルシュ、俺は今からあの女の子を助けに行く。もし俺がやられそうになったら、手を貸してくれないか?」
「それだったら、私が倒してしまってもよいのだがな……仕方ない、分かったのだ!」
よし、これで万が一の事が起きても大丈夫だな。
俺は自転車をしまい、走って女の子のもとに駆け寄った。
そして、マジックバッグからエリシアさんに貰った片手剣を取り出した。
ゴブリンは全部で3体か。
いざ目の前にすると、やっぱり怖いけど不思議と負けそうな感じはしなかった。
それに生まれて初めて剣を握ったはずなのに、妙に手にしっくりくる感覚があった。
よし、いくぞ!
俺はゴブリンのもとに進んで行った。
ゴブリンたちも俺に気づき、棍棒を持って立ち向かってきた。
「スパッ! スパッ! スパッ!」
ゴブリンたちは俺の剣に斬られ地面に倒れていた。
俺すごいな……
正直、自分でもどうやったのか分からない。
ただ、感覚的には既に剣の使い方を知っていて、身体が勝手に動いた感じだ。
あっ!
自分がゴブリンを倒せたことに驚きすぎて、女の子の事を忘れていた。
「君、大丈夫か?」
「はい、危ないところを助けて頂きありがとうございました!」
お礼を言ってきた女の子はエプロンドレスを身に着け、三角巾みたいなもので髪をまとめていてるザ村娘みたいな見た目だった。
年は俺より少し下って感じだな。
「いえいえ。それで何があったんだ?」
「実は……ここから近くの森に薪を取りに行っていて、村に帰ろうとしていた時に丁度ゴブリンたちに遭遇してしまったんです。森を必死に走り、この街道まで逃げて来たんですけど、そこで体力が尽きてしまって……最後に神にすがる思いで叫んだんです。すると、そこにあなたが現れてくれて、今こうして私は生ききることが出来ています。本当にありがとうございました……」
女の子は泣きながらまたお礼を言ってきた。
よっぽど怖かったんだろうな、まだ身体が震えているし。
けど、それはそうだよな。
ゴブリンといえば、人間の女性をさらって行き、酷い事をするっていうのがあるあるだもんな。
多分この世界でもゴブリンはそういうものなんだろう。
「怖かったよな。何か俺に出来る事があったら言ってくれ」
「……それじゃあ、私の手を握ってくれませんか? さっきから手の震えが止まらないんです……」
そんな事ならお安い御用だ。
「ああ、いいぞ」
街道では通行人の邪魔になってしまうので、近くの木の下に移動した。
しばらく手を握ってあげると、手の震えは止まり女の子が安心した表情をしている。
良かった、落ち着いたようだな。
「落ち着いたか?」
「はい、おかげさまで。本当にありがとうございました! もしよかったら、助けて頂いたお礼をしたいので、私の村まで来てもらえませんか? 食事もご馳走しますので」
「本当か?!」
ウェルシュが急に俺たちの前に現れた。
女の子はウェルシュにびっくりして「きゃああ!!」と叫んでいたけど、俺の友達と言ったら落ち着いてくれた。
「ウェルシュ、ずっとどこにいたんだよ?」
「空中にいたのだ! 人間に私の姿を見られてはいけないとイブキが言ったではないか!」
あーそうだったな。
馬車に乗っていたおじさんの件があって以来、俺はウェルシュになるべく人に会わないように気を付けてほしいと約束していた。
ちゃんと守ってくれていたんだな。
「約束を守ってくれてたんだな。ありがとうな、ウェルシュ」
「よいのだ! それでそこのお前! ご馳走してくれるというのは本当か?」
ウェルシュは女の子の方を真っ直ぐな目で見つめていた。
女の子はそんなウェルシュを見て、微笑みだした。
「はい、助けて頂いたお礼をしたいので、是非村に来てください!」
「分かったのだ! よし、イブキ! 急いで村に向かうぞ!」
まったく、何を勝手に決めてるんだよ。
まあ、急いでいるわけじゃないし、ここはお言葉に甘えさせてもらうか。
「すまない、ウェルシュもこう言っているし、村でご馳走させてもらってもいいか?」
「もちろんです、お友達の分も用意致しますね!」
「ありがとう。そういえば、君の名前をまだ聞いてなかったな。俺はイブキ、君の名前は?」
「私はリリアーナと言います」
「それじゃあ、リリアーナ。村まで案内してもらってもいいか?」
「はい、喜んで!」
こうして俺たちはリリアーナの村に向かう事になった。




