第十四話 生まれて初めて自転車に乗る
俺は現在、カミンライナの城門から少し離れた街道にいる。
城門を出てすぐに自転車に乗りたかったのだが、ネット小説でレアなスキルは人に見られると騒ぎになる可能性がある事を知っていたから、人目の少ない所までやってきた。
「この辺りまでくれば自転車を出しても大丈夫だろう」
まずは、頭の中で自転車をイメージして……
次にこの場に自転車が現れるように念じる……よし、問題なく現れたな。
それじゃ、早速乗ってみよう。
自転車に乗るのは生まれて初めてだけど、よく自転車の動画を見ていたから乗り方は頭の中でバッチりイメージ出来ている。
まずは、サドルにまたがって……次にハンドルを軽く握る。
その後は、ペダルに片足を置いて、反対の足で地面を蹴ってバランスを取りつつ、もう片方の足をペダルに乗せて漕ぎ始める。
「バタンッ!」
人生そうは上手くいかないようだ。
俺は自転車をひと漕ぎした途端、バランスを崩して転倒してしまった。
前にネットで自転車に乗れない大人の割合は約1.4%という記事を見た事があったから、俺は簡単に乗れるだろうという謎の自信があったんだけどな。
――これは大人しく、地道に練習するしかなさそうだな。
ここから俺の長い長い練習が始まった。
本来だと、自転車に乗れるようになる為に、ペダルを外して自転車の運転感覚を身につけるやり方だったり、自転車専用のスタンドを使ってペダルの漕ぎ方を確認したりするんだろう。
だけど、今はペダルを外す道具も自転車専用のスタンドもないから、俺は何回転んでもひたすら自転車に乗ってペダルを漕ぎ続けた。
◇ ◇ ◇
「ハァ、ハァ、ハァ」
周りを見渡すと、すっかり日は沈み始めて足元を確認するのが難しくなっていた。
あれから多分3時間ぐらいは、自転車に乗れるようになる為にひたすらペダルを漕ぎ続けたと思う。
おかげで拙いながらも、転ばずに少し乗り進めれるようになった。
出来なかった事が出来るようになるのはこんなにも嬉しいものなんだな。
よしっ、これでようやく自転車の旅をスタートさせられる。
ただ、今日はもう暗いし、夕食を食べて寝るとするか。
俺は近くの森で薪を集めてきて、カミンライナで買っておいた魔道具で火を起こした。
この世界には魔道具があり、丁度カミンライナに魔道具店があったので興味本位で入ってみたのだが、そこでこの火をつける魔道具を発見した。
この世界には魔法があるって最高神様が言ってたから、多分火魔法もあるんだろうけど、今は魔法が使えないから便利そうだと思って買っておいた。
他にも色んな魔道具があって気になったのだが、所持金の都合で諦める事にした。
火を起こした後は、マジックバッグからパンを取り出し、夕食を済ませた。
相変わらず質素な味だな……
翌朝――
「さて、まずは自転車を出しますか」
例のごとく自転車を念じて目の前に出現させる。
昨日は拙いながらも乗り進めれるようになったけど、寝て起きたらリセットなんてオチはないよな……
少し不安になりながら、ペダルに足を乗せ漕ぎ始める。
すると、自転車は風を切り、前に進み始めた。
「お、おれ……自転車に乗れてるぞ!!」
俺は確実に自転車に乗れるようになった事が嬉しくて、ついそう呟いた。
昨日あれだけ練習したかいがあったな。
ということはようやく……
「それじゃ、ここから俺の自転車の旅を始めるぞ!」
俺はどんどんペダルを漕いでスピードを上げていく。
歩くよりも遥かに早いスピードで進むのに、歩くよりも疲れないなんて……本当に自転車は凄いな。
昨日は暗くてあんまり分からなかったけど、景色を見ながら自転車を漕ぐとこんなにも気持ちいいものなんだな。
ますます色んな場所を自転車で漕いで見たくなってきた。
その後、俺はひたすら街道を自転車で進み続けた。
途中、馬車とすれ違った時は急いで自転車をしまい、見られないようにした。
ただ、流石に少し怪しまれたりもしたけど、何となく誤魔化しておいた。
この街道は人とすれ違う回数がそんなに多くはないからまだいいけど、今後人通りの多い道を自転車で乗り進めるとなると、毎回自転車をしまわないといけなくなるから面倒だな。
これは何か対応策を考えないといけないな。
そんな事を思いつつ自転車を乗り進めていると、急に頭の上に何かが乗った感触がした。
「うん?」
何だと思って上を向くと……
そこには赤い小さいドラゴンがいて、俺の方をじーっと見つめていた。
「…………えっ?」
俺はこの急すぎる展開に驚いて、自転車から手を放してしまい転倒した。




