第2話「潮の届け物」
太陽がまだ崖の頂を照らしていない、そんな早朝。石と古びた木材でできた質素な家の一室で、一人の少年がベッドから身じろぎした。少年ミッコは緑色の瞳をパチパチさせ、たった一つの窓から差し込む光に目を覚まされた。
彼はガバッと起き上がり、太陽に焼かれた褐色の肌に、いつものように乱れた濃い茶色の髪を手でかき混ぜた。そして、お決まりの服装に着替える。ゆったりとしたズボンに革のサンダル、そして前が開いたベスト。ドアの横に置いてあった大きな空っぽのズタ袋と藁のバスケットをひっつかむと、ミッコは突然、何かに気づいたかのようにハッとした。やばい、遅刻だ!
ミッコは家を飛び出し、タッタッタッと土の道を駆け下りた。彼の村は崖にへばりつくように作られており、彼の家もその一つだった。眼下には、黄色とオレンジ色が混じり合った乾いた空気の街が広がり、一日が始まろうとしていた。それでも、乾燥した風景の合間から、生命の緑が力強く芽吹いている。
小さな市場の前を通りかかると、太った店主の威勢のいい声が響いた。
「おーい、ミッコ!」
ドーンと響く声に、ミッコはハァハァと息を切らしながら足を止めた。店主はニヤリと笑い、赤く熟した果物をひょいと投げる。ミッコはそれをパシッと反射的にキャッチした。
「どうせ、朝飯も食ってねぇんだろ?」
ミッコは果物をガブッと一口。「おじさんの言う通りだよ!」と口いっぱいに頬張りながら答えた。
「なら、さっさと行け! 今日も大漁にしろよ、いいな?」
「任せといて!」ミッコはそう叫び返し、再び走り出した。
彼は村の出口を守る大きな丘を駆け上る。頂上には、天然の岩が作り出した巨大なアーチがあり、それが村の門となっていた。アーチをくぐった瞬間、世界がパーッと開けた。広大な青い海が地平線まで広がり、眼下には金色の砂浜が彼を待っていた。砂浜の隣では、土の道が鬱蒼とした森の中へと消えている。道にはすでに何人かの村人や、二足歩行の中型のドレイクが引く荷馬車が行き交っていた。ミッコはそれを見てニヤリとする。
「どいたどいた、そこのノロマなガラドレイク!」
彼が叫ぶと、ドレイクはまるで意に介さない様子で「ギャー」と鳴いただけだった。
坂を駆け下り、足が砂浜に着くと、彼の仕事が始まる。ミッコは『拾い人』だ。少なくとも、会ったこともない両親がそうだったから、お前もそうあるべきだと、村の大人たちは言う。
それから数時間が経った。バスケットは銀色の魚で、ズタ袋は貝や海藻でいっぱいになった。太陽は真上に昇り、ジリジリと肌を焼く。砂浜の先、森の中に道が消える辺りに、今にも壊れそうなほどボロボロの小屋が建っていた。そこがミッコの基地。村に持ち帰れない『宝物』を保管しておく、彼だけの聖域だ。
小屋の中で、彼は水辺で見つけた白く滑らかな石を、これまた手作りのガタガタな棚にコトンと置いた。「これ、結構きれいだな」彼は独り言を言う。「商人、買ってくれるかな…?」
その時、お腹がグゥゥ〜っと鳴った。「よし、罠を見に行くか! 今日はクリスタルロブスターが食いたいな、へへへ。」
彼は基地からほど近い、浅瀬から黒い岩が突き出ている場所へ向かった。だが、水中に仕掛けたカゴの中は空っぽ。彼の笑顔が消えた。
「あーあ…今日もロブスターはなしかよ」彼はがっかりして、チャプンと水を蹴った。「売物の魚を食うしかないか…しょーがねぇな……」
その時、水面に浮かぶ黄色い何かが目に留まった。彼はそれを拾い上げる。今朝もいくつか見かけたものだ。彼はそれを専門家のように、じーっと分析する。もっとも、何も知らないのだが。
「テセウキ兄貴はこれ、なんて言ってたっけな? ポ…ポ…ポロン…ポロンゼ!」彼は誇らしげに宣言した。(本当はブロンズだよ、ミッコくん…)「クリスタルロブスターは水の中の毒に敏感だからな」彼は声に出して推理する。「きっと、この金属が奴らを傷つけてるんだ…」
ミッコが水から上がろうと一歩踏み出した、その時。足が硬い何かにガンッとぶつかった。鋭い痛みが全身を貫く。「イテッ! 小指だ、最悪!」
彼が怒りに任せてぶつかった場所を見ると、そこには赤の模様が入った銀色の物体があった。それは金属製のパイプのようで、長くて幅が広い。好奇心に駆られて拾い上げてみると、ズッシリと重い。彼はグググ…と力を込めてそれを持ち上げ、ポロンゼの欠片を分析した時と同じ真剣な顔つきで眺めた。そして、まるで何かに導かれるように、その筒に自分の腕を差し込んでみた。大きすぎるが、これが腕にはまるものであること、防具の一部であることを、彼はなぜか理解した。「うおぉ…すげぇ!」
彼が水から上がり、濡れた砂の上を歩いていると、同じような別の欠片を見つけた。今度のものは更に大きく、同じような筒状の穴が開いているが、その先には巨大な金属板が伸びていた。それは先程のものよりもずっと重かったが、ミッコはそれに魅了され、二つのパーツをガシャン、ガシャンと引きずって運んだ。
息が上がってきた頃、彼は水際に、金色の装飾が施された白いマントに包まれた、さらに多くの奇妙な金属の塊があるのを見つけた。彼は走った。いや、走ろうとした。二つの金属パーツが重すぎて、バランスを崩しながら。
ようやくたどり着くと、彼は持っていたパーツを砂の上にドサッと置いた。もっと宝物が見つかるかもしれない。彼はワクワクしながら金属の山に手をかけ、邪魔な白いマントを掴んで、バサッとどかした。
だが、マントの下から現れたものを見て、ミッコは叫んだ。それは、恐怖に引きつった、甲高い叫び声だった。
そこにあったのは、ただの金属の塊ではなかった。
金色の髪の少女が、壊れたその鎧の中で、気を失っていたのだ。
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虚無には重さがあった。それは底もなければ水面もない暗黒の海であり、時間そのものが溺れてしまったかのような真空だった。最初は恐怖があった。孤独な思考の中に閉じ込められた存在であることへの、声なきパニック。彼女はその無の中を歩き、実在しない反響や手触り、記憶を探し求めた。徐々に恐怖はすり減り、空虚な諦念へと変わっていった。彼女は無だった。それでよかった。彼女はただ、『存在』していた。
だが、それも終わる。
一つの火花。唯一無二の、ありえない光の火花が、太陽のように花開いた。初めて、彼女は見た。手の形、自分自身の指を。体のシルエットを。そして視覚と共に、感覚が訪れた。光は彼女をさらい、失われた感覚の宇宙へと投げ込んだ。海水の刺すような冷たさ、遠い太陽の暖かさ、塩と煙の匂い、空腹の痛み、恐怖…古く、圧倒的な恐怖。そのすべてが一度に彼女を襲い、感覚の雪崩となった。
光はフラッシュとなり、彼女の知らない人生を映し出す壊れた鏡の破片となった。紫色の空の下での戦い。鋼の輝き、血の味。炎に包まれ、雲から墜落していく巨大な金属の船。叫び声。怒りと苦痛の叫び声。そして炎。木造の家を飲み込み、壁を舐め、すべてを灰に変えていく炎の海。
混沌の中の声、近すぎる、内側すぎる囁き。「…お前のせいだよな…?」
「あああああああああああああああああああああああああ!」
その叫び声は本物で、彼女自身の喉を引き裂き、悪夢から現実へと彼女を叩きつけた。短い金髪の小柄な少女は、巨大な葉をマットレス代わりにした手製のベッドからガバッと飛び起きた。心臓がバクバクと音を立てている。彼女は薄暗い小屋の中にいた。
その瞬間、浅黒い肌の少年がシルエットとなって戸口に現れた。その手には、血で濡れて赤く光るもの――短剣が握られている。
夢の恐怖が現実と混じり合った。彼女は再び「きゃあああ!」と甲高い悲鳴を上げた。少年は不意を突かれ、後ろにピョンと跳びのいた。緑色の目が見開かれている。彼は彼女の叫び声に驚き、口を開けて一緒に叫んだ。同じくらい必死な叫び声だった。一瞬、小さな小屋は、お互いに怯える二人の見知らぬ者のカオスなシンフォニーで満たされた。
やがて埃が――そして心臓の鼓動が――ようやく収まると、ミッコはまだおっかなびっくりしながら、湯気の立つシチューを木の器に注いで差し出した。魚とハーブの香りが、場の空気を和らげるのに役立った。彼は少女の前に器を置いた。彼女はガタガタの椅子に座り、マントにくるまって彼を見つめている。
「な…名前は?」彼は少し震える声で尋ねた。
彼女は彼を見つめ、小鳥のようにコテンと首を傾げた。その言葉は彼女の唇には奇妙に響いた。「…な、まえ?」
「うん!名前だよ。君の名前は?俺はミッコ。」
彼女の顔から混乱が消え、苦悶に変わった。透き通った目にみるみる涙が溜まり、下唇が震え始める。「わ、私…わからない!」彼女の声はすすり泣きに変わった。
「ええええええっ?!」ミッコの叫び声は、天井から吊るされた干し魚を揺らすほど大きかった。
彼女は覚えていなかった。何もかも。彼がよこした歪なスプーンの持ち方さえも。まあ公平に言えば、彼自身が彫ったそのスプーンを使うのは、それ自体が一種の挑戦ではあったが…
ミッコは気まずそうに後頭部を掻きながら、状況を説明しようとした。浜辺で、あの重い金属の服の中に倒れていた彼女を見つけたと。だから、そこから彼女を出してやらなければならなかったと。そして、その、ええと…彼の顔はみるみる真っ赤になった。「き、君の服を…脱がせたんだ…」彼は床に向かってつぶやいた。
少女は彼の羞恥を理解していないようだった。彼女はミッコが寒い日のために小屋に保管していたマントに暖かく包まれている。彼女は自分の短い濡れた髪に手をやり、その感触を確かめた。ミッコが慌てて「びしょ濡れだったから、風邪をひくと思ったんだ!変なことは何もしてないって誓う!」と身振り手振りで説明している間も、彼女は自分の髪の感触に夢中になっていた。そして両手で髪をかき上げたその時、マントが肩からスルリと滑り落ち、腰のあたりにたまった。
ミッコは「ひゃっ!」と奇声を発し、とんでもない速さで振り返って両手で目を覆った。彼は本気で顔を隠した。なんて純粋な少年なんだ。「そ、そんな格好でうろつくな!服を着て!」彼はまだ目を覆ったまま、服が入ったカゴを指差した。彼が寒い日のために保管していた服だ。なんて用意周到な少年なんだ!
昼食の後、そしてミッコが「シャツ」というものを初めて見たような相手に着方を教えるという、非常に気まずい時間を経て、彼は彼女を外に連れ出した。彼女のものだった奇妙な素材の服が、枝にかけられて太陽の下で乾いている。
「君の服、君には大きすぎるな」彼は砂浜に置かれた鎧のパーツを見ながら言った。
「わからない」彼女は、彼がもう聞き慣れてきたセリフを返した。
「もしかしたら、これを着たら体が大きくなってピッタリになるかも!」彼は自分の論理に得意げになって提案した。
記憶を失っているのは彼女の方なのに、ミッコの考えが馬鹿げていると、驚くほどの明晰さで指摘したのは彼女の方だった。
彼は話題を変えようと、胸を張った。「よし、このパーツをひっくり返してみせる!」彼は鎧の胸当ての縁に掴みかかり、力一杯引っ張った。そして、引っ張った。顔が赤くなった。だが、びくともしない。「これは…男の仕事だ!」彼はぜえぜえ言いながら言った。「男は…その…女に力仕事はさせないもんだ!」彼女は彼の男らしい演説に、純粋に感心してパチパチと拍手した。それが彼の無様な失敗を一層恥ずかしいものにした。
「…ちょっと、手伝ってくれるかな…へへへ…」彼はついに降参した。
彼女は小さく、素直に微笑んだ。「もちろん!」
二人は胸当ての前に立った。「せーのでやるぞ!いち、にの…!」
(さーん、はなかった!)
彼が「さん」と言う前に、少女は一人で、軽々と、重い金属板をまるで貝殻のようにひっくり返した。金属がドンッという鈍い音を立てて砂に着地した。
ミッコはあっけにとられた。彼女の力は…恐ろしい。そして、魅力的だ。彼が何か言おうと口を開いたが、彼女の顔を見て言葉を失った。
笑顔は消えていた。彼女の目は、胸当ての中央に刻まれた紋章――稲妻に巻かれた様式化された竜の紋章――に釘付けになっていた。その瞳から生命の輝きが消え、恐ろしいほどの空虚が取って代わった。彼女はこの浜辺よりもずっと遠くの何かを見ていた。そして、その手に始まった震えから察するに、それは、何かとてつもなく恐ろしいものだった。