第1話「雲の中の目」
嵐が来ようと、どうでもいい。
石畳を打つ金属のブーツの音だけが、唯一意味のある音楽だった。コツ、コツ、コツ…一定で、容赦のないリズム。彼女と、四人の仲間たちのリズム。白いマントがバサッと音を立てて翻り、その重みが馴染んだ感覚として肩にかかる。
――いよいよだ。やっと……
廊下を抜けた瞬間、世界が――開けた。
声なき雄叫びが耳を打つ。都市中の視線だ。何千という人々の。途方もなく高い、金属と黒い木材でできた建物の窓に、ぎっしりと詰めかけるようにして。蒸気で空をブンブンと飛び回る小型船の甲板に、鈴なりになって。人の海。
そして、何よりも――艦隊。
空に停泊し、彼らを待っている。鉄と青銅の巨人たちが。
そのために、私たちはここにいる。
彼女は自身の鎧の冷たい金属を感じた。胸当てに刻まれた赤いラインが、その義務を思い出させる。彼女の視線は、前方の人物にじっと固定されていた。リーダー。彼の金色の短髪だけが、この灰色の日にあって唯一、本物の輝きを放っていた。
彼は振り返らない。決して。
彼の隣では、銀髪の男が、その虚ろな瞳とは決して交わらない穏やかな笑みを浮かべている。一方、茶髪の男の顔には、自信が満ち溢れていた。その後ろ、黒髪の女はまるで氷の彫像のようだ。その意識は、ただ一点に集中している。
そして、私。
真面目。そして、揺るぎない。……そう言われている。
五人は司令ステージの階段を上った。群衆の沈黙が破れ、ワアアアッと鼓膜を破るような大歓声となって爆発した。彼女はそれを無視した。彼女の意識は、待ち受ける男にのみ向けられていた。
そこで、彼は現れた。『将軍』が。
長く赤い髪。顔を切り裂く一筋の傷跡。そして、見るもの全てを焼き尽くさんばかりの、緑の一つの目。彼自身が、戦争の化身だった。
リーダーは将軍の一歩後ろに立った。彼女と他の者たちは完璧な一列を成す。将軍が振るうための、五本の刃だ。
テクノロジーか魔法か、増幅された将軍の声が、空気をビリビリと震わせるほどの轟音となって響き渡った。
「『古の世界』への遠征は、ただ今より開始する!」
返答は、何千もの喉から放たれた一つの叫びだった。鋼鉄と蒸気と、激情の咆哮。彼女は剣を抜いた。シャキン!と音を立てた刃が、嵐の空を映す。旗艦の甲板が足元でグラッと揺れ、タービンがゴオオオと雄叫びを上げて命を宿した。
彼らは、昇っていく。雲を切り裂いて。
古の世界……さあ、行こう。
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何週間も。
果てしない空と、無関心な海が続くこと、何週間も。天に届くほどの巨大な森も、空を引っ掻くような山々も、とうに過ぎ去った。代わりに広がるのは、単調で無限の青。旅は、だらだらと続いていた。
旗艦の金属製の船室内は、退屈な空気でずっしりと重かった。もはや完全な鎧は身に着けず、普段着姿の小さな集団は、時間をつぶそうと必死だった。
「なあ、ブリザード。『古の世界』の連中と、揉めたりすると思うか?」
そう尋ねたのは、ベッドにごろ寝しながら天井を眺めていた茶髪の男、レインだった。
黒髪の女、ブリザードは、日記から視線を外さない。机に向かい、そのペンは感心するほどの集中力で紙の上を滑っていた。「接触は済ませた。同盟も確立した。私たちを攻撃する理由はないわ、レイン。」
「うううっ…」レインは苦悶の声を漏らし、ベッドの上でごろりと寝返りを打った。「でも、時間かかりすぎだろ!他の連中は、こんなにかかってない…」
ブリザードが答えようとした、その時。ガチャリとドアが開いた。銀髪の男、スノウが彼女――サンダーにぴったりと続いて入ってきた。
「彼らは艦隊丸ごと連れていく必要はなかったからな、レイン。」スノウの声は、いつも通り穏やかだった。
レインはベッドからがばっと身を起こした。「それだよ、スノウ!なんでこんな大艦隊が要るんだ?誰かに戦争でも仕掛けるってわけでもないのに…」
「それでも、私たちにはこれが必要なの。」
彼女が口を開いたのは、それが初めてだった。その声は固く、決意に満ちていた。「私たちの敵も、私たちと同じ目的を狙っている。だから、戦争への備えはしておかなければ。」
レインは彼女をじろりと見た。その目は疲れと退屈に満ちている。彼はまた苦しげなうめき声を漏らすと、壁の方を向いてしまった。「お前のその忍耐強さが羨ましいよ、サンダー…」
サンダーの唇から、小さなため息がこぼれた。それに続いて、困ったような安堵の笑みが浮かぶ。
ブリザードはパタンと日記を閉じた。「将軍との会議はどうだった?」
「時間を稼いでいる」とスノウは答えた。「他の部隊の多くも、レインと同じように苛立っている。」
「当たり前だろ!」壁の向こうから、レインのくぐもった声がぶつぶつと聞こえた。
ブリザードはピクリと眉をひそめ、サンダーは苦笑した。「『大騎士』は何か言っていた?」ブリザードは、今度はサンダーに尋ねた。
「いいえ。何も。」
「何か知ってるなら、吐かせろよ!」とレインが文句を言う。
「私にそんな説得力はないわ」とサンダーは答えた。
「あるべきだ」と、スノウが軽く挑発するように言った。「何しろ、君は彼の妹なんだから。」
「仕事のことになると、兄様は…とても口が固いから。」サンダーはそう言うと、船室の大きな窓へと歩み寄った。外には曇り空が広がり、その下には海。艦隊が隣で編隊を組んで飛んでいる。「あんなに過保護じゃなければいいのに。私も『天騎士団』の聖騎士なのに。」
天騎士団…私は、ここにいるために戦ってきたんだ。
その思考は、中断された。何かがおかしい。彼女は窓にぐっと身を乗り出した。「ねえ…何隻かの船が、上昇してる。」
何が起きてるの?
その疑問が頭に浮かんだ瞬間、船室のドアについている水晶が――**ピカッ!**と脈打った。赤い光。声なき危険信号。
「攻撃か?!」レインがベッドから飛び起きた。「誰からだ?!」
パニック。必死の動き。四人ががしゃんがしゃんと音を立てて鎧を身に着ける。ようやく準備が整い、スノウがドアノブに手をかけた、その時――
…暗転。
船室は、絶対的な暗闇にすっぽりと包まれた。非常灯も点かない。
本能的に、全員が唯一の光源――窓へと振り返った。
だが、彼らが見たのは、空ではなかった。
眼球だった。
巨大な、病的な黄色い、眼球。太く黒い血管が表面をうねうねと走り、その中央には、垂直に裂けた瞳孔。窓全体の高さを占めるほどの、巨大な黒い裂け目が、虚空をじっと見つめていた。
一番近くにいたサンダーは、カチンと凍りついた。足は床に縫い付けられ、息も喉の奥で止まっている。
そして、一瞬の後。その巨大な瞳孔が、ぐるりと回転した。
その視線が、真っ直ぐに、彼女を射抜いた。
巨大な瞳孔は、彼女を無視した。
亡霊のヴェールのように半透明な下瞼が、じわりと持ち上がり、閉じる。次に、黒い鱗の上瞼が下りてきて、眼球は消えた。日食のように広大な影が旗艦の上を通り過ぎ、その生き物は雲の中へとすっと消えていった。
逃げろ!
それは思考ではなく、本能だった。四人はドアから飛び出し、メインデッキへと突進した。船の非常灯がチカチカと狂ったように赤く点滅している。兵士たちがあたふたと走り回り、その顔はパニックの仮面を被っていた。
ようやく外に出ると、嵐の猛威が彼らを迎えた。ザーザーと降る豪雨が、一瞬で彼らをずぶ濡れにする。何百メートルもある巨大な帆が、ありえないほどの強風を受けてバタバタと音を立てていた。
そこに、彼はいた。『大騎士』。ずぶ濡れの金髪が顔に張り付き、その表情は真剣な懸念に満ちていた。
「ライトニング、何が起きている?!」スノウが風の轟音に負けじと叫んだ。
ライトニングと呼ばれた男が口を開いたが、その言葉は、空を引き裂く金属の断末魔に飲み込まれた。
ドォォォン!
小さな船ではない。艦隊の巨人、マン・オ・ウォーが一隻…墜ちていく。炎に包まれ、不吉な彗星のように雲から落下し、煙と残骸の尾を引いていた。暗雲の中から、何十、何百という小型の竜が現れ、ずらっと艦隊に襲いかかった。
戦争が始まった。砲撃が炸裂し、ヒュンヒュンと銛が射出され、大砲が轟く。テスラコイルがバチバチと音を立てて稲妻を放ち、甲板の魔術師たちが障壁や光の槍を放つ。
「戦闘に入れ!全力を尽くしてこの船を守れ!」ライトニングの声が、混沌を切り裂く雷鳴のように響いた。
だが、船がぐらりと激しく揺れ、全員が体勢を崩した。サンダーは濡れた甲板に滑って転び、手すりを掴んで立ち上がった。その時、彼女の目がカッと見開かれた。彼女だけではない。そこにいた五人全員が言葉を失い、息を呑み、その目に純粋で原始的な恐怖を宿していた。
古の世界…竜の国…
父が語ってくれた伝説。師の物語。兄様の話。それはただの空想、子供を怖がらせるための作り話だったはずだ。空飛ぶ船と魔法のあるこの世界でさえ、それはあまりにも…
まさか…本当、だなんて…
雲を切り裂く稲妻のピカッという閃光の中、そのシルエットが浮かび上がった。艦隊を襲う竜たちとは違う。それは、翼を持つ山だった。
旗艦の全長は670メートル…その思考が、狂気の海の中で論理という錨になろうとする。670メートル…でも、あれは…あれは旗艦よりも、でかい…
その巨体が、彼らに向かって飛んでくる。緑がかった黄色の炎の奔流が巨竜の鱗を撫でたが、ちっとも効いていないようだ。その時、将軍が甲板に現れた。
「戦う以外の選択肢はない!」
彼のマントが風にはためく。彼は甲板の端まで走り、跳んだ。その足から、赤く燃え盛る炎がゴッと爆発し、彼をロケットのように撃ち出した。真っ直ぐに、怪物へと。
「ファイアが勝てなければ…ここにいる誰も…」スノウの声が隣で震えた。
ライトニングは妹のサンダーを見た。「ついて来い!今だ!」
スノウは彼をはっとして見つめた。その虚ろな目が一瞬見開かれ、そして細められた。彼は理解した。
五人は巨大な船の中へと駆け込み、内部デッキへと下りていった。そこには小型船が停泊していたが、多くは既に出撃していた。レインとブリザードが一隻の強襲艇に飛び乗り、がちゃがちゃと発進準備を始める。
「何をしているの?!私たちは戦える!」サンダーは、スノウと共に船の外で待つ兄に叫んだ。「私たちは天騎士団よ!」
スノウが何か言おうとしたが、ライトニングがそれを遮った。「誰かが『古の世界』に辿り着かなければならない。」
「誰かが?なぜ『誰かが』?『私たち』じゃないの、ライトニング?!」
沈黙。彼女の問いが、混沌とした空気の中にぽつんと浮かぶ。彼女は兄の腕を掴み、答えを要求した。
彼はスノウを見た。「…任せたぞ。」
サンダーの目が絶望にカッと見開かれた。スノウが彼女をぐいっと力強く船の中に突き飛ばす。ライトニングが**ガシャン!**とハッチを閉め、外からロックした。
「いやっ!」
スノウが彼女を羽交い締めにする。彼女はバンバンと金属を殴りながら、兄に向かって叫んだ。ハッチの小さな窓から、彼の顔が見えた。優しく、悲しい笑みを浮かべて。
「生き延びろ、アルマ…」
アルマ?
「待って!離して、ケイン、離して!兄ちゃん!兄ちゃん!ラムザ兄ちゃん!!!!」
船がふわっと宙に浮き、旗艦を後にしていく。アルマはまだ兄の名を叫んでいた。レインとブリザードが必死に船を操り、他の船や竜、味方の攻撃をすり抜けていく。
最悪の事態を切り抜けた、そう思った、その時。影が彼らを覆った。撃ち落とされた竜が、鱗と肉の塊となって、彼らの船に激突した。
――衝撃。
世界が、ばっくりと二つに割れた。その衝突で、アルマは破壊された船から投げ出され、冷たい水の中へ。仲間たちとはぐれて。
彼女は沈んでいく。水面の戦争の音は、ごぼごぼという遠いノイズに変わっていく。艦隊の残骸や、仲間と竜の亡骸が、彼女と共に海の暗闇へと沈んでいく。
肺の中の空気が尽きた。意識がフッと遠のいていく。
…終わりだ…
その時、彼女の胸に、小さな光がぽっと灯った。そして、優しく、懐かしい声が、心の奥底に響いた。
「ずっと…愛してる…」