表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

二.近づく2人

 始業式から1週間経ったある日。久々に部活があった。所属している卓球部は他の部活に比べ部活の日数が多い。正直、疲れることが多いがもうすぐで引退だから、という気持ちがあった。

 いつものように服を着替え、体育館に向かうと顧問の大谷先生が声を上げた。

「えー今日からこの卓球部に入ることになった、中学3年生の永谷君です。」

 突然の出来事に私は目が点になった。後ろを振り返ると体操服の陽人君がいた。少し照れくさそうに口を開く。

「永谷陽人です。卓球の経験はないですが、よろしくお願いします。」と言い、深く頭を下げた。夢にも思っていなかったことに胸が高鳴った。後ろから菜々に肩を叩かれた。

「花凛、運命じゃん。いっぱい話しなよ。」うん。と私は頷いた。

 大谷先生が陽人君と同じクラスの人を聞き、私と菜々は手を挙げた。

「じゃあ、白石と尾木は永谷君を教えてあげてな。頼んだぞ。」はい、と言い私たちは頷きあった。

 貸し出しようのラケットを受け取った陽人君は不安そうな顔をしていた。

「大丈夫大丈夫。私たちが頑張って教えるから、一緒に頑張ろ!」

 そう声をかけると少しだけ表情を緩めた。

「授業中も助けてくれて、部活でも、、、申し訳ないです。ほんとにいつもありがとうございます。」

 すごく礼儀正しすぎる。でも私は陽人君のためなら──なんだってする。

「いいの、いいの。気にしないで。じゃあ始めよっか。」

 ラケットを握り締め、練習を始めた。


 6月の終わり、梅雨が明け陽人君が部活に入って約2ヶ月がたった。

「今日も部活疲れたねー」

「ね、白石さんと尾木さんに教えてもらってるからだいぶ上達したよ。」

 つい口元が緩んでしまう。

「そんなことないよ、陽人君が運動神経良いだけだから。」

 そんなたわいもない会話をしていると菜々が来た。

「もーなにしてんのよ。早く帰ろ。ほら2人とも早く帰る用意して。」

 誰よりも帰るのが早い菜々は私たちを急かす。

「分かった分かった。」

 そういい私は陽人君と顔を見合わせ、クスッと笑い合った。こんな幸せ奈日々が永遠に続けば良いと思う。


 夏休み、相変わらず今年の夏も異常な暑さだ。

 蝉は朝から鳴き、外に出るだけで汗が噴き出る。私たち中3は受験のため部活を引退し、最後の部活に来ていた。

 練習後、扇風機が当たる場所で私たちは2人で少しだけ話をした。

「今まで教えてくれてありがとう。入ったのがだいぶ遅かったから試合には出れなかったけどさ。」

「いえいえ、その割にはすぐ私たちレベルまで追いついたけどね。」

 そういい私たちは少し笑い合った。

「そういえば、夏休みが明けたら、何があるっけ?」

「えっとね、体育祭と文化祭。陽人君はこの学校に来て初めてだもんね。一緒に楽しも。」

「うん!ちなみに体育祭ってどんなことするの?」

「うーん、リレーとか男子だったら騎馬隊とかさ。」

 なるほどー、そう言いながら陽人君は目を細くして頷いていた。

「急なんだけどさ、下の名前で呼んでもいい?結構仲良くなってから時間経ったしさ。」

 唐突すぎて驚いた。嬉しすぎる。顔がどんどん赤くなっていくのに自分でも気がついた。

「も、もちろん!!逆に私勝手に陽人君って呼んでたけど大丈夫?」

「うん、全然大丈夫。じゃあ花凛って呼ぶね。」

 下の名前で呼んでるなんて幸せすぎる。このタイミングで私はずっと誘いたかったことを言うことにした。

「ねえ、今度さ、河川敷の夏祭り一緒に行かない?」

 返事が返ってくる、この瞬間がドキドキして胸が飛び出そう。私なんかが誘って良かったのかな。

「うん、行こっ!僕も誰か一緒に行きたいなって思ってたとこ。」

 予想外の回答に思わず顔が笑顔になる。顔がすぐ赤くなってしまう。

「良かったー菜々と松本君も誘っていい?」

「うん、もちろん。」

 実は、松本翔太君は、菜々の好きな人なのだ。

「じゃあ、また来週の土曜日の5時に駅前集合ね。」

「わかった!」

 まだ一週間あると言うのに楽しみすぎる。

 いつもと違う特別な夏休み。この夏休み恋でいっぱいにしたい。陽人君ともっと仲良くなりたい。


 夏祭り当日

 約束の5時よりも少し早く着いた。待っていると、ホームから3人が並んで出てきた。

「ごめーん、待たせたー?」

 菜々がいつもよりも可愛いツインテールをし、可愛い服を着ていた。それにテンションが上がっていた。そりゃそうか。

「そんなことないよ。私が早く来すぎただけ。」

「なら良かった。じゃあ早く行こっか。」

「うん。」そういい、元気に前に進み出した。

「今日は2人も来てくれてありがとう。」

「いやいや、こちらこそ誘ってくれてありがとう。あんまりこの3人と話すタイミングなかったから仲良くなれそうで嬉しい。」

 そう松本君が言ってくれた。松本君はいつも友達思いで誰にでも好かれるいい子だった。だから、他にも誘われてたはずなのにこっちを選んでくれたってことはもしかして。

「今日は楽しもっ。みんなで。」

 そう陽人君がまとめてくれた。相変わらずかっこいい。

「ねえーみんな早くー」

 少し前を歩いていた菜々が後ろ向いて私たちに叫んだ。

「はーい。」と松本君が走って行った。

 それに続いて私たちも走って追いついた。


 少し屋台を回っていると、人が多すぎ菜々と松本君に離れてしまった。あいにく電波は全く届かず困っている。

「ねー陽人君どうしよう。2人とはぐれちゃったねー。」

「ねーまあそのうちどこかで出会うんじゃない。」

 そうだよね、と言い私たちは2人でかき氷を食べたり、射的をしたりしていた。

 花火の時間になっても2人には会えず、河川敷に座って2人で見ることになった。

「花火ってさ、色んな種類のがあるよね。」

 ふいに陽人君がそう言った。

「わかる、私さ流れる感じの花火が好きなんだよね。」

「それ僕も、なんか落ちてきそうで少し怖いけどすごく綺麗なのだよね。」

 陽人君は笑顔でこっちを見ながらそう言った。

「そうそう、それ。」

 そんなたわいもない話をし、再び駅へと戻っていると菜々と松本君がいた。

 2人は手を繋いでいた。

「え、付き合ったの?」

 私は少しニヤついた顔で菜々の耳にコソッと言う。

「そう、私たち付き合ったの。ね、翔太。」

 菜々は普通の声の大きさでそう言う。

「え、おめでとう。松本君、幸せにしてあげてね。」

 そう陽人君は言う。

「ほんとにおめでとう。」

「2人ともありがとう。実は俺ずっと菜々のことが好きでさ。ほんとは俺が先に、この祭り誘おうと思ったら菜々が誘ってくれたさ。もう正直運命だなって思ったよ。」

「もーーー」

 菜々は恥ずかしそうに松本君と握っている手をブラブラする。羨ましい。

「なんかね、花火の時に松本君が告白してくれてね。もう私さ嬉しくて嬉しくて。」

「よかったじゃん、菜々。」

 ありがとう、と初めてというぐらいの満面の笑みで私にそう言う。

 花凛も応援してるよ、と私にしか聞こえない声で小さく応援してくれた。うん、と頷くとなぜか撫でられた。なんていい親友なんだろう。

 そして少しずつ歩き始め、2人の後を私と陽人君はゆっくりと歩いていた。

「2人ほんとお似合いだよね。」

 陽人君が前を眺めながらそう呟いた。

「ほんとそうだよね。」

 そういい陽人君と私は向かい合い、少し笑い合い静かに歩いていた。

 いつか陽人君ともこうなりたい。ただこう思った。


 9月、中学校のイベントの1つ、体育祭がもうすぐ。

 学校全体が準備に取り掛かっていた。教室では旗のデザインや、リレーの順を決める声が飛び交い、昼休みも校庭で練習する生徒が目立つようになった。


「ねえ、私たちさ競技何する?」

 横から菜々の声が飛んできた。

「んー私なんでもいいよー菜々なんかやりたいことないの?」

「え、そんなこと言っちゃってー陽人君と一緒がいいんでしょ?だから綱引きやりたいんじゃないの?」

 ほら照れない照れない、ニヤけた顔でそう言ってきた。その通り、綱引きがしたかった。

「え、いいの?綱引きで?」

「いいに決まってるじゃんーじゃあ早く先生に言おっ!花凛は陽人君に綱引きよろしくって挨拶してきて!」

 そういい私の背中を押し出した。


「ねえねえ、陽人君。」

 綱引きをする男子メンバーで話していた陽人君の肩をそっと叩いた。

「ん、どうしたの?」

「あのさ、私と奈々も綱引きやることなったからよろしくね。役立たずだと思うけど。」

 陽人君は笑顔で返してくれた。

「そんなこと全然ないよ!こちらこそよろしく。」

 笑顔でそう返してくれた。なんだか胸がほっこりした。


 体育祭当日

「いよいよ次、私たちの綱引きじゃん!」

「ねっ、楽しみ!」

 そんな緊張した雰囲気の中、奈々と2人で話していた。


「次は、綱引きです。綱引きをする生徒の皆さんは中心に集まって下さい。」

 放送が入り、私たちは綱の周りに集まった。そして私の前には...陽人君が来た。

「今から頑張ろうね。」

「うん、花凛も!」

 そういい陽人君は前を向いた。この少しでも話す時間が何よりも良かった。

「スタート!」先生の声と笛が鳴り、綱引きが始まった。

 周りの応援の声が耳に届く中、私たちのチームはどんどん引き寄せられていった。お互いに支え合いながら、必死で綱を引き続ける。

「もう少しがんばろ。」

 息を切らしながら陽人君は言う。

「うん。」

 そういい、私は手を少し前の位置に移動すると、陽人君の手に当たった。

「あっ。」

 私はすぐに手を離した。

 陽人君はニコッと笑い、また前を向いた。恥ずかしい。でも嬉しい。

 そして、最後の一押し。みんなでせーの、と言い力を合わせた瞬間、ついに綱がラインを越えて、私たちの勝利が決まった。

「やったー!」

 そういい私たちはハイタッチした。今日2回も陽人君の手に触れてしまうなんて。

「来年もまた同じ学校行けたら一緒に綱引きしようね!」

 つい言ってしまった。

「うん、やろ!」

 そう優しく答えてくれた。なんて優しいんだろう。この温かい気持ちが胸に体育祭が終わるまで残っていた。

*                      *

 久しぶりに病院に行った。最近は行くのが嫌で通院の回数を少し減らしてもらっていた。

 いつも通り検査を終え、主治医の髙見先生との診察を待っていた。

 順番が呼ばれ診察室に入ると、いつもとは違う空気が漂っていた。

「今日はご両親いないのかな?」

「はい、今日は仕事で。」

「そうか。」

 髙見先生はいつも通り穏やかだった。だかいつもと少し違うようなそんな気がした。少し待っていると髙見先生が口を開いた。

「陽人君、実は今回の結果があまり良くなくてね。」

「はい。」

 嫌な予感がした。正直聞きたくなんてなかった。でも自分の運命だから受け止めなければいけないのだ。

「もう高校に上がる頃には──」

 あぁ、そっか、そっか。頭の中が真っ白になった。

「母にはまた伝えておいて下さい。」

 なぜか口が勝手に動いていた。それと同時に涙も流れていた。嗚咽を出して。先生は僕の肩をゆっくりとさすっくれていた。

 昨日、花凛と約束したことははもう...遠い夢の向こうのおとぎ話、なのかな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ