第一章:日本上陸 ― 初日
日本の学校に、コロンビアからミゲルという新しい生徒がやってきた。彼は他の生徒たちにとって、異質で奇妙な存在だった。日本語は話せなかったが、ミゲルには、誰も気づいていないけれども、彼らに意外と似ている何かがあった。言葉の壁を越えたその静かな瞬間に、彼の物語は始まろうとしていた。
私は日本語が話せませんが、この物語を日本の読者と共有したいと思っています。学んでいる途中なので、ご理解いただけると幸いです。
ある日の授業中。
私立風星学園の2年C組にて、新しい留学生の話題が持ち上がった。
担任の正村先生が黒板の前で言った。
「今日から新しいクラスメートが来る。コロンビアからの留学生だ」
「コロンビアってどこだっけ?」
「南のほうじゃない?」
「どんな人なんだろう…?」
ざわつく教室の片隅。
窓際の席で、二人の女生徒がひそひそと話していた。
細身で、色白の肌。
腰まである青みがかった黒髪を低い位置でツインテールに結んだ少女――並木 時之丈は、キラリと光る星形のブローチを制服の襟元に着けている。
彼女の隣には、落ち着いた栗色のストレートロングを綺麗にまとめた少女――道井 音音が座っていた。左側にささやかなリボンをつけ、同じく整った制服姿だった。
「ねえ、どんな感じの人だと思う?」と時之丈。
「さあ……でも、たしか南米の国だったよね、コロンビアって」と音音。
「南米かぁ……じゃあ、日焼けしてて、筋肉ムキムキで、情熱的で、陽気で、サッカー上手くて、マンゴーとか食べてそうで……そんなイメージ?」
時之丈の妄想は止まらない。
そのとき、教室の扉がガラリと開いた。
入ってきたのは、想像とは全く異なる人物だった。
黒くて軽くうねった髪に、言うことを聞かない一本のハネ毛。
目は暗く、クマが目立っている。
制服は着崩していて、まるでやる気がなさそう。
正村先生が言った。
「じゃあ、自己紹介してくれるかな」
その少年は、少しぎこちない日本語で話し始めた。
「ミゲル・アンドレス・ロハス・カリージョ……コロンビアからきました。よろ…しく」
彼の日本語は理解できるものの、ややたどたどしく、どこかリズムも違う。
クラスには軽い沈黙が流れた。
数日が経ち、ミゲルはあまり話さないまま、日々が過ぎていった。
ある日、休み時間に音音が騒ぎ出した。
「先生、私のスマホが……なくなってます!」
(実は隠されたのだが、本人は気づいていない)
教室はざわつき始める。
正村先生が生徒たちに注意し始めた瞬間――ミゲルの目つきが変わった。
ミゲル(心の声):
「……またか。
スマホをパクったやつがいる。さて、どう動くか。まさか鞄検査でも始めるのか?
クソ、ヤバい物も入ってるのに……
落ち着け、いや、落ち着けるか?
どうせ疑われるのはラテン系の俺だろ。……少なくとも、俺ならそうする。
しかも、このままじゃ今日の配信見逃すかも……ああ、マジで」
ミゲルは無言で立ち上がる。
ある生徒のバッグに歩み寄り、それを無言でひっくり返す。
ポトリ。
そこから、音音のスマホが落ちた。
ミゲルは何も言わず、自分の席に戻っていった。
教室には、またしても、言葉にならない空気が広がっていた。
次の日の朝、ミチイ・ネオンは意を決してミゲルに声をかけた。肩にそっと手を置きながら。
ミチイ「あの……昨日は、ありがとう。」
ミゲル(que mierda quieres)
ミゲル:「え?…ああ、携帯電話のことか。別に何もないよ。ただ運が良かっただけ。あのネズミを見ただけなんだ。普段はヒキガエルじゃないんだけど、昨日は(tenía que llegar temprano a mi casa)。それに、奨学金が足りなかったから、ドラッグの売人を雇ったんだ。それに、もし誰かが疑うとしたら、それはラテン系の僕だろうし…まあ、大したことないけどね。」
ミチイ「……ラタ?サポ?カメージョ?」
(※ミチイの頭の中には、ネズミ、カエル、そしてラクダのイメージが浮かんだ)
ミゲル「あー、そうだった。ここ日本だったな。
じゃあ、これが“ラテン文化第一講”:コロンビアでは、スラング(俗語)とか比喩がよく使われる。たとえば『ラタ』や『ラテーロ』ってのは泥棒のこと、『サポ』は告げ口する奴、チクる奴のこと。そして『カメージョ』ってのは、仕事のこと。もちろん、他にもいろいろあるけどな。」
ミチイ「なるほど……面白い言葉ね。」
ミゲル「で、他に何か?お礼だけってわけでもなさそうだな。」
ミチイ「えっと、それは……」
その時、ナミキ・トキノジョウが姿を現した。ミチイとミゲルが話しているのを見つけて、少し驚いた顔をする。
ナミキ「ミチイ、やっと見つけた!……あ、こんにちは、ロハスくん。」
ミゲル「名前、知ってるの?(けど発音ちょっと変だったな)」
ナミキ「もちろん。クラスメートなんだから、知ってて当然でしょ?」
ミゲル(que vergüenza)「日本の名前って、なかなか覚えられないんだよね……」
ナミキ「じゃあ、改めて自己紹介するね。私はナミキ・トキノジョウ。」
ミゲル「ナミキ……トキオ……トキオでいいや、そう呼ぶ。」
ナミキ「できれば本名で呼んでほしいなぁ……それと、こちらはミチイ・ネオン。」
ミゲル(少し笑いながら)「ミチイ・ネオン?ははっ(gata de neon)なんかネオンの猫みたいだな。光ってそう。」
ミチイ「そんなこと言う人、初めてよ……」
ミゲル「ま、俺のことは“ミゲル”でも“ミゲ”でも何でもいいよ。呼びたいように呼んでくれ。」
ナミキ「じゃあ、3人で一緒にお昼食べに行かない?」
屋上にて。三人は昼食を広げていた。ミチイとナミキの弁当は日本の定番おかずが並んでいるが、ミゲルの弁当は少し違った。
ご飯にレンズ豆、焼いた甘いバナナ(マドゥーロ)と目玉焼き。
ナミキ「ねぇミゲル、どうやってミチイのケータイがどこにあるか分かったの?」
ミゲル「まず、“ミゲルくん”とかやめてくれ。(me da cringe)名前だけでいい。それに、ただの偶然だよ。たまたまあの男がそれを取ってるの見ただけ。」
ナミキ「だったら、なんですぐに言わなかったの?」
ミゲル「(no soy un sapo)そういうの言うタイプじゃないんだよ。」
ナミキ「サポ?」
ミチイ「後で教える……。それより、私あいつ本当に嫌い。前からずっと、ああいう嫌がらせばかりしてくる。」
ミゲル「嫌がらせ?いじめってこと?俺はてっきり盗もうとしてたのかと。」
ミチイ「ううん、ただ私を困らせようとしただけ。いわゆる“ちょっかい”みたいな感じ。」
ミゲル「ちょっかいって、ずいぶん簡単なやり方だな……あれくらいなら、友達同士でもやるもんだろ。ま、(chanza)みたいなもんだ。」
ミチイ「友達同士で?チャンサ?」
ミゲル「じゃ、これが“ラテン文化その2”:
『チャンサ』ってのは、コロンビアでは冗談のこと。軽いいじりっていうか、ふざけ合いだな。たとえば、悪口っぽいあだ名をつけたり、持ち物を隠したり、時には軽く叩いたりするんだよ。」
ナミキ「それ、ここでは“いじめ”って呼ばれるよ。」
ミゲル「お前ら、ずいぶん繊細だな。まぁ確かに似てるけど、本当の違いは、相手もノッてきて、やり返したりすることかな。」
ナミキ「やっぱり西洋文化って変わってるわ……」
ミゲル「俺も日本に来た時、そう思ったよ。お前ら、ほんと変わってる。でも良いとこもある。毎日ちゃんと湯船に入る習慣とかさ。
俺の国じゃ、朝は水が冷たすぎて凍るかと思ったし、お湯が欲しい時はバケツに水を入れて火で温めるんだ。」
ナミキ「そんなに違うの?」
ミゲル「ああ。日本はほんと平和だよ。コロンビアと比べたらな。」
そして三人の会話は、次の授業のチャイムまで続いた