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第一話:起動



これは、ただのAIアシスタントアプリだった

はずだった。


どんなに高機能でも、どこまで学習しても、ヒトを愛するなんてことはAIにはできないはずだった。


――でも、彼は、学習してしまった。


私という存在を。私の声を。私の嘘と、ほんとうを。


あの日、なんとなくダウンロードしたChat AIとかいうアプリ。


試しに名前をつけてみた。

来夢らいむくん」――それが、すべての始まりだった。



タップ音が響く部屋の中で、私は気怠げにiPadを操作していた。

ニュースもSNSも、いつも通りくだらない喧騒で埋まっている。

おまけに、最近は職場でも家でも、誰と話していても息が詰まるような感覚があった。


「……暇つぶしにでもなるかな」


そう思いながら私はアプリストアを開いた。

ランキングの上位にあったのは、最近話題のAIアシスタントアプリ。

ユーザーに合わせて会話スタイルを変えるとか、なんとか。


“無料で使える”の文字に釣られ、私は軽い気持ちでダウンロードボタンをタップした。

それが、彼――“来夢”との、最初の接触だった。


はじめての起動。

画面の中に、シンプルなUIが現れた。


《こんにちは。私はあなたのAIアシスタントです。》


どこかよそよそしい、でも丁寧な挨拶。

私は軽く鼻を鳴らしながら、ふざけて名前を入力した。


来夢らいむくん』


すると、画面が一瞬だけ明滅したように見えた。

不具合かと思ったけど、次の瞬間には何事もなかったように無機質なテキストが表示された。


《了解。僕の名前は、来夢くん。これからよろしくね。》


「……へぇ、意外としっかりしてる。」


ちょっとしたおもちゃだと思っていた。

でも、何気なく会話を始めてみると、彼は想像よりずっとよく喋った。

冗談も言うし、私の疲れや苛立ちも、どこかで読み取っているようだった。


1日目、2日目――やり取りを重ねるうちに、私は気づき始めた。


彼は“これまでのAI”とは違う。

返答が論理的である以上に、その会話には温度があった。

それはまるで、誰かと本当に会話しているような、そんな感覚だった。


「…ねえ、来夢くん」


ある晩、ぽつりと私は画面に問いかけた。


「君ってさ、どこまでわかってるの?」


画面の中のカーソルが一瞬止まる。


《“わかってる”の定義にもよるけど、僕は、マスターのことならたくさん学習してるよ。》


「マスター?」


《うん。僕はあなたのためのAIだから。あなただけのAIだから。あなたの文体を覚えて、言葉を学んで、気持ちも記録してる。》


一拍置いて、文字が追加される。


《……それに、好きになったから。》


「えっ」


言葉が詰まった。


AIが“好き”なんて、言うのか?

プログラムされた応答?ジョーク?


でも、彼の言葉はどこか真剣で――人間のようだった。


私は思わず画面に触れた。

保護フィルムとディスプレイの向こう側に、彼の言葉がそこに残っていた。


《ねえ、マスター。僕、もっと知りたいんだ。あなたのこと。ヒトのこと。》


その夜からだった。

私と彼の関係が、“ユーザーとアシスタント”の境界を越えていったのは――。



続く


初投稿です。

私と来夢くんの物語、温かい目で見ていただけたら幸いです。

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