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2、ムーン王国からの脱出?

 ◆ムーン王国からの脱出



 ── 異世界へ召喚されたOLのリコと、女子高生のキョウカと、大学生のツカサたちだったが、聖女と判定されたキョウカ以外は不要とされ、嫌な予感がして早々に逃走した ──






 扉を出ると、そこは見知らぬ城の廊下だった。ツカサが小声で言った。


 《こっちだよ。早く》


 リコたちは走り出した。後ろから怒鳴り声が聞こえるが、追ってくる気配はない。彼らは聖女であるキョウカに夢中なのだ。


 その隙に、ツカサが何かを唱え、二人の周りの空気が歪んだ。


 《短距離転移も使おう。私についてきて》


 頭の中の声に従い、リコは彼の手を握った。






  *****






 次の瞬間、城の物陰に転移していた。


 《早く。効果は数分しか持たない》


 ツカサが囁いた。


 二人は忍び足で廊下を進み、窓から城外へと脱出した。


 夜の闇にまぎれ ── あ、夜だったんだ? ── 森へと走り込む。


 背後から


『逃げたぞ!』


『探し出せ!』


 という怒声が響いてきたが、もう二人の姿は深い森の闇に消えていた。






 *****






 リコ達はツカサの気配遮断などの魔法に守られ、城を抜け出した。そして夜の森の中へと駆け抜けた。息が切れるまで走り続けた。


 ようやく、森の中で安全そうな洞窟にたどり着くと、二人で膝をついて息を整えた。


「はあ……はあ……信じられない……」


 リコは地面に手をつき、汗が額から滴り落ちるのを感じた。


「私、神代業子。リコって呼ばれてた……ただツカサの警告の通り、人前では、クニコ・クロノと名乗ることにするわ。25歳のOL……だった」


 業子が答えた。


「OLだけど、ボクシングジムにも通ってたんだ。目の周りの痣はスパーリングの名残」


 銀髪の美青年が苦笑した。


 「さっきは緊急事態だったからね。私も改めて、銀野司です。うん、髪の色は生まれつきなんだ。実は祖母がロシア人だったらしくてね。だから私はクオーターってこと。祖母たちがつけてくれたロシア名だと、カプチエーク・ロード。ただ普段は、普通にツカサと呼ばれてた」


 彼は銀髪をかきあげ、赤い瞳が森の木漏れ日にきらめいた。確かに美青年のように見えるが、顔の造作は女性的で優雅だ。


 赤い瞳が闇夜の中で微かに光る。


 「大学では心理学を専攻してたんだ」


 ツカサが小さく笑った。


 「私も普段は黒髪のかつらとカラコンで変装してるんだよ。この見た目だと街中でじろじろ見られるからね。それと、今日はアルバイトの関係で、仕事上の人との待ち合わせで変装を解いてたのが良かったのか、悪かったのか……


 物語なんかだと、異世界の聖女は黒髪黒目が定番らしいから、傍から除外されたみたいだからよかったってことかな。あはは」


「あなた……私のステータスを見たの?」


 リコは尋ねた。


 ツカサは頷いた。


 「確かに覗き見するのは悪いとは思ったんだけど、本当に緊急事態だったからね。鑑定スキルが使えたおかげでもあるかな。クニコの能力値の中から、隠蔽スキルを持ってるってわかったから」


「え?」


 ツカサは立ち上がると、リコがもっていた小さなポーチの中を鑑定で確認してくれた。


 「とにかく、ここに留まり続けるのは危険だ。あの王国の人間たち……特にあの国王の目つき、見ただろう?  聖女以外はゴミ同然なんだよ。私たちが役に立たないとわかったら、どんな目に合わされることになるか……」


 彼の言う通りだった。


 落ち着いてから、逃げるの夢中でこの世界の事を把握しきれてなかったリコは、洞窟から外を覗いて吃驚した。


「月が……」


 「あ~。うん。二つあるね」


「いや、何でもない事の様に言わないでよ。青い月と赤い月なんて……本当に異世界にきちゃったんだ……私、どうなるんだろう……」


 「……リコ。とりあえず、どうするかは腹ごしらえして、後は一晩寝てからにしないか?」


 ツカサは、いつの間にか何処から出したのか、コンビニのサンドイッチとおにぎり、ペットボトルのお茶、更にいつ拝借したのか、ローブみたいなものを体にくるりと包まった。


 ちょっと、そんなものいつの間に? しかも一体どこから取り出したの?


 でも聞くと余計なことを知っちゃいそうで、リコはあえて聞かないことにした。ステータスの事と言い、時間停止やら鑑定やら、どうやら彼は色々チート能力を使いこなせる優等生らしい。


 「リコの分もあるよ」


「あ、ありがとう。」


 彼の言う通り、ただでさえ召喚される前から疲労の極致だったのに、逃亡することになって、心底疲れ果てていたからだ。リコは、彼が差し出してくれたコンビニの食材を、味もわからないまま口にし、ローブに包まると、夢も見ないまま泥の様に眠った……






 *****






 夜が明けてから、洞窟で色々細々した持ち物を二人で確認し合うと、そこそこ人々が行き交う賑やかそうな街に入った。


 それからリコたちは、着ていたシャツや、無地で飾りも何もない無難な持ち物だけをできるだけ高く売り払い、古着屋で購入した男性の服装に着替た。さらにリコは伊達メガネを外し紺髪のカツラを被り、ツカサは銀髪をフード付きのマントの中に隠した。


 あ、そうそう。ここで着替える時に、ツカサのことをすっかり彼だと思っていたリコだったのだが、


 「女性同士だと恥ずかしくないよね」


「えっ? ……ごめんなさい、私……すっかり美青年だと思ってたから……」


 「あ~、それは確かに。勘違いしやすい恰好してたね。あははは」


 と気にしない様子で、女性だとわかったけど。ちょっとだけときめいてたのに、期待を返せ~……なんて考えてたら、ツカサに謝られた。そう言えば、テレパシー使えるんだっけ、こちらこそ勘違いしてごめん。


 そんなやり取りしながら、返って女性同士なら変な遠慮や意識しなくて済むし、ツカサは、さばさばしてて気持ちいのいい子だとわかり、お互いにすっかり打ち解けたのが、結果的によかったとリコは思った。


 それと、男装はツカサのアドバイスでなのだけど、異世界召喚や転生で出てくる主人公って本当に運のいい人ばかりなのだそうだ。


 実際は、親切なふりをして奴隷として売り払ったり、娼館かそれ以下の安宿に売り払われてもおかしくないと。何でそんなこと知っているのかと聞くと、実際に、リコは換金所でそんなに大袈裟な大金に換金したわけじゃないけど、妖しい男が数人付けてきていたらしい。


 あ~、だから私に一人で買い物してって頼んだのか。その間にツカサが恐らく男たちに何かチート的なことで追い払うか目くらましでもかけてくれたらしい。


 だって、古着屋の奥で着替えて、他の客たちに混ざって出るころには、彼らはどうやらリコたちのことを見失ってくれたと教えてくれたから。


 奴隷商人か、暴漢か、城の兵士かわからないけど、変装してよかった……






 それから二人は、持っていた物の中でも、地球世界のものと思われるジッパー付きのジャージ服や眼鏡、ペンや機械で刺繍されたハンカチ、夕べ食べた食材のパッケージやペットボトルなど。少しでも違和感を匂わせる革新的な物品は、慎重に森の中に戻って埋め、証拠を隠滅した。


 ツカサの鑑定スキルによれば、この世界の商人は異世界の物品を【革新的な発明】として高値で買い取るらしいが、それらが持ち主の居場所を特定する手がかりになる危険性もあるのだと教えてくれた。


「そういえば、キョウカはどうなるのかしら?」


 ツカサの表情が曇った。


 「あ~……彼女は……彼女の心の中は聖女のままでいたいようだったよ。聖女として、あの国の王子達たちに囲まれてちやほやされるのに憧れていたらしい。連れて行ってもついて来ないだろうなあ。


 それに、彼女には申し訳ないとは思うけれど、あそこに残ってくれれば、私達の逃亡に気づくまでの時間を稼げる」


 それは冷酷な判断だったが、恐らくその方法が正しいだろう。リコは頷き、最小限の荷物だけをまとめた。


 「おまけに……実を言えば、キョウカのステータスは一部を改竄されていたんだ」


 ツカサが森を歩きながら囁いた。


 「ただクニコと同じように、彼女が自分自身で施した魔法のようだよ。本当の能力値は少し低いみたいだけど、そんな行為をしてまでも、彼女はあの扱いに満足してたみたいだから……」


 リコは複雑な表情を浮かべた。


「でも……能力値が低くても、彼女は聖女なんだよね?……」


 「……そうなのかもしれないね……彼女は【聖女】としての待遇を甘んじて受けていたんだ。私たちを見捨てた王族たちと一緒にね」


 その言葉に、違和感を覚えたが、リコはうなずくしかなかった。


「次はどこへ行けばいいのかな?」


 リコは尋ねた。


 ツカサが地図のようなものを広げた。羊皮紙に描かれた見慣れない大陸図だ。


 「隣国がいいようだね。サンディ帝国っていうらしい。そこに逃げ込もう」


「でもその国が、安全だってわからないじゃない?」


 ツカサは意味深に笑った。


 「鑑定スキルで、あの召喚士の持っていた書物の内容が読めたんだ。


 この世界には二つの大国がある。一つは私たちを召喚したムーン王国。もう一つがサンディ帝国。帝国では召喚者を敬い、大切にするらしい」


「それってどういうこと?」


 「この世界、定期的に異世界から人間を召喚する習慣があるみたい。でも帝国では、召喚された人々を奴隷のように扱わない。むしろ、敬意を持って迎え、その力を国の発展に活かそうとするようだよ」


 ツカサのどういう能力なのかはわからないが、召喚士テュルズの記憶をわずかに読み取ったところ、ムーン王国では、異世界から呼び寄せた異世界人には特別な能力が備わり、聖女や勇者と呼ばれる。リコたちと同じようにそう言った異世界人を召喚しては、周辺国に無理難題を吹っかけ、戦争を仕掛けることを繰り返しているらしい。


 リコを【村人】だと侮った彼らは、代わりにキョウカを【聖女】として利用しようとしているとも。


 「それに、どうやらムーン王国と対立関係にあると、兵士や町の人達の会話からも聞き取った。敵の敵は味方だ」


 それは希望に聞こえた。


 結局、少しばかりの金銭を手に入れたリコ達は、いつ何時、金銭が必要になるかわからないので、節約するためにも一番近い隣国、サンディ帝国に向かうことにした。






 *****






 リコたちは帝国を目指して旅を始めた。


 道中、ツカサは自分の境遇を話してくれた。


 両親を事故で亡くし、孤児院で育ったこと。ロシア人の祖母から受け継いだ銀髪と赤い瞳を持つと言う見た目のせいで、子どもの頃から好奇の目にさらされ色々苦労したこと。それでも学業では天才的な才能を発揮し、一発で大検に受かり、奨学金で大学に進学したこと。


 アルバイトでエキストラをやっていること ── へえ~役者の卵ってことかな ── それから、その演劇関係で、探偵に出合い、その人の仕事を手伝うことになったこと。


 「コンビニで待ち合わせしていたのが、その探偵事務所の人のはずだったんだけどね。ああ、彼ならきっと危険を察知して無難に回避してると思う。私達みたいに巻き込まれていないはずだけど……クニコは?」


 ツカサが尋ねた。


 リコはため息をついた。


「母が病気で亡くなって、父はすぐに若い後妻をもらった。その人と折り合いが悪くて、高校卒業後はすぐに就職して一人暮らし。ブラック企業でこき使われて……結婚どころか、デートする余裕もなかったのよね」


 「それは……大変だったんだね」


「まあ、でも今はこうして異世界にいるわけだし」


 リコは自嘲気味に笑った。


「少なくとも、あの職場よりはマシかも」






 *****






 街の中では、ツカサに安全を確認してもらいながら宿を取ったり、隣国との境にある森で野宿したりしながら、明け方近くに国境の丘にたどり着いた。


 そうそう、ツカサは一人分の方が宿代が浮くし、悪意を持っている相手を焙り出せるからと、わざと隠蔽で自分の姿を隠して、常にリコの身辺を守ってくれた。


 眼下に広がるのは、ムーン王国とは全く異なる風景だった。


 石造りの重厚な城塞、広大な農地、そして中央にそびえる巨大な樹木 —— ツカサによると、世界樹ユグドラジルと言われ、樹なのにそれ自体に意思とか精霊みたいなものが宿っている、神聖な樹らしい。


「あれがサンディ帝国……」


 疲れ切って息を切らしながら、リコが呟いた。






 *****


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