帰りましょう
ダリアはギュスターブに冷たい視線を送る。
「ギュスターブ公爵、今回は運よく最悪の事態を防ぐ事ができましたが、ご自身の過ちは認識しておりますわね?」
ギュスターブは冷や汗をダラダラ流して、視線をそらす。
「悪意ではなかった。エクストリーム王国は強くなる必要がある。そのために禁忌の魔術を人に使う必要があったのだ」
「その結果、罪のない人々が凶暴化しました。あなただって殺される所でしたわ」
ダリアの口調は重々しい。
ギュスターブは震えた。
「わ、悪いのはエクストリーム王国だ。儂を禁忌の魔術に駆り立てた原因は、エクストリーム王国の弱体化だ」
「王国に対してそんな事をおっしゃるのですか!? フランソワ王太子が聞いたらカンカンになりますよ」
唐突に、エントランスに甲高い声が響いた。茶髪を三つ編みにまとめた華奢な人間が、両目を吊り上げていた。
セラだ。
ズカズカとエントランスに足を踏み入れる。
「グレイから話を聞かせてもらいました。禁忌の魔術を人に用いるように仕向けて、責任をすべてグレイに押し付けようとしましたね」
「し、知らぬ。そんな事は……!」
ギュスターブが白を切ろうとすると、屋敷の入り口からグレイが呟く。
「嘘を吐くのなら、またロベールを操るよ」
「ひ、ひいいいい」
ギュスターブは情けない悲鳴をあげて首を横に振った。
「正直に話すから命だけは!」
ダリアは露骨に溜め息を吐いた。
「フランソワ王太子にもお話してくださるかしら?」
「もちろんだ、すべてを話すぞ!」
ギュスターブは壊れた操り人形にように、コクコクと頷いた。
セラは安堵の表情を浮かべる。
「これで王国に対する忠義を守れます。あ、そうそう至高の令嬢、ちょっといいかな?」
「何かしら?」
ダリアが首を傾げると、セラはいたずらっぽく微笑んだ。
「あの事を黙っておく代わりに、私を殺さなかった事も黙ってもらえるかな?」
あの事。
死に戻りの事で間違いないだろう。死に戻りは、自らの命と世界の存在を引き換えに時を戻す魔術だ。禁忌の中の禁忌とされている。
セラは死に戻りを行った魔女として、ダリアの命を狙っていた。それを訂正するのだろう。
ダリアは両目を見開いた。
「本当によろしいのですの?」
「私が負けたなんて噂が広がったら、王都が混乱するから。フランソワ王太子にうまく処理してもらうと思うんだ。私もズルくなったね。でも、味方を増やす駆け引きも大事なのかな、なんて」
セラは自らの茶髪をかいていた。
カルマは豪快に笑った。
「いいと思うぜ、みんながいいならな!」
「ギュスターブ公爵は不敬罪で連行するよ。グラン様もそれでいいよね?」
セラが声を掛けると、グランは頭を押さえながら起き上がった。
「そうだね……追い詰められた時のギュスターブ公爵の覚悟が足りないと分かったから、禁忌の魔術で王国を強くする計画は中止しよう」
「ま、待てグラン。おまえだって長い間賛同していただろう!?」
「あなたが命を懸ける覚悟があると思ったからですよ。いざ命の危険にさらされた時に、言う事をあっさり変えた人間を信用できません」
グランは立ち上がって、ギュスターブに軽蔑の視線を送っていた。
カルマは深々と頷いた。
「本当だぜ。アムールはなんでこんな男を助けたんだか」
「……グラン様が忠義を尽くす相手だったからですよ」
アムールは、ソケットに白い宝石のついた槍を杖代わりにして、よろよろと立ち上がった。
「僕はグラン様に恩義を感じています」
「うかつに騙されてすまなかった。今後は気を付けるよ」
グランが溜め息を吐いた。
「聖騎士団に取り返しのつかない事をやらせてしまった」
「本当にそのとおりです。ダリア様たちと出会わなかったら、きっと最悪の事態になっていました」
アムールの肩が震える。
「僕たちはこれから償いに一生を捧げるべきです」
グランは頷きながら聞いていた。
ダリアは微笑む。
「ここの事は任せてよろしいのですわね。確認しますけど、グレイはもう禁忌の魔術を使わないのでしょうね?」
「禁忌の魔術を使って散々な目に遭ったからね。二度とやらないよ」
グレイは忌々し気に応えた。
「できればダリアを屈服させたかったけど、またの機会にするよ」
「それはダメだよ、私が君を倒さなくちゃいけなくなるから」
セラが口を挟んだ。
「罪のない人をむやみに襲うのは、聖騎士団飛行部隊の隊長として見過ごせないよ」
「分かったよ、手を出さないよ」
グレイはしぶしぶと頷いた。
ジャンは両目をパチクリさせた。
「禁忌の使い手も、頭が上がらない相手がいるんだね。ダリアの安全が保証されるのなら良かったよ」
「そうですわね。これでスローライフを満喫できますわ」
ダリアはクスクス笑った。
「帰りましょう。私たちの住処であるトッカータ村に」




