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死に戻り先は悪くありませんわ

 土の香りと心地よい風を感じて、ダリアは目を開けた。ひんやりした地面に仰向けになっていた。

 木漏れ日がチラチラとダリアの目に映りこむ。

 森にいるようだ。

「ここはどこかしら?」

 ダリアはゆっくりと起き上がる。ロベールとの関係をやり直したくて死に戻ろうとしたが、見たこともない場所に来てしまったようだ。お気に入りの赤いドレスはいくらか土をかぶっていた。

 土を払い、恐る恐る背中をさする。全く異変が無い。

 時を戻す事は成功したようだ。


「肝心のロベールが傍にいませんけどね」


 ダリアは自嘲気味に笑った。

 美しく、生真面目な少年だった。死に戻る前に大嫌いだと言われてしまった。


「ひどく疲れましたわ……このままスローライフを送るのも悪くありませんわ」


 今までのような贅沢はできないだろうが、とにかく心の平穏が欲しかった。

 気候に恵まれている。お腹が空けば木の実もある。飽きるかもしれないが、しばらくは大丈夫だろう。

 ダリアは木漏れ日を見つめながら溜め息を吐いた。

 傷つき、疲れ切った心がいくらか安らぐ。エクストリーム王国では決して見る事ができない景色だ。

「ずっと眺めていたいものですわ」

 ダリアの深紫色の髪を、風が優しく撫でた。

 そんなダリアの耳に、異音が届く。


 獣のうなり声だ。おそらくダリアを狙っている。


「先ほどスローライフを決め込んだばかりですのに」


 ダリアは呆れ顔になって立ち上がる。

「不愉快な獣風情には死あるのみですわ」

 茂みから獰猛に光る目が見えた。一匹のようだが、大きい。

「隠れているつもりのようだけど、バレバレですわ」

 ダリアは敢えて語調を強めた。

 獣は挑発だと受け取ったのだろう。

 茂みから飛び出し、一気に距離を詰めて来る。四つ足の獣で、体長は大人が手を広げたくらいだ。凶悪な牙と重量がある。噛まれたら、ひとたまりもないだろう。

 しかし、ダリアは慌てない。

「暗い祈りよ我に力を、タイムストップ」

 獣は空中で不自然に止まった。四つ足をばたつかせるが、呪縛から離れる事ができない。

 ダリアは獣を訝しげに見つめた。

「動きを封じたのはいいのですけど、変な雰囲気の獣ですわね」

 茶色の体毛から、闇色のオーラを放っている。普通の獣では無い。


「きっと誰かが魔術を掛けましたのね。退治するしかありませんわ」


「待って! むやみに殺さないで!」


 後ろから少年の声が聞こえた。

 振り向けば、目鼻立ちの整った銀髪の少年が走ってきている。村人のようだが、雰囲気がどことなくロベールと似ている。

 少年は走ってダリアを追い越して、獣に両手を向ける。


「すぐに普通の獣に戻すから! 聖なる祈りよ我に力を、ステータス・リカバリー」


 獣がふんわりとした白い光に包まれる。闇色のオーラがどんどん消えていく。

 獣はどことなく穏やかな表情になった。四つ足をばたつかせるのをやめていた。

 少年は胸をなでおろす。

「魔術を解いてもらっていいかな? 本来なら人間を襲うはずのない獣なんだ」

 ダリアは両目を見開いた。

 言われた通りに魔術を解いた。獣は地面に降りると、何事も無かったかのように茂みをかき分けて去っていく。

 少年が扱ったのは聖術だ。聖宝石クリーン・ダイヤに愛された人間が使えるものだ。大陸中を探してもごく一部の人間しか使えない。

 ダリアが扱う魔術に匹敵する特殊な能力だ。


「あなたは何者ですの?」


「そういえば名乗り忘れていたね。僕はジャン。トッカータ村の村長の息子だよ」


 銀髪の少年ジャンは頭をかいていた。

「初対面の女性に挨拶を忘れるなんて、父さんから怒られそうだなぁ」

「そうじゃなくて、あなたの聖術はどうやって身につけましたの? ただ者じゃないですわ」

「褒められると嬉しいな! 生まれつきだったとしか言えないけど」

 ジャンの頬は紅潮し、はにかんだ笑みを浮かべた。

「みんな変な目で見てきたからそんなにすごい能力とは思っていなかったけど、綺麗な女性の興味を惹けて良かった」

「私の容姿はどうでもいいのです。あなたの能力についてもっと詳しくお話しなさい」

 ダリアがせがむと、ジャンは微笑んだ。

「立ち話は難だからトッカータ村に来ない?」

「お話はそんなに長くなりますの?」

「長くなるか分からないけど……僕は自分の能力がよく分かっていないから、父さんに聞くといいと思う」

 ダリアは腕を組んで思案したが、結論を出すのは早かった。


「分かりましたわ。トッカータ村に連れて行きなさい」


 腕を解いて、微笑みかける。

 ジャンの能力は気になるし、怪しい事をされれば魔術で退治すればいい。

 ジャンは何故か両手を叩いて喜んだ。

「久しぶりのお客様だ! とびっきり綺麗な人だ! きっとみんな歓迎するよ」

 軽やかな足取りで歩き出す。

 ダリアは優雅な足取りでついていくのだった。

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