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ゴミ問題と汚部屋の切っても切れない関係は魔法で解決しよう

「サザール、行くわよ」


厳しいリコリスの声にサザールは我に返ると、あたふたと臣下の礼をとった。

この男はリコリスの尻の下に敷かれてるのか。

しかし、そんなことより。


「陛下、いくらなんでも二週間は難しいのでは」


遠慮がちに声をかけてきたのはカマリエナだった。

片付けも難しいだろう。いや何より難しいのは。


「ゴミの始末なら、俺に考えがある」


どよめきがあがった。


「エヴァンズ。あの離宮の近くにある大穴は何だ」

「あれは過去の転生者様が魔法で開けたものといわれております。

あの穴は深いのでゴミ処理場にはうってつけですが腐敗問題が起きますぞ

へえ、本当に転生者がいたんだ。この国には。


「姶良、お前の国ではゴミをどうしていたか、教えてくれ」

「私の国では大きな設備で燃やしていたわ。焼却炉っていうの」


そこまで言って、私は気がついた。

そうだ。

この人、炎の手品が使えるんじゃない。


ディルムットが手のひらを差し出す。

そこに小さな炎がともった。

再び、どよめき。

カマリエナが口を押さえ、エヴァンズは「おおっ」と悲鳴に近い声をあげた。


「陛下。火の魔力をお持ちだったのですね」


手品じゃないんだ。ってことは鳩は出せないのね。

やはり魔法ってやつかな。


「黙っていてすまなかった」


しばらく逡巡してからディルムットは口を開いた。


「穴の中にゴミをいれ、俺が燃やす。

これでゴミの始末は問題ないだろう。片付けは各人の頑張りに期待したい」


みんな黙っている。

仕方のないことだ。

二週間で片づけをするなんて、思っても見なかったわけだから。


でも。


「ゴールは決まったわね」


私の声にみんなが、こちらを向いた。


「ゴールが決まれば走るだけ。片付ける場所は私が指示していくわ」


この視線。店長だったときのことを思い出す。

私が折れたら、終わってしまう。

だから。


「みんなで掃除しましょ」

「やるッス!」


サングリエが大きな身体を奮わせた。

みんなも隣にいる人を見て決意を口にし、うなずきあっている。


よし。こうなったら、やるしかないよね!



私とディルムットは離宮のそばにある大穴にいた。

底は見えないけど、大穴という割には小さい。


「大丈夫かしら」

「案ずるな。俺の火は、温度を変えることができる」


この人、すごく雰囲気が変わったわね。ここに連れてこられる前はこんなふうだったのかしら?


「どうした」

「あー、その……」


ホコリを払って立ち上がる


「あなたの雰囲気がずいぶんと変わったなと思って」

「そうだな。自分でもそう思う」


言いながらあの怪力でゴミを投げ捨てている。


「俺はこの国を遠く離れたところで育ったんだ」


私は答えなかった。きっと、これは彼の独り言だから。


「寒いところでな。火は重宝された。

小さな頃から俺は大事にされ、その小さな場所で幸せに暮らせると信じていた」


顔を上げる。

太陽が高い。そうだ。

もうすぐ夏至と言っていたっけ。


「四年前だ。サザールが俺を迎えに来た。国王の危篤という報をもってな。

小さな場所の領主だ。逆らえない。

その時になって、俺はこの領主の息子でないことを知った」


そして天を振り仰ぎ。


「後は馬車に乗せられ、サザールの屋敷に入れられた。

リコリスと会ったのもそのころだ」


ディルムットは私のほうを向いたけど、その眼はずっと遠くを見ている。過去の自分を。


「それからすぐ、あの離宮に移された」


四年近くも幽閉のような生活をしていたんだ。


「同情しているのか」


はっと私は我に返った。ちがう。同情とかじゃない。

でも、この感情は同情なのだろうか。


「うまく言えないけど」


頭の中がぐるぐる回る。


「あの。絶対に収穫祭の舞踏会を成功させよう!」


沈黙。


「そうだな」


私はディルムットを見やった。


「お前は、俺がそれをできると信じているんだな」

「そうよ。私もいるし、エヴァンズも、カマリエナもいるわ。

あなたは、ここに来たときとは違う」


そうだ。分かった。

伝えたいことは。


「あなたは一人じゃないから、大丈夫」


ふわっと風が吹き抜けた。

ディルムットが笑う。とてもきれいな笑顔だった。


彼の独り言は、私の胸の中にしまっておくことに決めた。


「さてと、燃え尽くしたようだな」


大穴の底にはおそらく灰が積もっているのだろう。さすがにそれを目視は出来ないみたいだ。

ひゅうううう、という音と一緒に風が吹き抜けた。

どこからか吹き下ろすような風だ。

でも、見やっても山はどこにも見えない。


「風の吹く谷からだ」

「ずいぶんとそのままなネーミングね」

「ひどく風が吹き荒れている場所でな。王都の近隣だが誰も近寄らない」


私はディルムットが指差す方向を見やった。小高い丘が見える。

おそらくその先が谷のように落ち込んでいるのだろう。


「あの谷を超えて、もっともっと北へ行ったところ。それが、おれの故郷だ」

「そうなんだ。いつか行ってみたいなぁ」

何気ない言葉だったが、ディルムットが笑顔になるのが分かった。何だろ。

この気持ち。なんだかすごく嬉しいんだけど……。

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