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貴方をだましていたわけではないのですが、実はここは……

窓から夕日が差し込んでくる。

今日は物のグループ分けも出来たので上出来だろう。


いや、もちろん終わってないけど。

ハウツー本には長期戦でもあり短期戦でもある、と書いてあったからピッチをあげなきゃ。


それにしても。


「さっきの箱、何が入っているんですかね」

「どうせ、洋服だ。あいつの家は商売をしていて、洋服を売っている」


私はそっと箱を開けた。

キレイに折り畳まれた洋服たち。あぁ、ディスプレイしたいなぁ。

その誘惑をぐっとこらえ、私はディルムットに向き直った。


「これをどこか別の場所に置きましょう。部屋に置いてはダメです」

「そんなところ、この離宮にはどこにもないさ」


またも、あの棘を含んだ言い方。


「……分かりました。じゃあ、廊下ですね」

「ろ、廊下?」


「はい。不必要ですから、リコリスさんに持ち帰っていただきます」


私はきっぱりと言った。

日本にいれば即、消費者センターに電話するところよ。

でも、それが存在しないんだから、実力行使だ。


「宰相とか言ってましたよね。

その方とリコリスさんがつながっているなら、その人を通じて持ち帰らせましょうよ」

「く、くくくく」


何がおかしいんだろう。


「お前、面白いやつだな。宰相にか。そうか」


もう一度、飲み込むように笑うとディルムットは私に向き直った。


「姶良。お前、俺の侍女になれ」

「侍女?」


うーんと、前世は販売員ですが。


「そうだ。それならば、お前を通して俺も命令が出来る」

「よく分かりませんが」

「大丈夫だ。お前に迷惑はかけない」


いや、ちょっと待てと私が思ったその時ディルムットが私の目を見つめた。

うわわ、この人、やっぱり超イケメンだわ。


「わ、分かりました!」


私は逆に思いっきり目をそらした。


「じゃあ、この箱を廊下に出してください」

「侍女が国王に命じる最初のことがこれか」


「今は汚部屋の片づけが何よりも大切です!」


きっぱりと言って、ゴミ袋に着ない洋服を放り込む。

男たちが抱えるようにして持っていた箱を、ディルムットが軽々と持ち上げるのが見えた。

イケメンの怪力で岩石マニアの国王。

ダメだ。

ツッコミどころしかない。



「お二人ともいかがなされましたか!」


エヴァンズの悲痛な声に私は目を開けた。

痛む頭を抱えて起き上がる。視線の先に、ディルムットが見える。


あの人、なんで横になってるの?

というか、顔色が変じゃない?


「ディルムット!」

「いててて」


うっすらと眼を開けて、ディルムットが起き上がる。

私と同様に頭が痛むのだろう。こめかみに手をやっていた。


「エヴァンズさん、窓を開けてください」


大切なことを忘れていた。

積み重なったものの山で窓が開かなかったから、換気をしていなかったんだ。

窓を開け放つと、さぁっと気持ちのいい風が吹き込んできた。


でも、どうして頭がこんなに痛くなったんだろう。たしか、二人で洋服ダンスを開け始めてからだ。


「エヴァンズ、今日はこの部屋では寝れん」

「かしこまりました。しかし、その」


「分かっている。どこもかしこも、物だらけなのだろう」


二人の会話に私は耳を疑った。


「ちょ、ちょっと待って。ということは……」


私の言葉にエヴァンズが小さく肩をすぼめた。


「姶良どの。

だましていたわけではないのです。

ですが、陛下のおっしゃる通りなのです。この王宮は、どこもかしこも物で埋まっているのです」


私は自分の客間に思い当たった。洋服ダンスが五つもあるのはそういうことだったのか。


「おい、姶良。お前の部屋にソファはあるか」

「え、ありますけど……タンスの間でL字型に変形してますよ」


「陛下、年頃の女性の部屋ですぞ!」


珍しくエヴァンズが鋭い声をあげた。


「これは俺の侍女だ。どう扱っても、いいはずだ」

「いやいや、それとこれとは話が別でしょ」


さすがに私はディルムットを睨みつけた。

年頃(?)の男女なんだからちょっとは考えてほしいわ。

ディルムットはそんな私を金色の瞳で睨み返す。


「陛下。今夜は客間でお休みください。

姶良殿。大変申し訳ないのですが、本日は私の娘の部屋にお泊まりいただけないでしょうか」

「あのグリーンのリボンの……」


今朝、ベリーを摘んでくれたかわいらしい少女のことだろう。


「覚えていてくださいましたか。私の一人娘でして、クローディアと申します」



そうして、私はクローディアと一緒の部屋にいた。


「ご挨拶をしておりませんでしたわね。クローディアです」


ちょこんとお辞儀をするクローディア。ふわんとポニーテールが揺れた。

昼間見たリコリスは百合のように一輪で存在感があった。

それに対してクローディアはまるで桜だ。散りゆく姿を惜しむかのようなその愛らしさは、天性のものだろう。


「姶良様?

私の顔に何かついてますか?」


しまった。

可愛すぎて凝視しちゃってたわ。


「あ、ごめんね。えーっと、自己紹介するね。汚部屋掃除係の姶良です」


言いながら私はソファに座った。ふかふかだわ。


「私がソファで寝ますから」

「でも、お客様なのに……」

「気にしないで。ふかふかだから大丈夫だよ」


いやー、ベッドの上に物がないっていいなぁ。それだけでも私の部屋よりは天国だ。


だがぐるりと見渡せば、やはりこの部屋も物で満ちていた。

ディルムットの部屋のように足の踏み場が無いわけではない。

面積からすると物が多い。開けてない箱が窓辺に積み重なっているのも同じだった。


汚部屋掃除係の出番はまだありそうと思ううちに、眠気が襲ってくる。


「では、おやすみなさいませ」


クローディアがグリーンのリボンを箱にしまうのが見えた。

着ているドレスもグリーン。

あぁ、気になるなぁ。よほどのグリーン好きなの?

でも全身グリーンってのも、どうなのよ。


「クローディアさん、あのね聞きたいことがあるんだけどさ……」


そう言いながら私は気づかぬうちに眠りに落ちていた。

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