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恋という名の毒

眼を開けると、天井が見えた。

なんとなく身体が火照り、意識がぼんやりとしている。

そうだ、私、倒れちゃったんだ。

身体を起こそうと思ったが、足に力が入らなかった。


扉の開く音がして、私は何とか頭を横に動かした。

誰だろう?


「姶良!」


ディルムットだ。


「……」


うまく声が出ない。


「薬を作ってきた。飲めるか?」


言いながら私をそっと抱き起こす。

私はぼんやりとディルムットを見つめることしかできなかった。

薬を飲まなくちゃ。


「ゆっくりでいい。無理をしないで飲むんだ」


私は何とかコップに口をつけた。

少し甘い液体はするすると喉を通っていく。

飲み干した私をディルムットがそっとベッドに横たえる。


「毒を盛られたようだな」


私は声を出すのを諦め、目で頷いた。


「リコリスか」


リコリスはあの飲み物に毒を仕込んだ。

おそらく自分は中和剤を飲んでおいたにちがいない。


「大丈夫だ。岩石を使った毒だったからな。俺がすぐに治してやるから」


私の手をディルムットが握る。この人の手、こんなに大きかったのね。

謝らなくちゃ。結婚したいというこの人の言葉を煙に巻こうとした私の行為を。

私はその手を小さく握り返した。


「側にいるから、安心して眠るといい。すぐによくなる」


その声が心地よくて、私はゆっくりと目を閉じた。

とたんに眠気が襲ってきて、すぐ意識は途切れてしまった。


コトン、コトンと音がして私は目を覚ました。

誰か部屋にいる。汗びっしょりで気持ちが悪い。

私は無理やり身体を起こした。


「姶良様!」


カマリエナの声に我に返る。


「よかった。ディルムット様の言ったとおりでございます」


そこまで言って言葉を詰まらせると、カマリエナは一瞬、眼のはしをぬぐった。


「湯浴みをいたしましょう。ひどく汗をかかれているのではありませんか?」


カマリエナに促され、そっとベッドを降り立つ。

隣の部屋を開けると、そこはテラスに近い形状となっており、正面にバスタブが置いてあった。


お風呂だ!

湯を浴び、そっとバスタブにつかる。気持ちいいなぁ。


「ディルムット様がお湯を作られたのです。姶良様が目覚めたら汗びっしょりだろうからと」


カマリエナの言葉に私は自分の胸に手を当てた。

ディルムット、そこまで考えてくれてたんだ。


「姶良様が倒れて、最初、陛下は酷く狼狽されました。ですが、すぐに治療法を発見されて」

「そうだったのね」

「それに、とても怒っておられました」


私は湯船に目をやった。

リコリスに?

それとも、軽率な私に?


「姶良様を守れなかったご自分にですよ」

「え……?」


「この離宮で舞踏会が成功すればマーガレット商会は必ず宣戦布告をしてくる。

その際に狙われるのは、自分か姶良かの二択だ、とディルムット様は始まる前におっしゃられました」


私は言葉に詰まったままカマリエナが次の言葉をつむぐのを待った。


「そこまで分かっていたのに、姶良様を危険にさらした自分自身が許せないのですよ」

「そんなのディルムットのせいじゃない。私があのグラスを断ればよかっただけよ」


グラスなんて床にたたきつけてやれば良かったんだ。


「姶良様。陛下の伴侶になるのはお嫌ですか?」

「……いや、とかじゃなくて」


私は湯船にうもるようにして言葉を濁した。

ダメだ。しゃんとしろ、私。


「姶良ぁぁ!」


バンと扉が開く。

カマリエナがきっとディルムットをにらむ。


「湯浴みの最中でございます!」

「す、すまん、どうしても、心配で!」


ディルムットは顔を真っ赤にして入り口で立ち尽くしている。


「私なら大丈夫」


私はカマリエナの背後から大声を上げた。


「私、あなたが大好きよ」


ディルムットが私を見る。信じていいのかと目が問うているのがわかる。


「だけど、結婚は待ってほしい。まだ考えられないの。でも、あなたが好きよ」


言いながら私は自分の顔が真っ赤になってくるのが分かった。


「ええと、ま、また毒が回ってきたから、その、扉、閉めてくれないか、な」

「そ、そうだな。また薬を作って、おく、そう、だな」


ぼやぼやと言葉をつむぎながら入り口付近をうろうろするディルムットをカマリエナが追い出すと、ぱたんと扉を閉めた。


「姶良様、恋の毒の治療法はありませんよ」

「ううう。そんなの、分かってるよぅ」


私はもう一度湯船につかると眼を閉じた。

でも嘘はついてないから。

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