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あなたと勝負したいわけじゃないけど結局そうなるならお相手します

少女と大柄貴族を見送ったカマリエナが振り返る。


「姶良様。うまくいきましたね。ほかの貴族たちも注目すると思いますわ」

「うん。あの子ならクローディアと年もかぶらないし、ちょうどいいわね」


「……あの貴族は、エヴァンズの下で働いていたものでございます」

「ふうん、なんか関係がありそうとは思ったけど、そういうことだったのか」

「私は詳しくは存じませんが、エヴァンズは彼と前国王陛下との一件で袂を別った、と聞いております」


前国王の名前も顔も知らないが、よくない一件であったことだけは感じている。

でも、今の私にはどうにもできないのだ。そうだとすれば。


「それならなおのこと、絶対に成功させるわよ」

「はい。姶良様。お伴いたします」


カマリエナと別れ、私がテラスからホールに戻ると、先ほどの少女は父親と一緒に貴婦人に囲まれていた。

ある一定以上の年齢の貴婦人のドレスを着替えさせるのは、正直いって至難の業だ。

時間もかかるし、コルセットやパニエは外すだけで無理ゲーだ。


あんなに可愛い女の子が着てくれるなんて、助かったわ。

宣伝効果は抜群ね。


そのときだった。

ふと視線を感じ、顔を横に向けた瞬間。


「あなたの仕業ね」


リコリス。こんな近くにいたとはね。あー、ビックリした!


「お褒めにあずかり光栄です」

「褒めてないわ。目障りだといったのよ」


これが本音なのか、揺さぶりなのかがイマイチ分からない。

けれど、こんなにはっきり言ってくるとは思わなかった。

リコリスは私にグラスを差し出すと無理やり手に握らせてきた。


「あなたも見て分かるとおり、この国の流通は我がマーガレット商会が行っているの」


独占禁止法じゃないの。学校で習わなかったのかしら。

それにしても、こんなに堂々と言うなんて、それだけの自信があるということなんだろう。


「その流通を滞らせようというのかしら?」

「いいえ」


リコリスが私にグラスをぶつけてくる。


「同じ意見ね。乾杯しましょう」


無理にでも飲ませる気のようだ。しかし、これを飲むのは危険すぎる。


「私のような侍女とは酌み交わすべきではありません」

「あなた、今日のファッション担当でしょう。気になるのよ。あなたの意図が」


リコリスは私のグラスをとるとグッと飲み干し、自分のグラスを私に手渡した。


「これなら、恐くないでしょ?」


ダメ。逃げきれない。

私はうなずいて、リコリスから渡されたグラスに口をつける。

軽めのシャンパンだ。酔うようなものではない。

ほとんど飲まずにグラスを口から離す。


リコリスが満足げに笑った。


「ねえ、あなた。マーガレット商会に来ない?」


意図を測り損ねて私はリコリスを見やった。


「さっきのドレスの着付け、見事だったわ。私の下で腕を振るうべきよ」

「いえ、私は女性に美しくなってほしいだけです」


流れを変えないと。

このタイミングでやる気はなかったが、私は笛を取り出して高らかに吹きあげた。


「な、何をおかしな真似を……」


その瞬間、ホールにさまざまな映像が浮かび上がった。

仕込んでおいたエピクリアだ。


色とりどりの着物ドレスを身に着けた離宮の次女たちが微笑みながら歩いている。

一切の装飾を省き、着物ドレスの優雅さだけが引き立つ。


そう。侍女たちはポーズをとることが出来ないので、見せ方でリコリスに勝つことは不可能。

しかし「微笑む」と「美しく歩く」は侍女たちの作法でもある。


これを前面に押し出せばどうなるのかというと。

その証拠に令嬢たちはエピクリアをうっとりと見やり、はぁと感嘆のため息をついた。

少女たちは「あれがほしい!」と親たちを困らせている。


ディルムットが手を打つ。

ふうっと映像が消えて、開け放ったドアと窓から、ふわぁっと新緑の風が吹き込んできた。


貴族たちは夢から覚めたようにお互いを見やりディルムットを見た。


「今のは、私からの提案だ。美しくありたいと思う女性たちに喜んでもらえればよいのだが」


イケメンだわ。見惚れる。

見れば私だけでなく貴族の女性(男性も数人)たちは、うっとりとディルムットを見やっている。

その刹那、隣にいたリコリスから殺気を感じて、私は距離を置いた。


「あなた、自分が何をしようとしているか分かっているのかしら」


目の前にいたのは冷徹な目をした商人だった。

間違いない。彼女が商会を牛耳ってる。ただのお飾りの商人の娘ではない。


「ええ。この国の国王はディルムット様ただ一人のはずですから」


私の言葉に、リコリスはふっと笑いを浮かべた。


「それならば私と陛下が結婚し、この国を潤わせるのが一番でしょう。あなたは必要ないわ」

「リコリス様はディルムット様の何を知っておられます。何がお好きかご存知ですか?」


「知る必要がないものには興味がないわ。

私があの方にふさわしいものをあてがうだけなのだから」


話が通じないんだけど。この人、サイコパスってやつじゃないの?


「あなたは、この世界に必要がない。命を大事にしなさいね」


ゾッとするような眼で私をにらみつけ、リコリスは香水の香りを残して去った。

宣戦布告されたんだ。

私は胸の前で手を握り締める。

怖くないといえば嘘になる。

前世で命を狙われるような立場になったことだってないし。

けど、ここで投げ出すのは私の性格上無理なのよね。


「命は大事にして、あなたにも必ず勝つわ」


私は小さくつぶやくと、その場を離れた。

気を取り直さないと。最後のパフォーマンスなんだから。しっかりしなくちゃ。


その気持のまま料理長のサングリエに合図を送った。

岩石を準備して、これから肉を岩の上で焼く。

パフォーマンスではあるが、ディルムットの炎の力を平和的に知ってもらうには十分なはずだ。


そのときだった。


「こ、これはぁぁあっ!!」


誰かの絶叫が廊下にこだました。バタバタと廊下に貴族たちが躍り出る。

見ればサザールが部屋の扉の前で腰を抜かし、大仰に騒いでいた。

あそこって……。まずい!!

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