The Radio Girl 7
白いワゴンが研究所の正面玄関の前で加速する。中からゾロゾロとマスクを被ったテロリストが現れ、銃を乱射する。フロンドガラスが割れて破片が飛び散り、運転手の額に傷が付く。思い切りハンドルを握って右に切った。今度はサイドのガラスが割れるが反対側からドアを開けて花音とシュメイルと運転手が車から降りる。
「車体はそう長く持ちこたえられそうにありませんね」
「花音はここで、なるべくあいつらを引き付けといて。私はちょっくら姉妹を取り返しに行ってくるわ。あんたに何かあったら私の首が飛ぶからね、無茶する前に離脱しなさい。貴方は即座にここから離脱を」
花音と運転手にそういって、シュメイルは魔術師の透明になる結界を張ってタイミングを見計らって飛び出した。正面ではなく裏口を目指して走っていく彼女の背中を眺めながら花音は言われた通りに時間稼ぎに専念する。テロリストの数が思ったよりも多く、銃を乱射しながら周りこんでくる様子が見え、花音は腕の前腕部位から小型のガトリングを出して応戦する。何名かに命中し、慌てて彼等も距離を置く。車体から煙が上がり、持ちそうにないと判断して車から離れた。判断が良かったのか、大きな爆発を起こして車が吹き飛ぶ。そのまま銃を乱射して特攻を仕掛け、彼等を建物の中へと追いやった。サーモグラフィーで熱感知を試みると、彼等は密かにドアの前に息を潜めている。仕方なく、爆発して炎上している車を持ち上げてドア毎ぶち破った。複数名負傷して、車の下敷きになっている。
「糞っ!!何なんだありゃ!!こっちがもう持たねえ!!」
「大丈夫だ、こんな事もあろうかと、対妖怪用の用心棒がこっちにゃついてる」
「あいつがか!?何の装備も着てない唯のゴロツキじゃねえか!」
「唯のゴロツキねえ、違げぇねえ。ここは任せてバックに合流しな。何かしらんが、あっちも騒動になってるってよ」
こくりと頷いて、テロリストは階段を上っていく。真紅に燃える様な赤い髪の男。耳にピアスと腹に包帯を巻きこんだ赤い特攻服と黒いズボンを履いたチンピラ。目は鋭く、獲物に飢えた獣の目をさせている。彼が悠々と外に出ると、花音が警戒して距離を取る。
「んじゃおっぱじめようぜ。本気を出す必要は感じないがこれも仕事だ」
花音が銃を乱射するも、全て両手で止められる。銃声が終わると、彼の掌から地面に弾丸が落ちていく。
「移動砲台か?つまらんな」
花音が距離を置くより早く、彼は花音の距離を詰めた。腕を掴まれてそのまま握り潰されれ、もぎ取られた。その微動な隙に、花音が蹴りを首に食らわせたもののまるでびくともしない。
「機械とはいえ、女型のアンドロイドを達磨にすんのは趣味じゃねえが」
足を封じようと彼が攻撃を仕掛けようとした時、周囲に炸裂弾が彼を捉えていた。
「――――――魔術師の魔法か!!」
花音を離して上空に跳躍するが、追尾されて仕方なく拳で全て弾く。触れた先から爆裂して、彼の衣類に焦げ目がついた。
「勘弁してくれよ、大事な一張羅なんだからよ」
地面に着地して攻撃を仕掛けた先を見る。また二人の少女がそこに立っているのが見えた。片腕を無くして腕から火花が散っている花音に二人は寄り添った。
「吸血鬼の眷属って訳じゃなさそうだが、何もんだ?」
「花音さん、後で色々聞かせて貰うわ」
摩子がそういうと、携帯をタップして結界を張る。
「いけません。貴方が魔女であろうと勝ち目はありません。時間を稼ぎますので逃げて下さい」
「んー何だろう、ああいう雰囲気どっかで見た事あるかも。波動が狼っぽい感じ」
「いかにも、俺は人狼だ。力を出してないもんで、そんな感じしないだろうがな」
彼の携帯に電話が掛かって、電話に出ると彼は興が冷めた目で3人を見据える。
「ったくさっきの連中何しに行ったんだよ。まぁいいや、お前ら、そいつ連れてとっととここから離れな。また巻き添え食うかもしれんぜ」
そういって、人狼の青年は手を振りながら3人を残して建物の中に入っていった。綾乃が力を解放すると彼女の腕が再生していく。上層階から爆発の音が聞こえて、上からさっきのテロリストが地面に落ちてきた。咄嗟に摩子は周囲に透明になる結界を張る。
「貴方は、一体何者なんですか」
花音の当然の疑問に、綾乃は答えた。
「私にも自分の事分かってない。けど、私は自分のこういう面を見ても驚かない、理解してくれる人を探ししているの。もしかしたら、誰か何か知っているかもしれないし」
「動けるようになったんなら、とっとと逃げるわよこんなとこ」
そういって、3人は爆発を繰り返す建物から離れるように走り去った。
道路に出て山道を登っていく。
「積もる話は後にしましょう。摩子さんも、訳ありのようですね」
「まぁね。それでもこの子程じゃないし、貴方も魔術師に作られた自動式人形でしょう?向こうに行った時に見た事あったから薄々違和感はあったんだけど」
「お見通しでしたか」
「じゃあ、人間じゃないんだ?」
「はい、私は魔術師の技術の粋を集めて精巧に作られた古いタイプの自動式人形です」
花音は笑顔でそう告げて、2人と共に山道を走り続けた。
研究所の最上階の廊下で、覆面を被った人物がテロリストを相手に圧倒していた。狭い空間の中で銃を持つ相手に刀一つで接近戦で相手を薙ぎ倒していく。被弾もせず、刀一本で弾を弾くか切り捨てる。黒いタンクトップに防弾ベスト。迷彩のズボンと腰に銃を携え前進していく。気がつけば十数名いたテロリストは3名にまで減っている。
「吸血鬼の子飼いの者か!?」
その人物は何も答えない。
ゆっくりと前進していくその様に恐怖を覚え、残ったテロリスト達はその悪鬼羅刹に銃を撃つ。気がつけば相手はどこかに忽然と消えテロリスト二人が窓の外にダイブしている。いつの間にか背後を取られ、最後の一人の首に刀を突きつけて尋ねる。
「違法に手に入れた自動式人形は今どこにある?」
「おっ屋上だ!!今頃荷物を積んで離陸準備に入ってるだっ!!」
最後の台詞を吐く前に、彼を窓の外に放り投げた。正面玄関の近くで、女の子3人が逃げているのを確認してため息を吐く。
「任務は達成。後はおつかいをどこまで頑張るか」
後ろ端の階段から下の階層で様子を伺っていたテロリストが姿を現したのが見え彼等の後ろにある壁にクナイを突き立てた。但し、パイナップル型の爆弾付きで。轟音と爆発が起きて、正面を向いて歩き始めると急に悪寒が走って、背後に迫る何者かに備える。
「あんた強いねぇ。ちっとは楽しめそうだ」
赤い特攻服を着た若い青年が、刀を持つ人物に強襲する。体格差は歴然だったが、男の素早い動きに対して微動で回避し、下がりながらほぼその場から動かず対処している。刀を持つ人物が身を低くして前に転がり、反転してから、足を狙って攻撃するがジャンプして回避される。お互い距離を取って再度構える。覆面の人物が腰に下げたハンドガンを取り出して剣と銃の二つを携えた。先に攻撃を仕掛けたのは人狼だった。正面から殴りかかろうとするタイミングを見計らって銃を発砲する。男はそれを掌で受け止めようとしたが貫通して首と胸に弾丸が突き刺さり、思わず人狼の動きが止まった。その隙を逃さず、後ろ回し蹴りを胸に当てて後ろに吹き飛ばす。しかし、何事も無かったかのように起き上がって、男は赤いオーラの様な物を纏う。
「お前普通の人間じゃねえな?陰陽か教会か、いずれにしても裏の顔だ」
犬歯がより鋭くなり、爪も伸びる。傷も塞がり、治っていく。
「ちっと本気出してやる。もっぺん撃ってみ?」
試しに発砲すると、俊敏な動きで回避された。
「確かに、素早さは増したみたいね」
銃を手放して、刀を構える。人狼は目の前の刀に危険を感じた。一歩後退して距離を取る。しかし、人狼はその危険に敢えて踏み込んだ。刀は微弱に光り輝き、破邪の光を照らす。剣の間合いに入る刹那に後ろに跳んで刀を回避する。振り下ろされた刀の異常な力を前にして息を呑んだ。
「妖刀村正にも勝るとも劣らん、妖魔滅殺の類のあれか」
「貴方もそれに気づいて、動きを止めたのは流石、元牙狼の王ね」
「知ってやがったか。陰陽庁だな?そんなにあの妙な人形が欲しいのか」
「この国の法律じゃ、魔術師の世界から急速に発展した技術の流入は国の許可無しには認められていない。法改正にはにはもう少し時間が必要。それより透明になったくらいで気配の消し方は素人ね」
刀を何も無い空間に翳すと、その場にシュメイルが現れる。
「エリザ様と陰陽庁とで密約があるって聞いたんだけど?」
「今回の一件を存分に主に伝えればいいわ。散々送った書状を無視した罰ね」
警察よりも早く自衛隊の車が到着し軍用ヘリコプターの音が幾重にも重なり、響き渡る。武装した集団が建物に乗り込み残党の掃討とまだ息のある人への救護活動を同時に展開する。
「時間切れっぽいなぁ。おいあんた、今度会ったら最後までやろうぜ」
男は、最後にそう告げて、窓から飛び降りこの場を去った。人形を乗せたヘリコプターは運転を失敗したのか、焦ったのか勢い良く回転しながら、海の中へと突っ込んで爆発し、海の藻屑となった。