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Board game of the witch 6

「えーっと、今日は俺なんかの為に集まって頂いて⋯」


「いや、お前の為だけじゃねえだろ」


「晃、突っ込みうっさい。退院祝い兼ねてるんだしいいだろ。それじゃ皆色々あったけどお疲れさまっした!!乾杯!!」


『乾杯~』とその場の全員が声を合わせる。


京都駅前にあるファミリーレストランで早苗、葵、綾乃、花音、摩子、晃、智也、心菜がそれぞれ頼んだ飲み物を手に持って乾杯した。以前言っていたエイリアン騒動のお疲れ会である。長いテーブルにドリア、ポテト、唐揚げ、食べ物も沢山ある。皆適当に食べて、談笑して落ち着いた所で智也が葵に尋ねた。


「そういえばさー。葵って何か初めから綾乃さんと仲良いよね」


その話題に、摩子も食いつく。


「そうね、ちょっと私も気になってたわ。二次元人の一件の時から名前で呼んでたし元々知り合いなの?」


花音が脳内であの時の情報を引き出す。


「用が無くなったら捨てるんだもんね。まるで忘れたみたいにさいいよいいよ。どうせ私なんて利用されるだけの都合の良い女だもんねと綾乃さんは仰ってますが」


葵が飲んだ物を勢い良く吹いた。端に座っていたから良かったものの、大惨事である。


「葵マジ最低だな」


「どん引きだ」


「葵君、女の子を弄んだ罪は重いですよ?」


晃、智也だけでなく早苗にまで言われる始末。


「違うって。今年の2月の終わりくらいに陰陽庁でやってけるかの初の事件でさ、初めて会って」


「そうそう!何か街で異変が起こってると思って追っかけてたら偶然出会ったんだけど、私に見えるなら協力しろって言ってきて。手伝ったのにお礼もないんだよ!?」


「すまん、あん時、河童とか何かの妖怪の類いだと思ってた。強いて言えば名前を聞いた「あやの」って妖怪だって思ってたんだよ。高校に入って入学初日に隣の席のお前を見るまではな」


妖怪だと思っていた存在が学校初日にクラスが一緒で隣同士だったという恐怖。


「ね、酷いよね。しかも高校で会ってから私と会った事無い様に振る舞ってたし」


「それはお前が悪いわ。綾乃ちゃんは座敷童子だろうが」


晃が言うと智也が反論する。


「いや、天女でしょ。俺の体治してくれたし」


「えー?学校に居るって専らの噂の雪女じゃないの?」


人狼3人組が熱弁すると、葵が答えた。


「いや、綾乃は変な力が使える普通の人間なんだよ」


「何だ退魔師みたいなもん?」


「違うと思うわ。私と最初会った時に魔力や私自身を関知されないように結界張ってたら、逆に見えるって言ってたくらいだもの」


魔女が魔力を教会に関知されない様に張る結界を易々と見つけて壊して来た。ちなみに家の周辺にも張ってある。


「結局、綾乃さんの正体って何?」


心菜が尋ねると、首を傾げて綾乃も答えを濁した。


「うーん、そう言われても私にも、良く分かんないんだ。昔は自分が人間じゃなくて妖怪だと思い込んでたけど」


「正体が何であれ、綾乃さんは、綾乃さんでいいんじゃない?」


早苗がそういうと、その場の全員が頷いた。


「そういえば、最近話題になってるお化け屋敷知ってる?」


ここ暫く無かった事件の匂いに綾乃は目を光らせた。


「知らない!!教えて!!」


「綾乃さんは本当にオカルト好きね」


摩子が呆れると花音が検索し始める。


「オカルトスレッドに、そういった類いの書き込みが幾つもありますね。肝試しに洋館に向かう人が後が立たず、ちょっとしたホットスポットになってます」


「本当ね。陰陽庁にもまだ何も言われてないけど、被害者が出たら分からないわね」


困ったわと早苗が呟く。


「場所はスレに載ってるの?」


晃の問いに花音は答えた。


「正確な位置までは分かりませんが、ある程度までなら。車でここから2時間半くらいでしょうか。そこからは足で探す事になるかと。車なら私が呼べば出しては頂けますが」


どうしますか、と花音が尋ねると智也が即答した。


「明日休みだし、肝試しも悪くないな!!行こうぜ晃、葵」


「心菜はどうする?」


「面白そうだし、行ってみようかな」


心菜もノリノリで言うと、葵が呆れて言った。


「魔女に、電波、フランケン、狼男に退魔師か。ホラーの館が吃驚するんじゃないか」


「それは言えてるわね」


摩子も葵に苦笑して頷いた。


時刻は夜の8時頃、森の中を走るワゴン車が一台ライトを点けて走行している。周囲に人は居ないだろうと踏んでいたが、思いの外車がちらほら見える。中には車を止めて集団で携帯をいじっているのも伺えた。最近噂になってる洋館を探しに来ているのだろう。


「それで、私が何であんた達のお守りなんて」


「いえ、来て頂いた時点で帰って頂いても良かったのですが」


「あんた放っておいたら私がエリザ様に怒られるわよ!!」


助手席に座るシュメイルが、後ろで騒ぐ学生組に憤慨している。全員呑気にこれから向かう洋館の話に花を咲かせている。人数が多くなるとの事で、いつもの白いワゴンではなく椅子の多い別の大型ワゴンで駆けつけた。従って花音のメンテナンスを行う電子椅子や簡易室もない。花音の願いなので断ってもエリザに怒られるだろうし彼女達の夏の思い出に一役買うしかない。ふと、綾乃は前方に目を向けた。以前見覚えのある淡く光っている物が見える。窓から顔を出して肉眼でも確認すると、間違いないと確信を得た。


「何か光ってるんだけど、皆も見えるよね?」


同意を求めたが、全員の頭に疑問符が浮かび上がる。


「いや、全然。真っ暗なんだが」


「めっちゃ暗いけど、綾乃さん何か見えるの?」


葵と晃がいうと摩子はピンときた。


「ひょっとして、私の時と同じ物?」


「そうそう、摩子さんが張ってた結界みたいなの!!」


「結界って、関知されない為の物なんだけどね。どっちの方向?」


「左側!!森の中で半球体みたいなのが見える!!」


「それが、最近噂になってる洋館じゃない?」


心菜がそういうと、全員察した。


「皆探し回ってるのになかなか見つからないのは隠れてるって事か」


山道の途中で車を停車して全員降りる。


「いいかしら!!22時には戻る事!!これ以上遅れたら許さないわよ!!」


全員に小さい懐中電灯を手渡して、シュメイルが吠えた。それから直ぐに缶ビールを手に持って冷房を利かせた車内へと戻っていった。ガードレールを越えて森を進めば、綾乃の言う半球体へと辿り着く。


(私の時と一緒って事は、この先に私と同じ魔術師がいる可能性もあるわね)


ふと摩子はそんな考えに至った。魔術師の世界で悪事を働き、こちらの世界へ渡った者も少なくはない。半端な自分と違って上位の魔術を扱える魔術師は桁違いに強い。綾乃が居なければ、この先へ進むという選択はしないだろう。摩子は改めて全員を見渡した。電波少女、人狼3人組、退魔師二人に自動式人形、そして魔女。今から遊園地のアトラクションへ向かう様に皆浮き立って目的地へ歩き始めた。

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