One day of Romance
今度、皆で水族館に行こうかと思ってるんだけど橘君もどうかな?そっちも他の男子誘っていいからこっちは女子2,3人の予定だよ。日曜日の10時に水族館前集合で。この前のお詫びも兼ねてるから是非来てね
佐倉 摩子
といった内容の文面がメールで送られていた。ここ最近忙しかったので、陰陽庁から暫くの休養を貰っているので暇潰しに丁度良いと考えていたが10時になっても、一人しか現れない。
「皆、来ないね。どうしちゃったんだろ」
「嵌められた気がする」
さっきから、綾乃が電話をしているが一向に連絡が付く気配がない。葵も晃を誘ったが、来ると言っていたのに来る気配が無い。ほぼ二人同時にメールが飛んで来て、同様の文面が画面に映し出されている。
葵へ
智也と俺はちょっと遅れるんで先中に入って楽しんでてくれ
「じゃあ、お言葉に甘えて先に入るか」
「うん。皆すぐに来るよね!」
受け付けで入場料を払って、二人は先にゲートの列へと並ぶ。その様子を遠巻きに見ているマスクとサングラスを掛けたいかにも怪しい男女の集団は、その光景を見て思わず全員ニヤついた。晃、智也、心菜、洵、摩子の5人である。
「実は、全員すでに来てるんだなぁ~これが。こんな面白い企画に呼んでくれてマジでありがとう」
「フフフ。いえいえ、こちらこそ協力して貰ってマジで感謝するわ」
摩子と晃は二人して嫌らしい笑みを浮かべたまま会話している。
「お前、絶対後でからかう気満々だろ」
智也がそういうと、摩子が釘を差した。
「良い雰囲気になったら、水差しちゃダメだからね」
「なるかなぁ。色気より食い気な子だからちょっと心配」
「洵さんも、そろそろ子離れしないとね」
「今日は花音さんは来てないのね」
心菜が尋ねると摩子が答えた。
「うん、用事で来れないって」
「そっか、残念ね。じゃあ私達も後をつけましょ」
綾乃と葵はまず、川の生き物がいるゾーンに足を運んだ。オオサンショウオが窓越しに二人に視線が合う。
「世界最大級の両生類とか書かれてるね。何か貫禄が違うね~」
「そうか?良く見ると間抜けな顔してると思うが」
「そこが愛嬌なんじゃないの?」
「愛嬌ねえ」
次に移動して、オットセイの泳いでいる水槽を見て流石に葵も驚いていた。そして大きな筒のかたちをしたチューブ状の水槽。実は、隣の水槽と床の下でつながっており、ゴマフアザラシが自由自在に行ったり来たりできるらしい。チューブ水槽から浮かびあがる様子は、まるで空を飛んでいるかのような錯覚に陥る。綾乃はアザラシに手を振ると、アザラシも嬉しそうに手を振っている様に見えた。
「へへへ。手を振って貰えたよ」
「良かったな。あっちにペンギンの餌やりも出来るみたいだけど、行くか?」
「うん、行ってやってみよう!!」
綾乃は葵の手を引いて、餌やりを体験出来るプログラムの受付に行くとよちよち歩いてくるペンギンの群れに魚を食べさせると嬉しそうに羽ばたく。餌やりを体験した後は暫く二人で砂場で戯れるペンギンを眺めていた。可愛いペンギンを見て楽しそうに笑う綾乃を横目で見て、思わずドキリとしてしまう。
手と手が触れ合う距離にある事に気づいて思わず緊張してしまった。綾乃は屈託の無い笑顔をこちらに向けていて、気にしてはいないようだ。
(こういう、普通なとこもあるんだよなぁ。ん?)
途中で、寒気を覚えた。思わず後ろを振り向いてしまう程に。
「何だ気のせい・・か?」
綾乃と葵が居る場所から少し離れた位置からマスクの集団が暴れる女性を抱えてその場を去っていく姿をその目で捉えた。
「あんにゃろう!!綾乃の手を握りがやって、マジでぶっ殺す!!」
「気持ちは分かるけど、洵さん子離れ!!ね?」
暴れまわる洵を摩子が必至に説得を試みるが無理そうだ。
「気持ちは分かるっつーか。リア充マジで死ねばいいのに」
智也も洵の暗黒面に引きずられる。
「俺ら、何しに来たんだっけ」
「この人を抑える為に案外呼ばれたのかもねえ」
心菜と晃も、摩子に視線を移してから、全力で二人の邪魔になるであろう洵を抑え込んだのであった。会場内にあるフードショップで昼食を取った後、目玉であるイルカのショーを見て葵と綾乃は心から楽しんだ。そのすぐ側で物凄い形相の洵が居るとも知らずに、であるが。その後も、残りのゾーンを二人で歩き回って踏破すると、最初のゲートに二人は戻った。
「楽しかったね!!水族館」
「そうだな、楽しかった。丁度気分転換したかったから良かったよ」
二人の後ろから、大声が響き渡る。
「あ~や~の~!!」
「洵ちゃん!?わっぷ」
勢い良く、洵が綾乃に抱き着く。それから虎の如く葵を睨み付けた。
「一体、何なんだよ。っつーか、そういう趣向か?」
視線を移すと変装を外した摩子と晃と心菜と智也が居る。
「正解♪洵さん抑えるのに苦労したんだからね、これでも」
「マジで要らん世話を焼いてくれたもんだな」
葵が呆れると、晃と智也が葵の肩を組んでひそひそ話を始めた。
「で、どうよ?リア充宜しく綾乃ちゃんとデートした気分は?」
「これ、紅葉ちゃんにチクっても問題ないんだよなぁ?」
「お前ら、何か奢るからマジで勘弁してくれ」
何かしら理由を付けて雷を飛ばしてくる紅葉の姿が容易に脳裏に浮かぶ。
「へっへっへ旦那ァこっちゃ二人のイチャラブっぷりを見て悶々しっぱなしでさァ。ハンバーグ定食でもゴチにならんと割りに合いませんぜ」
心菜もノリノリでそう言うと、葵は観念した様に頷いたのだった。葵の奢りで、館内のレストランで食事をした後、今度は最後に全員で水族館を見て回り、時間が来て駅に向かう。
「今日は、ありがとうね、楽しかった。また、皆でどこか行こうね」
「そうだな、今度はUSJにでも行くか?一度も行った事ないし」
「いいね、私も行った事ない!!」
夕暮れになり、世界が紅色に染まって、綾乃と葵は次の話をし始めた。お互いに色の付き始めた変化に気づく事は無かったが、一緒に歩を同じくして歩き始めたのだった。




