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Avengers Requiem 12

 

 夜になる。眠りに付くと同時に林の中から新しい体に変化した自分に意識が移った。今日は月が映える良い月夜だった。自分を追っているらしい少年の家に、会いに行ってやろうと眠る前からウズウズしていたのだ。行動を開始して、民家の屋根を伝って移動を始める。最近の携帯機器は便利になったもので、住所を検索すれば大抵はマップで詳細に出て来る。寝るまでの間に頭に位置を叩きこんで移動の時間に1時間が経過した。今までは少し腰が低い姿勢で動き回らねばならかったが、今は2足歩行で動き易い。ようやく目的地に辿りつくと、家に電灯が付いていない事が気になった。


(何だ、ひょとしてもう寝てんのか?)


周囲を警戒して、人が来ない事を確認して、窓を尻尾で割ると家の中に侵入した。


(別の部屋に居るのかねえ)


扉を壊して、進もうとすると壊した窓から声が聞こえた。


「これで繋がったなぁ斉藤庄司君。君だろ?噂のエイリアン」


振り向くと、中にもう一人茶髪の眼鏡をかけた少年が立っていた。


「あらあら」


浦美は、拾った財布を届けようと智也を追いかけた。背中に追いつくと、財布を掲げて声を掛ける。


「落とし物よ?」


差し出したが、智也は受け取ろうとしない。


「その財布、斉藤庄司に渡して貰えませんか」


「あら、どうして?」


「中に、嘘の住所を書いたメンバーカードが入ってます」


「成程、それで確かめるのね。でも私が普通に貴方の財布を届けに行く事は考えなかったのかしら?」


「僕の中で貴方は白確定って安心できるじゃないっすか」


浦美の眉が片方吊り上がる。


「まぁいいわ。許してあげる。私も試そうとしたのは少し感に触るけど、いい案ね」


「あいつに、事件を追っている奴が居る事と、その財布について話を持ち掛けて下さい。今日にももし、そいつが住所に書かれた場所に来たのなら、あいつが事件に関与している事は明白でしょ」


先程の、浦美とのやりとりを思い出し、智也は目の前の化け物を見据える。


(探偵気取りかよ、気持ち悪い)


「ここはさ、別に俺の家って訳じゃないんだ。知り合いの家でもない。君に奪われた日常が苦痛で、耐えられなくなって、逃げ出す様に家を出た夫婦の持ち家だった場所。そりゃそうさ、だってこの街のどこに居たって子供との思い出が一杯だもんな」


(だから、どうした!!)


尻尾を少年に向けて、串刺しにしてやろうかと思ったが、素手で受け止められる。上半身の筋肉が膨張して衣類がその膨張に耐えきれずに弾ける様に破れた。みるみるうちに、狼男へと変貌し怒りを露わにして咆哮する。


「お前が、子供との思い出を苦痛に変えたんだぞ!!」


(コイツも化け物かよ!!)



 智也が、力一杯尻尾を掴んで外へと放り出した。体格は遥かに庄司の方が一回り大きいが、匹敵する程の力を目の前の狼男に感じる。体制を整えて、縊り殺そうと突進するが膝蹴りで、顎を蹴られて体が宙に浮いた。狼の爪で首を斬られる。血を手で覆って出血を防いで、狼男に背を向けて跳躍した。


「逃げる気か!!」


天井を伝って、逃げると狼男も追ってくる。踏み切りのランプが赤く点灯しているのが見えて大きく跳躍した。


(これなら、どうよ!!)


走る電車の上に乗って、逃走を図ったが狼男も何とか電車に飛びつく。二人は走る電車の上で、対峙した。


(クソゲになったら真面目にやってらんないよねえ)


庄司は思い切り電車の天井に拳を突き立てて穴を開けた。中で休んでいた客が、現れた化け物に悲鳴を上げて逃げ始める。電車の中に入って一人の少年を尻尾で捕まえた。


徐々に力を込めて締め上げる。狼男も、窓から割って入り込んだ。


(人質が居るんだ、手を出せばどうなるか分かるよな?)


「た⋯⋯助けて⋯ぐぇっ」


更に締め上げて、狼男に手招きする。智也は仕方なく、ゆっくりと前に出た。化け物が狼男に重い一撃を腹に入れる。智也は同時に、伸ばした爪の斬撃で尻尾を斬った。乗客は、慌てて逃げていく。


(てっめええええええええええええええええ!!)


智也の受けた一撃も重く、腹を抱えて膝を着いた。庄司は首を捕まえて、ドア付近にある鉄のパイプに頭を打ち付けた。それから何度か地面に叩きつけて、腕を大きく振り被って再び腹をめがけて一撃を入れる。今度は手が体を貫通して突き刺さった。智也も悲鳴を上げて、決死の思いで爪を首に突きさす。


(痛い!!痛いなァ⋯⋯でも、楽しい!!)


「くっそ⋯⋯傷が」


庄司の傷跡が、回復していく。いつの間にか、尻尾が再生している。尻尾で体をぐるぐるに巻かれて圧迫されると智也は呻いた。いつの間にか、ギターを抱える金髪の少女が二人の側に立っている事に、二人は気づいた。智也は必至に、逃がそうと声を掛ける。


「に⋯逃げるんだ⋯⋯」


うんざりした表情で、二人を見据えている。


「狼男に、変な化け物。こっちはそんな世界で生きたくないって言ってんのに」


(わけわからん事言って、殺されに来たのかよ!!)


尻尾で串刺しにしようと思ったが、彼女が何かを手に出現させて尻尾を弾く。何も無かったその手には、柄の長いハンマーが握りしめられている。再度尻尾で攻撃すると、今度はそのハンマーで殴られ、尻尾の一部が消滅した。


(なんだ!?こいつは!!)


「暫くは再生出来ないよ。私の能力は【妄想殺し】キモいあんたのその歪んだ『思い』」


構えて、化け物に通告した。


「――――――――私がぶっ壊す」


夏樹が、ハンマーで打ち付けるとその個所が削り取られるかの様に消滅していく。尻尾と防御に使った片腕が壊され、消滅し、庄司は焦って天井の穴から脱出した。最後に夏樹に向けて化け物の大声で咆哮して威嚇し、その場を後にした。アナウンス放送が聞こえて電車がその場でブレーキを掛けて一時停車する。夏樹が急いで狼男の側に駆け寄ると狼男から通常の状態に戻っており、智也は血塗れの重症で倒れていた。


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