Avengers Requiem 8
陰陽庁の窓口、VOO DOO CHILDの看板の下でチラシを配るメイド服姿の少女が立っていた。足を止める人は物珍しさに立ち寄る人や携帯に写真を撮る人が殆どではあるがチラシもそれなりに配れている。朝倉舞と名付けられた、白髪の自動式人形は周囲を確認すると葵が訪れるのを目視で確認した。
「いらっしゃいませ、葵様。他の皆様はすでに到着されております」
「こんにちわ、メイドも大変だね」
「いえ、皆さまの役に立てている事が私の幸福ですので、葵様も何なりとお申し付け下さい」
「今の所は何もないかなぁ。じゃあ、入らせて貰うね」
(そういえば、花音さんも自動式人形なんだっけか)
会わせてみるのも面白いかもしれないなとそんな事を考えながら店に入るなり、閑散とした雰囲気が漂っている。30代後半の眼鏡を掛けた男性が声を掛けてくる。
「いらっしゃいませ!!⋯って、何だ、葵君かぁ」
「暇ですか?」
「いいや、今日は何だか陰陽庁の人が沢山来てるよ。例のエイリアンの件でね」
そういって、奥の部屋に通されると、見知った顔ぶれも居る中で知らない男性と少女がその場に居て会釈する。紅葉は居ないが、代わりに早苗がこの場にいるのもいつもの事ではある。京子と、もう一人30代後半で太っ腹が目立つが、神職の衣装を纏っておりご同業である事は察しがつく。
「えーっと、初めまして」
「どうも、初めまして。僕は春坂義雄。宜しく」
「私は、晴野浦美。宜しくね」
「橘葵です。こちらこそ宜しくお願いします」
隣に座る黒髪の少女が、笑顔で葵に尋ねる。
「貴方が『あの』二次元人を撃破した噂の少年ね?」
「いや、あれは⋯⋯俺は何もしてませんよ」
京子が、こほんと咳をして、話の流れを止める。それから、舞が部屋に入って来てお辞儀をして部屋に掛けられているかなり大型のテレビを付ける。自分の手首からケーブルを出して、テレビに繋げるとそのまま、自分の中にあるデータをテレビに放映させた。
「揃ったようですので、まずはこちらの映像を見て下さい」
映像には、化け物が人々を襲っているネットの映像が流れている。
「今回の一件は、『生霊』であるケースが高いです。古来より、人が妄念に駆られた者が最終的に鬼へと変わり変貌を遂げるケースがままにありますし。この前の一件もそうでしたが、その妄念の出どころを何とかしないとこの化け物の滅殺はかなり難しくなります。それに関しては浦美ちゃんから情報をお願いします」
「私は、この化け物が人を殺す姿を一度見ているわ。でも気を追っていたら林の中で消えちゃったの。町に戻ったのかもと思って市内を探していたら、同じ気を持つ人間を見つけから近づいて暫く観察してるんだけどねえ」
今度は映像が少年の顔に切り替わる。
「何か、あったんですか?」
早苗が尋ねると、ムスっとした様子で浦美は答えた。
「何もしないのよ、彼。生霊って基本本人の願望だからもしあの化け物が彼の現身であるなら、彼が化けると踏んだんだけど、彼が入院中に化け物が現れちゃったから、ちょっと混乱してるのよね」
「少年に関しては引き続きこちらでも調査する予定ですが、このケースは時間を掛ければ相手が厄介な存在に変貌していきますので、なるべく短期的に解決しなくてはいけません」
「どういう事ですか?」
「願望を満たしていく度に、鬼へと近づいて力を増していくのよ。古来から、陰陽庁が躍起になって滅してはいるけど、鬼へと変貌を遂げた者を滅するのは簡単じゃないわ。それに正に人の数程それぞれに願望があってね、こういったケースは昔っから無くならないのよね」
浦美がそういうと、京子も頷く。
「はい、ですからこういったケースにうってつけの人に頼み込んではいるんですが。中々、良い返事が貰えなくって困ってるんですよねえ」
「ヘッ⋯クシ!!あれ、風邪引いたかな」
暗いライブスタジオの一室。それほど広くも無いが
すでにライブを楽しみにしているお客さんで殆ど満室になっている。
「ライブ開始前にそういうのやめてよ夏樹」
隣に立つボーカルの女の子が、窘める。
「ごめん、もう大丈夫だから」
お客の間でどっと笑いが洩れる。
「皆、今日は私達のライブに来てくれて本当にありがとう!!今日は楽しんで帰ってね!!」
音楽が鳴り響いてライブが始まる。
夏樹がギターを弾いて、ライブが始まりを告げた。




