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Avengers Requiem 6

誰も居ない教室で、綾乃、摩子、花音、そして葵も同席している。綾乃が黒板に大きく宇宙人の謎と題して話をし始めた。


「今回の部活動は、宇宙人探索をしよう!!」


「いつもこんな感じで無茶に振り回されてんのか」


「そうなります。といっても私も加入したのはつい最近の事ですが」


花音は可笑しそうに葵にそう答えた。


「言っとくが、却下だ。綾乃に動き回られると俺らの動きが取り辛い」


「退魔師と宇宙人、何の関係が?」


摩子が尋ねると葵も真剣に答える。


「映像みただけじゃ宇宙人なのか妖怪なのか幽霊の類なのかも判別つかんだろ。コスプレって訳じゃ無さそうだし、俺らも妖怪の線で動き始めてるんだよ。それに綾乃が動くと俺が怒られる。お前は良いけど二人は化け物に遭って死んだらどうするんだ。危険過ぎるだろ」


「え?二人共普通の人間じゃないよ?摩子さん魔女だし。花音さんロボットだし」


花音が一礼して、腕の部分を変形させて小銃を見せつけた。手首がサブマシンガン付きの女子高生ロボットなんて聞いた事も無い。


「遠い昔にマスターにより作られた魔術の科学技術の粋を以て作られた自動式人形オートマタです。以後、お見知りおきを」


「なん⋯⋯だと⋯⋯」


次に摩子に視線を移したが彼女の視線が明後日の方向を向いていた。扉が開いて、全員の視線がそちらに向くと晃と智也が姿を現した。


「綾乃ちゃんと葵の匂いがしたからイチャラブってんのかと思ったら面白い話してるな」


「ごめんね、僕らちょっと鼻と耳が良いから」


聞き耳を立ててました、と智也が素直に白状した。綾乃の顔が真っ赤になって、葵がマジ切れの表情を見せた。


「心菜さんは居ないんだね」


「あいつ忙しいからな。家業あるし。宇宙人探しが中止になるんならちょっと手伝って欲しい事がある」


「それと、僕らの素性も綾乃さんに話をした方が良いね。僕らは人と狼のハーフ。人狼なんだ」


知っていた葵と、薄々気づいていた綾乃の反応は薄いが摩子と花音は驚いている。


「探して欲しいのは宇宙人じゃない。この前学校近くで起こった事件の犯人だ」


晃がそう告げると、綾乃は幼い子供の姿が脳裏に浮かんだ。



 京子が陰陽庁の支部である店の前まで来ると、金髪の少女が連れの男と一緒になって立っている。女一人に男二人。少女は見知った顔だが、連れの男達は京子の知らない面々である。ぱっと見は、レディースでもやっているのかと思う程、長身で目付きが悪く、特攻服がとても似合いそうな風貌をしている。バンドでもやっているのか、黒い鞄に入ったギターを抱えている。


「珍しいですね。自分から顔出してくれるなんて」


京子が嬉しそうに言うと、金髪の少女は困った顔で返した。


「言っとくけど、仕事の話じゃないから。どうせ情報に困ってるんでしょ。例のエイリアンで」


「話を伺います。どうぞ皆さんこちらへ」


そういうと、3人を中へと案内した。


男二人はそわそわしているが、少女は踏ん反り返ってソファーで楽にしている。


「それで、情報っていうのは?そちらは?」


「うちのバンド良く聞きに来てくれる人なんだけど、話聞いてたら例のエイリアンに遭遇したって言うから」


「えーっと、俺達夜にコンビニで屯ってたんスけど何かそっからバイクで走ってたら途中であの変な化け物が襲い掛かって来て⋯」


横に居るもう一人が相槌を打つ。


「そうそう、最初はコスプレしてる変な奴がスゲー勢いで走ってるもんだと思ってた」


「無茶苦茶な動きして襲い掛かってくるもんだから怖くなって逃げたんスけど捕まっちまいまして、事故ってコケたんすよね。そっからパイセンのすげーのなんの!!」


「化け物に向かってバイクで突っ込んでドーン!!で、化け物が吹っ飛んで消えちまいました」


大仰に身振り手振りで男は伝えた。


「流石パイセンやる事半端ねェ!!マジ痺れたぜあん時ぁ。そんで、クラブの映像見た時に思い出しまして、こいつに間違いねェって話を姉さんにしたらここまで連れてこられたってワケです」


「なる程、消えたけどまた現れたんですね。なら妖怪とも言えるけど少し特殊かもしれませんね」


男二人はきょとんとしているが、金髪の少女は答えた。


「これも、人の思いからなる所業って事?」


「その可能性は極めて高くなりました。貴重な情報ありがとう御座います⋯っと?」


京子は失礼、と伝えて携帯に出る。相手の言伝を聞いて相槌をうって一言感謝を述べて切った。


「何、誰から?」


「ウラミちゃんです。あの子、請け負ったら目的まで一直線に動くから。けど、お二人の情報と合せてかなりの情報が集まりました。今回は、生霊いきりょうの可能性が濃いですね」


死んだ人間の思いや恨みが残った物ではなく、生きた人間の強い願望が生み出した事象。


「やっぱり、この仕事を受けてはくれませんか?夏樹なつきさん」


「前にも言ったでしょ。私はこの力で生きてく気はないってさ」


ほら、行くよと男二人に声を掛けて、夏樹と呼ばれた少女は陰陽庁の支部を後にした。


「今日は、二人共ありがとうね」


「姉さんに声掛けて貰ってマジ嬉しかったっス。今度バンド絶対見にいきますんで!!」


「姉さんじゃないってば」


二人はバイクに乗って夏樹を残して去っていく。夏樹も、駅に向かい歩き始めた。沢山の人が向かいからすれ違う。その中で、如何にもオタクの風貌をした20代後半の男二人が見える。黄色い上着に青いジーパン。可愛い2次元の女の子の紙袋を両手に下げリュックからは丸めた女の子のポスターが目に着く。


「木村氏。早く家に帰ってこの限定盤魔女っ子チャコちゃんフィギュアを眺めようではないか!!」


「吾輩は、この魔女っ子チャコちゃんシリーズのサブヒロインが好きでごザル」


「ていうか幾らしたでござる?バイトもしてないニートの身なれば金銭は小遣いくらいしか」


「フフフ。親の目を盗んで金をちょろかますなぞ朝飯前に候。最近お金の減りが早いと嘆いておじゃる」


「やりおる木村氏」


夏樹が、すれ違い様に男の頭を何かで叩くが、男の少し上の為空振りする。しかし、何かが壊れる音は確かに響き、木村氏の動きがピタリと止まる。


「どうした木村氏?」


ぷるぷる震えながら、愕然とした様子で両手に抱えたフィギュアを見て言い放った。


「一体僕は何をやってるんだこんな下らない物の為に親の金から何万円も突っ込んで」


木村氏はそう言うと、両手に抱えたフィギュアを地面に叩きつけて袋を何度も足蹴にする。


「やめるんだ!!それはっ⋯木村氏の大切なっ」


もう一人の青年が袋を彼の為に必至に守ろうとしているが、構わず木村氏は袋に体重を掛けてその場でフィギュアを破壊する。人々の視線が二人に集中し、かなり注目を集める結果となった。最終的には、「ちょっと家にあるフィギュア全部ぶっ壊してくる」と言い放って家路にダッシュしていった。夏樹は、自分の手にある普通の人間には見えぬ小さなハンマーを見つめて、自分にまだ力が残っている事を再確認した。


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