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Avengers Requiem 2

 週末の日曜日、置き手紙が書かれてある。暫く出張で叔父が居なくなるという事と、今日の晩御飯は自炊する様にと書かれてある。自炊は別に構わない。叔母と一緒に居るよりかは、安堵出来る。何より一人で行動出来るのは何よりも有難い。黄色いレインコートと、鞄の中に包丁と水と軍手を入れて自転車で遠出して、山の方へと足を運ばせた。林の中に仕掛けた、猫の捕獲用トラップに引っかかって居ないか確認すると、2匹引っかかっている。檻の中にエサを入れて、入ったら入口が閉まる単純な罠だがこれが効果覿面だ。悪い笑みを浮かべて僕は猫に睡眠薬入りのエサを与えた。大人しくなるのを待ってカゴから出し、慣れた手付きで包丁を猫の腹部に刺した。小一時間も経過すると2匹の猫はすっかり変わり果てた肉塊になり果てる。昔、カエルの死体を解剖したのが切っ掛けだった。カエルの体をズタズタに引き裂くのが面白くて楽しくて、興奮を覚えたものだ。段階を踏んで次はスズメを殺した。次はカラス、ネズミ、そして猫。小さい動物に満足出来なくて、今では専ら猫を殺す様になった。誰にも言ってない僕だけの秘密だ。死んだ両親でさえこんな息子の姿を知らずに死んである意味で幸せだったかもしれない。


或いは、知ってしまったからこそかもしれない。


分からない。親がもし知っていたら、きっと怒ってくれただろう。でも、もう居ない。それに、きっと止められない。猫の死体を眺めながら、包丁から滴り落ちる血が地面を赤く染めていく。僕はこの時、夢の中の出来事を思い出していた。あの中でのリアルな出来事をもう一度味わいたい。仕留めそこなったが、あの続きをしてみたい。自分の願望が強くなっていくのを、強く実感した日でもあった。



 僕はまた夢を見る。


今度は、少し遠出をしようと思って、屋根伝いに移動していく。猫が慌てて逃げる様が何とも面白くて滑稽だ。こんな怪物が自分の家の屋根に居ると知ったらさぞ皆驚くに違いない。ふと、気が付いた。どうせ、夢だし昨日の様な連中を相手にするのもいいが、どうせだったら派手にいこう。このまま、壁や窓をぶち抜いて、暴れよう。面倒くさくなくていいし、そっちの方が面白い。一軒家のベランダに忍び込んで、派手に音を立ててガラスを割った。吃驚して住人が慌てて起きだした。家に明かりが灯る。僕の侵入した部屋はたまたま、小さな女の子の部屋で女の子も暗くて何が何だか分かっていない様子だった。尻尾で女の子をぐるぐる巻きにして、悲鳴が気持ちよくてめいっぱい力を込める。大人が現れて、女の子の名前を叫んだが頭には入らなかった。父親が、持ってきたゴルフバッグで僕を殴りつけようとするので、後ろに下がった。


(昨日みたいな初見殺しはもう勘弁してよ)


多分、頭はそれほど強くないんだろう。バイクの衝撃でゲームオーバーしてしまうんだから。ベランダから、屋根に上ってまた屋根伝いに移動を始める。狭い空き地に降りて、子供を目の前にして舌なめずりする。


(この前みたいな、邪魔者はもう入らない)


怪物の腕で、少女の首を絞めてまずは息の根を止める。心臓の音が止まると、今度は手、足、首を胴体から切り離した。最後に体の中をいじくり回す。興奮してもう何が何だか良く分からない。血液がそこら辺に広がって血の海が出来ている。思わず、大声で叫び声を上げた。その様を、着物を着た黒髪の少女は屋根からその姿を確認していた。長い髪を靡かせて、ただ静かに化け物を鋭いその眼差しで見つめる。少女の傍らには、たった今殺されたばかりの少女が口を開けてぽかんとした表情で呆然としている。目の前の状況が理解出来ない。それも当然とも言える。化け物の蹂躙が終わるまでに少女の遺体は無残にも弄ばれ続けた。



翌日、興奮気味に目が覚めた。まだ感触として、死んだ少女の面影が残っている。階段を下りて、朝ご飯を頂こうとしたが自分の分が無い。


「勝手に食べなさい。食器も洗う事、いいわね」


「分かりました。ありがとう御座います」


「何よ、ニヤニヤして気持ち悪いわね」


「すみません」


今日ばかりは、叔母の悪態にも気にもならない。食パンにジャムを付けて、後は牛乳をコップに注いで席に着く。テレビを付けて、ニュースを見る。最初の映像で思わず自分の持つパンを落としてしまった。


「先日深夜、京都の民家で強盗に入られ、小さい女の子が連れ去られて無残な死体で戻ってきたとのニュースが入っています」


喉が、渇いていく。夢だろう?あれは。ニュースの殺害場所と、無残な手口は間違い無く自分が夢で行った行為に相違なく、思わずテレビを消してしまった。自分がやった事じゃないのに、罪悪感を抱くなんて滑稽だ。面白いにも程がある。訳が分からない。それともあれが夢ではなかったとでも言うのか。そんな事あるはずがない。



放課後、公園でブランコに乗って考えを巡らせていると小さな子供が砂場で一人遊んでいる。周囲には誰にも気づいて居ない事を確認して、思わず閃いた案を実行に移した。小さい男の子に近づいて、一緒に遊ぶ様に誘った。


「僕も、この砂浜で遊んでいいかい?」


「いいよ。でも、これ壊しちゃダメだからね」


「約束するよ。そうだ、美味しい物あげようか?」


こくりと頷いて、幼子は睡眠薬の錠剤を飲んだ。すやすやと寝息を立てるのに時間は然程掛からず、周囲の目を盗んで幼子を草場の影に放り込んだ。草で少年の体は完全に視覚から外れている。同時に、母親らしき女性が姿を現す。


「ゆう太、帰るわよ。出てらっしゃい!!⋯⋯おかしいわね。砂場で遊ぶように言っておいたんだけど」


心配そうに幼子を探す母親の前に立って、嘘を吐いた。


「さっきそこで遊んでいた子なら、家に帰るって言ってどっかいきましたよ」


「本当!?あの子、ちゃんと家までの道順覚えているのかしら。心配だわ」


「じゃあ、僕はこの辺で」


心を躍らせながら、僕も家路に着いた。


本当にあれが夢ではなく、実体験なら、少年はあそこに居るだろう。自分も睡眠薬を飲んで、早速ベッドで眠りに着く。深夜ではなく、まだ夜が更けて間もないといった時間帯。また始まりは林の中から。基本ここに戻るようになっているのだろうか。人も多い為、なるべく慎重に屋根から屋根へ移動していく。


さっきの公園に着くと、すぐに寝ている少年を尻尾で捕まえる。沢山の人が、ライトを手に持ってゾロゾロと大声で少年の名前を呼んでいる。見つかると危ないと判断して、すぐにそこを立ち去った。夜の世界に自分が溶け込み、世界と一つになった様な一体感を覚える。闇は自分で、自分こそが闇なのだ。冷酷で、残忍な闇の住人。屋根の上で、眠っているまま、首を絞めた。首の骨を折って、息の根を止める。あの少女の様に、無残な死体に変えても良かったがまずは自分が確認しなければいけない。故に血を残して誰かに発見されるのは不味い。まずは自分が第一発見者にならなければいけない。


(よし、溝の中にでも詰め込んでおくか。多少匂ってもここなら平気だろ)


溝の中に幼子を詰め込んで、最後にブロックで蓋をする。人目に着く前にその場を去り、自分はまた元の林の中へと戻っていった。



結局、自分がそこを確認出来たのは数日が経過した後になった。というのも、その道路。深夜は人気が無いが、日中は近くの学校の通り道で人通りも多く、なかなか一人で安全に確認する機会が無かった。学校の女学生が第一発見者になってしまったが、確認が出来ればそれで良かった為好都合でもある。黄色いテープが張られ、立ち入り禁止と書かれたその場の中に泣き崩れる母親が目に映る。死体が上がって、間違いなく夢の中で自分が行動した証明がこれで出来上がった。雨が降り、黄色いレインコートに雨音が響く中で僕はその状況をあざけ笑って眺めて見ていた。




雨が一層強く降るその最中




僕は夢の中で誰にも見つからず自由に人を殺せる




――――――――その確信を得た。




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