New Face Monster 13
まさか二次元人なんかが居るなんて、世の中はまだまだ分からない事で溢れている。ここ数日は面白い話や噂話もないので私としてはかなり退屈になりそうなのだが、摩子さんにそういうと、何故か安堵していた。道すがら、先日の一件を洵ちゃんに話をしたら、頭をグリグリされた。
「あんたって子は、どんだけ心配させれば気が済むの!?」
「言ってなかったけど、これは部活!!部活の一環だからーーー痛い痛い!!」
「そういえば、橘君と顔見知りみたいだったけど、そうなの?」
摩子が訪ねると、綾乃が頷いた。
「うん、まぁちょっと前にある事件で知り合ったっていうか」
「雰囲気良さそうでしたので、あのまま恋愛漫画になるのかと思ってました」
「ほうほう、何々?恋話?この子に春がやってきたの!?」
「洵さん、前々から思ってたけど綾乃さんの母親じゃないんだから」
「保護者同前よ?私。そいつが綾乃に相応しいか試してやろうじゃないの」
何故か、洵は燃えている。
和気藹々と談笑が続く中でしゃり、という音がした。京都駅周辺の交差点で、向こうからやってくる女性と男性の二人。一人はスーツ姿の20代の男性。もう一人は黒髪に、ほぼノーメイクの黒い服飾を着た女性。どちらも、鎖と重りをつけて、歩いて居るのが見える。これは、二人の気づかぬ気持ちがそこに現れている証なのだ。悩みが何かは知らないけれど、深く、誰にも言えぬ苦しみを背負って人生を歩んでいるんでいるんだろう。二人とも、そう見えない程に爽やかではあるのだが、通り過ぎた二人を見て、彼等の足元を見続けた。
「どうしたの、先行くよ?」
はっと我に返る。目の前には、3人が心配そうに自分を待ってくれている。
「ちょっと待って、置いてかないで~!!」
ばたばたと走って、皆に追いつく。
いつもは、洵ちゃんと二人きりだったが
二人きりではなくなったていた事に
ーーーそんな大事な事に私は今気が付いた。
陰陽庁の窓口、Voo Doo Child と書かれた看板の事務の部屋、葵は今回の一件をありのまま報告した。この場には早苗、紅葉、そして流石の京子も報告を聞いて、苦笑いしていた。なにせ、一大事件が一夜にして片付いただけでなく事件を解決に導いたのは、一人の少女と目の前の少年だけなのだから。それぞれ、自宅のパソコンや携帯の付近に拉致されたと思われる人物達が無事戻ってきたとの報告もある。遺体で戻って来た者も居ると聞くが、死因は餓死。精気を吸い取られミイラ化した者、肉体の損傷が酷かったものも居るがこれはインプや魔物による被害で一致した。
「とはいえ、今回はプラマイで言うならゼロ以下の成果です。偶然巻き込まれたとはいえ、ほぼ一般市民の手柄に等しいのですから、九尾の狐には後で、きつく言っておく必要がありますね」
「あいつが一般市民ですか」
ほぼ単独で、二次元人を撃破した正体不明の彼女を一般人で済ますのは流石に懸念を抱いた。
「陰陽庁は、何か問題があるまでは彼女に干渉しません」
「今回の件で少し分かった気がします」
「とりあえず、二次元人という妖怪も暫くは大人しくなるかと」
「暫くですか?」
「ええ、だってあの妖怪は人の欲望から生まれた化身。空想の中へと入りたいという願望が人から消えない限り難しいでしょう」
「そういえば、葵に聞きたかったんだけど」
紅葉が急に話を変えてくる。すっと携帯を葵に渡して先日の自分が元になったWEB漫画がそこにあった。画像を保存していたらしい。少女漫画のノリで、自分と綾乃が良い雰囲気になってお互い意識しているという描写の部分で、葵は目を疑った。
「戻って来ないからずっと心配してたのに一日あの女と楽しそうに⋯」
目が赤く光る。いつの間にか召喚していたぬいぐるみサイズの白虎を手に抱いて、一緒にギラリと目を光らせた。
「いや、そんな展開なってないから!!」
「逆に怪しいですね、葵さん」
「そう見えちゃいますね。潔くないって言うか」
京子と早苗も少し悪い笑みを浮かべて呟いた。
「やっちゃえ白虎!!」
小型の白虎から発せられた雷光が葵に直撃して
痙攣を起こしてのたうち回る。
「アババbァイヂfjlsdfjdhfj」
黒焦げになったのを確認すると、晴れやかな気分で紅葉は言い放った。
「あースッキリした。じゃあ用事は済ませたから私帰るわ。今日は悪いわね京子」
「珍しくここに来てたから何か理由があるんだとは思ってたけど、これ?」
ソファーで早苗に介護を受ける葵を横目に紅葉は白虎を腕に抱いてその場を後にした。
先日の一件を紅葉から電話で話を聞くと、また厄介事に巻き込まれたとの事だが、自分が漫画になる世界に行っていたなんて、真面目に聞くと相当馬鹿らしい話である。
「しっかし、葵も隅に置けねぇな。まさか、あんな子と仲が良かったなんて」
「変な言動さえなければって、残念がってるクラスの男子は居るね」
「晃はデリカシーに欠けるとこがあるからな。あんまそのネタでからかってやるなよ」
「でもよこいつ、こんなに可愛かったのか。ドキドキ(心臓の鳴る擬音)だぜ。最低100回はあいつに聞かせてやらないと気が済まん」
「晃、最低ね」
「最低だな」
「お前ら昨日まで散々ネタにしてた癖に⋯⋯ん?」
何か、匂う。はっきりと分かる血液の異臭。今通り過ぎた自転車に乗った少年の物からだった。後ろを振り向くと、黄色いレインコートを着た少年が自分とは反対の方角を自転車で走り去った。雨も降っていないのに、レインコートというのも格好からして怪しいが匂いの中に、嗅ぎ覚えのある匂いを嗅ぐ。
(何だ?⋯これって⋯⋯)
瞬間的に、ゆう太の姿を思い出す。あの、妖怪の匂うを纏う者。歯軋りをして、全力で後を追いかけるが、角を曲がった所で見失った。匂いも微かなものだったが、確信を持つのに十分過ぎる。
「見つけたぞ、糞野郎」
New Face Monster FIN




