The Radio Girl 3
とある国にある、静かな廃屋。以前は学校だったというが今では子供を寄せ付けないホラースポットとなっていた。今月も一人、少年の遺体がこの廃屋で発見された。すでに被害は何人にも及び、恐怖の館として噂されていた。近くの村の村長が、自身の知る教会の道士に相談した所、道士が悪魔祓いをしに行くといって翌日死体で返ってきたという。そんないわくつきの舞台に、悪路の中向かっている黒い4WDがあった。到着するや否や、扉を開けて出てきたのは金髪の修道女と黒い礼服の道士。どちらも銃を手に持ちとても教会の人間とは思えない。道士は巨躯で、背中に四角い箱を背負って、ハンドガンを携帯している。少女は小型のサブマシンガンを肩に掛けて脇のホルダーにハンドガンを携帯している。
「すごい瘴気ね。この中突っ込むといきなりくるわよ」
「一応ここに結界張っておくか?」
「勿体無いからいいわ。霊か魔物か見極めないとね」
二人はゆっくりと誰も居ない旧校舎に入る。薄暗くて静かではあったが、何者かの気配は確かに感じる。息遣い、足音、奇声。それが近づくに連れて空気が重くなる。大きな巨躯の道士は、進むにつれて恐怖で足が竦み始めた。階段を上ろうとした先に、大きな手足の長い存在が上から二人を睨み付ける。人では無い。霊でもない。体は深い緑をしていて目は赤く、人の形を模してはいるが彼の体からは百足の様に幾重にも生えている。胴体も細長く、不気味な化け物が二人を威嚇した。
「ぉぃぉいおいおいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
道士は恐怖の余り反転したが、勝手にドアが閉まって出口は塞がれた。扉を叩くがびくともしない。
「道士、結界を張って隅で竦んでいなさい」
そう告げて、修道女はサブマシンガンを標的にぶっ放す。轟音と硝煙の匂いが響く中、少女は攻撃が命中した事を確認した。
「魔物ね。学校だからゴーストかと思ったけど」
緑の液体が地面に付着し、苦しんでいる。弾丸は通常の弾ではなく、位の高い僧によって清められた上、破邪の効果を持つ銀である。素早い動きでこちらに向かってきたので少女はすぐさまマシンガンを捨てて壁や天井を足場に踏んで縦横無尽に回避する。化け物が結界を張った道士にぶつかり道士は泣きながら悲鳴を上げた。
「何でもいいから助けてくれえええええええええええええええええええ!」
空中でふわりと身を翻し、ホルダーから剣の柄を手に取り魔物に破邪の剣を食らわせる。自身の信仰心で増幅された魔力を放出する破邪の剣は青白い聖なる炎の様にも見える。手足を千切り、達磨にした所で最後に頭部に突き立てた。
「汝の敵を愛し、汝らを責むる者のために祈れ―――Amen」
悲鳴も上げずに蒸発していく。魔物の肉の焼ける匂いを嗅いだせいか道士は昼に食べた物を全て地面にぶちまけた。
校舎を全て回って聖水を振って清めた後、校舎を出て車まで移動する。車の中で修道女は吐いて尚憔悴しきっている道士に一言告げた。
「訓練が足りないのではないかしら?」
「面目ない。帰りに何か奢るので勘弁してくれ。後、教会から君に電話だ」
携帯を手渡して、受け取ると上司の声が聞こえてきた。
【久しいなクリス・アルバートニー。地方の小さな事件もたまには息抜きに良かったろう】
【そうですね、ありがとう御座います。それで、わざわざ電話で連絡を取るのは何か依頼ですか】
【そうなる。君にも関係する事だし、何かあった際に君の協力が不可欠だと上は判断してね】
【かねてよりあれを日本に譲渡するという話があると聞いてはいますが要は怖いから日本に押し付けたいと】
【そういうな。上もあの一件で未だに悪夢で魘される御仁も居る程だ。それにあの石は今の所動く気配もなければ、魔力的価値もないただの石ころだぞ。向こうの退魔師と連絡を取り合い、石を引き渡す日程を合わせて欲しい】
【日本はリスクが高すぎませんか?あの一族も居る事も含め、日本の陰陽庁は魔術師と手を組んでいると聞きます】
【教会は、日本領内では日本の律する法を遵守せねばならん。・・・昔、借りもあるのでな】
男は最後、ぼそっと小声で呟いた。
【分かりました。先に日本に赴き、母国の船が来るのをお待ちします】
そういって、クリスは電話を切って包帯で隠された自分の右手を忌々しく見つめたのだった。
日本の京都に到着したのはその数日後になった。空港に着いてから、バスでホテルまで移動して一息ついた後美味しいディナーに舌鼓み。翌日観光を楽しもうとガイド本まで買っていたがシスターの姿が珍しいのか視線が集まってしまう。気のある和風の喫茶店に入ると、宇治金時に挑戦して味に嵌った。ふと、京都にある教会の支部から連絡が入り、電話に出る。
【シスタークリスですか?こちらは京都支部の者ですが今どちらに?】
【京都の赴きのある喫茶店で宇治金時にチャレンジ中です】
【抹茶パフェもお勧めするわ。シスター、満喫中の所申し訳ないのですが】
【今私は銃も何も無い丸腰なんですが、そちらで手配できます?】
【届くのに数日を要します。何も悪魔やゴーストと戦ってくれという訳ではありません。この国には日本の抱える陰陽丁直轄の退魔師が居ますからね。ただ数日前魔力の異常感知を計測しましたが原因がはっきりと分かっていないのです。魔術師が何かしたのであれば調査をせねばなりません。しかし我々が表立って動くと・・・】
【日本の律する法に触れるな、と。まぁ外交も絡んでるんでしょうけど。分かりました。船が来るまで暫く時間もありますし、場所の座標分かります?】
【助かります。貴方に神のご加護を】
電話を切って、支払いを済ませて指定の場所までくると確かに違和感を感じる。橋の下で一見何事もないように見えるが、地面を見ると靴の跡が見える。砂利の部分と土の部分があって、何か勢い良く飛び散った様な印象も受ける。橋の下のコンクリートが所々爆発にでもあったように多少ではあったが破片も見つかった。草の生い茂る川の水際に立つと下に生徒手帳が落ちていたのを発見した。