New Face Monster 6
【VOO DOO CHILD】と書かれた陰陽庁の窓口に来るのも大分慣れたが、相変わらず胡散臭いお店なので、基本的に閑散としている。たまに女子高生なんかが、恋愛運が上がるアクセサリーなんかを購入するのを見かける事もあるので、繁盛しているか良く分からないお店である。電話で朝呼び出しがあり、放課後に来て欲しいと言われて来て見れば、お店に居るのは冴えない中年のおじさん一人と欠伸をかいている黒猫一匹。
「こんにちわ、今日は陰陽庁の依頼があるとかで」
「ああ、葵君こんにちわ。ちょっと今立て込んでてね」
奥の事務所の所で、大きな声が響き渡る。
「あたしは、もう二度と関わりたくないって言ったでしょうが!!」
勢い良く、ドアが開いて金髪の女性が出てきた。ぱっと見は、レディースでもやっているのかと思う程、長身で目付きが悪く、特攻服がとても似合いそうな風貌をしている。バンドでもやっているのか、黒い鞄に入ったギターを抱えて、手さげ鞄と一緒に勢い良く店を出て行ってしまった。
「何なんです?あれ」
「あの子はね、京子ちゃんの知り合いでたまに陰陽庁の仕事を手伝って貰ってたんだよ。この前まではね。普通の学校生活を送りたいって言って、京ちゃんも渋々受け入れたんだけどあの後寂しそうにしてたかな」
「ふーん、民間人でも受け入れ可能なら一人自分から面倒ごとに突っ込むヒーロー志願者を知ってるんですが」
「良かったら、紹介してあげてよ。ちょっと今大変だから」
「分かりました。じゃあ、京子ちゃんに会いに行ってきますね」
そういうと、奥の事務室をノックすると、京の声が聞こえてきた。
「どうぞ、入って下さい」
「こんにちわ、京子ちゃん。陰陽庁の依頼があるって聞いたけど」
今日は、京子一人ではなく、ソファーには良く知る紅葉の姉の早苗ともう一人は、知らない白髪のゴスロリ美少女。
「葵さん、この前の一件は大変でしたね」
京子がそう労うと、早苗はクスクスと笑った。
「大変なんてもんじゃなかったです。紅葉と二人だけじゃ無理でした」
「あの後、紅葉ちゃんと白虎はうちの両親に物凄く怒られてました。基本、守護聖獣はほぼ無敵ですが、術者に何かあると維持できません。普段から運動能力向上と基礎鍛錬は怠ってないはずなんですがまだまだ、出来上がっていないという事だと思います」
「早苗は小太刀二刀の腕も大したもんだしな」
「葵さん程ではありません」
「そういえば、この方は?」
白髪のゴスロリ美少女は、すっと立ち上がり
「何でもご命令下されば、何でも致します」
「えーっと?」
「話せば長くなるんだけど、この子人間じゃないから」
「妖怪の方ですか」
「いや、人造人間というか⋯⋯完全にロボットっぽい」
早苗と葵が驚くと、白髪の美女は答えた。
「魔術師の技術によって生まれたオートマタ(自動式人形)朝倉 舞と名づけられました。以後、お見知りおきを」
呆れた口調で、京が言った。
「この前お兄ちゃんが現れたと思ったら、ゴスロリ美少女置いて帰ったのよ。信じられないわ」
「今日は一体何の用で集められたのかな」
「固有の結界の中に人間を放り込んで殺害している質の悪い妖怪の件で相談がありまして」
「何か、聞いた事ありますね。昨日知り合いが見せてくれたWEB漫画の話に似ているような」
「似ているんじゃなくて、その話そのものなの。報道はされてないけど、被害者はすでに何件も挙がってる。それも全国で」
開いた口が塞がらない。
「じゃあ、そのWEBサイトの管理人が犯人って事ですか」
早苗がそういうと、京は断言した。
「その通りです。人間を引きずり込み、精気を奪いミイラにしている妖怪が今回の首謀者と見て良いかと。被害はどんどん増え続けていて、警察だけじゃこの事件は解決しない。私達で何とかするしかないんです。全国の陰陽庁支部の連絡を取って、それらしい妖怪が居ないか当たっている真っ最中なんですが、犯人はこの画面の向こう側に居ます」
京子が携帯を取り出して、画面を指差して憎々しげに答えた。
放課後、摩子と花音が綾乃に連れて来られた場所は伏見稲荷の神社だった。摩子もすでに何度か来た事があるが、初めての花音は興味深そうに周囲を見渡している。古風な建築物の残る区画で、コンクリートや鉄よりも木材を用いた家々が多い。
「こんな所に綾乃さんの友達が居るのね。神社の巫女さんかしら」
「まぁ、来てくれれば分かるよ」
綾乃の言葉に従って、そのまま長く続く鳥居を潜りながら階段を上っていく。丁度半分くらいの所で綾乃は鳥居にタッチした。空間が震えて、次元の裂け目が生まれる。
「あっ⋯⋯あんた何したの!?」
「何って、向こうへの入り口を開けたんだよ。ほら、行くよ」
綾乃が入って、続いて摩子と花音も潜り抜けた。その先には、先程と違った広大な空と緑、そして山を見上げれば大きなお屋敷が見える。下を見れば、階段を下りた先に無数の長屋が見え、屋台と人間ではない何かが往来を行き来している。ろくろ首と、巨大な一つ目入道が道すがら一緒に歩いているのを見ればここがどんな世界なのかは想像がつく。
「魔術師の世界も荒唐無稽だったけど、ここも相当ね」
「一回行って見たいなぁ。魔術師の世界」
「残念だけど、連れていく事は出来ないわ。私殺されちゃう」
「残念です。警戒して下さい。空から何か来ます」
花音がそういうと、空中から鴉天狗が降りてくる。
「何事かと思ったが、お嬢か。今日は何用で」
「玉ちゃんに呼ばれたの!珍しいよね」
「分かりました。お連れの方もお通り下さい。皆には言っておきます」
「ありがとう!」
予想外の展開に摩子は嫌な予感がしていた。結局、何も分からずに時間が過ぎましたで終わらないのが綾乃の怖い所だと、摩子はこの一件で知る事になる。天女の様な女人に案内され、大きな屋敷の奥まで来ると花魁の様な格好で、露出を露にしている九尾の狐の姿が見えた。
「たまちゃん、ひさしぶり!」
「おお、綾乃か。よう来たの。客人もこちらへ来るがよい。我がこの妖怪屋敷を取り仕切る九尾の狐、玉藻である」
「情報くれるって本当?」
「嘘は言わぬ。誘拐が頻発しておるこの一件には、新しく生まれた妖怪が関与しておる」
「妖怪って、どうやって生まれるんです?」
摩子がそう疑問に返すと、玉藻は呆れた。
「またか。最近何も知らぬ者がここを通る事が多いの。まぁ良い、妖怪は基本人の思いから生まれておる。想像、創造、人の感情の強さ、思い、そういった物が静かに溜まり地上に噴出する。今回の一件の妖怪はかなり新しい方の妖怪でな、じゃが今最も勢いのある妖怪でもある」
3人が聞きいっていると、玉藻は続けた。
「人が、空想の中へ入りたいと思う事から生まれた妖怪。連中は自らの事を二次元人と呼んでおる」




