New Face Monster 4
時刻はすでに、5時半を回る所で夕暮れも濃くなる時間帯となった。あれから色々と花音に調べて貰った所、幾つかの共通点と、まとめWIKIによる浚われた人達がWEB漫画に掲載されるという噂。そしていつの間にか部屋に戻ってミイラ化したと言う。突拍子もない妄想話だが、流石ネットと言う所だろう。
「ニートに業を煮やした両親が、ご飯与えずに殺しちゃうケースが世界中で起こってるだけかもよ?」
「かもしれない」
摩子の言い分に、綾乃が否定する要素はない。
「オタクが共通点って事は間違い無いみたいだけどねえ」
「それも世界中の、です」
花音がざっとデータを閲覧しただけでもかなりの物がある。そして全ての世界に同じ名前のWEBサイトがあり中国版、英語版、ロシア版 etc...漫画を掲載するWEBサイトとして今でも閲覧可能で更新があり、全て違う人が描いた漫画になっている。主人公が違う、ストーリーも違う。絵柄も違う。共通しているのは死んだらまた誰かが異世界に入り、最初から物語が始まるという奇妙な点だけだ。
「調べましたが、すでに掲載ストーリー数は世界で数百を超えています」
「そんなに?描いてて疲れないのかしら」
「今話題ですから、アフィリエイトとしてはかなりものかと」
「そうなんだ?」
「ですがそういった目的でもないようですね。広告を掲載している訳でもありませんし」
「確かに、面白い話ではあるけどこれを私達が解決するってのはちょっと雲を掴むような話じゃないかしら」
「まぁ、別にこの一件がどうであれ、追ってみようよ。ちょっと詳しい人にも聞いてみるから」
そういって、綾乃は携帯にメールを打つ。
「それが、最初の部活動なんですね」
花音がそういうと、摩子は苦笑した。
「昔、子供の頃にやった冒険の続きみたいなノリだわ」
男女一緒になって、夕暮れ時に鬼ごっこや缶蹴り等、日が暮れるまで遊びとおした感覚に近い。果たしてこれを部活というのか、はたまたもし解決出来たとしても、先生が納得いく説明なんて出来ないだろう。どの道、一度きりのお遊びに違いないのだから
「お?珍しい。たまちゃんの返信が超早い」
「たまちゃん⋯⋯お知り合い?」
「うん、今度遊びに来たら情報くれるんだって」
「じゃあ、今日はもう帰りましょう」
「そうですね、では黒板を消します」
そういうと、花音は書かれた文字を綺麗に消していった。
妖怪屋敷にて、屋敷の主である九尾の狐、玉藻は玉座に座りながらタブレット端末をいじっていた。実の所、陰陽庁と連絡を取ったり、私用に使う為にある魔術師に頼んで貰った物である。勿論、それなりの見返りは求められたが大した事はない。最近は、出版関係社に属している妖怪が第二の妖怪ブームを作るべく、ついに金色のネズミを倒しただの、良く分からない事を述べていたりして良くメールを送ってくる。メールの中には、そういったやりとりの他に、陰陽庁とは別の仕事の依頼も度々やってくる。
「ふむふむ、魔術師の隠匿依頼に、ゴロツキに従う下級妖怪の斡旋と今月はなかなかバラエティに富んでおるのぅ」
玉藻の妖怪屋敷に属する、最低限消えない為の措置の組織としての見返りに、多少の奉仕をして貰う決まりになっている。金銭のやり取りは大多数の妖怪には通用しない。勿論、人間社会に溶け込んだ妖怪は別として、珍しい物、美味しい物、酒や肴といった現物支給の方が好まれるのだが、玉藻は妖怪にして人の社会に入り込みその時代の王をその美貌で持って誑かし、贅沢三昧した後追い立てられ日本にやってきた古巣の妖怪である。故に人間の価値や貨幣といった仕組みも熟知しており長い年月の間に書物を漁って、知識を蓄え今や人間の情報をネットサーフィンで漁るようになっている。
「うお、最悪じゃ。絶対結婚せんと思うておったのに」
芸能関連のニュースを開いて、飛び込んできたのはお気に入りの芸能人が結婚するというニュースだった。
「申し上げます、玉藻様。来客に御座います」
着物を着た女人が、深々と一礼してそう告げた。通す様に告げると、色白のスーツに、白いハット帽子、青いネクタイに煌びやかな腕時計を左に巻いた一人の青年が歩いてきた。
「お初目に掛かります。かの有名な九尾の狐と聞き及びました」
「いかにも、我がその九尾の狐、玉藻である。して、何様じゃ」
「一目見て、ガッカリですな。この様な牢獄に囚われ最低限消えない様に組織を作り、まるで」
大仰に両手を広げて、大声で叫ぶ。
「終の棲家で、ただ死をまつ老婆!!」
「殺されたいのか貴様」
本気で、殺意を飛ばして妖気が外にまで漏れる。やれやれ、といった仕草をして一礼して提案を申し込む。
「いえ、この度は、我々新しい妖怪の者として提案に参った次第」
「言うてみい」
「ここを捨て、我々の作った新しい妖怪の住める世界へ来て頂けませんか」
「この国で唯一自治区として認められておるのはここだけじゃ。他に作ったりした暁には、陰陽庁が介入に来るであろうの」
「我々はすでに、彼等の力及ばぬ世界を作り上げ、数百人もの人間を浚い力を蓄えております。人の血や肉、魂を食らい以前の様に妖怪らしく生きませんか」
「ふむ、他の者でそこに行きたい者が居れば連れて行くがいい。これでも人間の社会に馴染みすぎた故か、今の生活を捨てるのは今の所考えておらぬ。それにな?」
玉藻の影から、急に巨大な鬼の腕が青年を掴んで握り潰す。
「我は、目上の者を軽視する輩は好かん。どうせ、連れ込んだ妖怪も同じように食おうという魂胆が透けて見えておるわ」
「これは、失礼。頭まで老婆ではおられませんでしたか」
握り潰したはずだが、スライムの様にドロドロと溶けて、腕をすり抜けまた元の形に戻っていく。
「ふん、その程度で逃げられると思うてか」
「思っておりますとも」
そういうと、携帯を取り出して、電話にコールを掛けた瞬間に忽然と姿をけした。地面に落ちた携帯端末を拾って、それを片手で握り潰す。
「――――――――――――新参者が⋯⋯ん?」
丁度、玉藻の携帯にメールの着信が来ると、差出人を見て底意地の悪い笑みを浮かべた。




