The Steal Bride of Evil God 56
晃が銀次に駆け寄り、安否を確かめようとした所を、銀次は手を出して晃の動きを止める。銀次が苦しみ始めて、また呪いの仮面が復活していく。
「⋯⋯まだ、終わっちゃいないらしい。迷惑をかけるが、俺を殺してくれ晃」
「出来る訳無ぇだろ!!」
銀次の咆吼が会場全体に響き渡り、意思の無い怪物と成り果てた銀次が再び姿を現す。またも観衆の声が上がり盛り上がりを見せた。銀次と晃が再びぶつかり合い、お互い炎の拳で殴り合う。フェイントを織り交ぜられ、みぞおちに拳が入り悶絶した所を首を捕まれ、地面に叩き付けられる。マウントを取られて殴られ、抵抗するも力が入らずどうにも出来ない。現状を打破出来ない自分に絶望した時、エイリアンと戦った時に貸してくれた能力があればと脳裏を過る。その瞬間、晃の身体が緑の光に包まれる。あの時貰った篭手が晃の手中に再び現れた。力が漲り、再び銀次を振り払い、マウントから脱出する。
(悪いが、力を貸せるのは一時だけだ。俺も、余裕は無いんでな)
頭の中で、葵の声が響き渡った。葵の方に視線を移すと、地面に刀を突き立て、立ち上がろうと奮起している。自分達を囲んでいる大勢の死焔の使徒から、細い糸の様な黒い靄が、葵の持つ刀に吸われていく。葵は意識が朦朧とした最中で、再び一度出会った夢の少年と対峙する。空と大地と緑以外何も無い空間の中で金髪碧眼の美少年と、髪が伸び放題の赤い髪の幼女が佇んでいる。彼の肩に乗っかってこちらを覗いている。
「あんた一体⋯⋯いや、前に何処かで⋯⋯」
あれは、紅桜を父親に相談した時、紅葉と早苗も居た歓談の中で急に現れたのを思い出す。
「君、僕達が何なのか忘れてんじゃないの?」
「ン!」
「ほら、紅桜もお怒りだ。魔女から情報は得ているだろう僕の作った魔術式の特質は」
神を屠る為に編み出されたグングニルの術式。
それは神から力を奪い、その力を持って神を殺す
神殺しの為の剣
「邪神の使徒如き、お呼びじゃないんだよ」
混濁した意識が目を覚ました時、言葉と共に紅桜を地面に突き立てて、ゆっくりと立ち上がる。
「ーーーーーーー桜花神滅」
邪神と使徒は契約で繋がり、微弱ながら邪神の力が流れている。紅桜が邪神の力を吸って力を変換し、自身の力と為す。驚いているのは邪神の使徒である。万能感が消え失せ、自分達の力が先程転がした少年に行き渡っている事実に怒りを露わにした。葵と晃の傷も癒え、葵は刀を地面から抜いて立ち上がる。
「貴様一体何をした小僧!!」
「さてね」
使徒が複数人襲い掛かって来るも、次の瞬間に葵は通り過ぎた様に別の場所に移動しており、抜き身の刀を鞘に納める。時が止まった世界で葵は相手に一方的に斬りつけ
「ーーーーー桜花瞬雷」
その言葉と共に世界が動き始め、邪神は斬られた箇所から発火し、契約の無くなった使徒は消滅した。




