The Steal Bride of Evil God 49
仮面が怪しく淡く紅く光り、銀次が晃へと歩み出す。
「銀次兄!」
銀次は反応しない。晃の胸ぐらを掴んで数発殴り、文字通り手も足も出ない晃に攻撃を加えた後、首を絞めて殺しにかかる。
「カハッ⋯銀次⋯兄ぃ」
苦悶の表情を浮かべ、晃は為す術も無い。
『おおっと!銀次選手、弟を殺すのに躊躇がない!このまま殺されてしまうのかー?』
「やれやれ、これほど急な呼び出は正に休日に人手不足で何故か出勤に変更を食らった有様」
背後から声が聞こえたと同時に犬が銀次の顔に張り付いて、晃から引き剥がす事に成功。そのまま影丸は銀次に放り投げられ、何とか空中で身を翻して地面に着地する。
『いきなりどうした事だァーーー!!いきなり現れた犬がピンチを救いました!!』
「主、後で有給休暇を申請するが構わないな?」
「悪いがお前にそんな物はねえ!良いから時間稼いでくれ!」
「ゲホッ⋯銀次兄ぃ⋯⋯俺が分かんねえのか!元に戻ってくれ!神美ちゃんを助けに来たんだろ!?」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
縛られた縄を炎で焼き切り、自由を取り戻して立ち上がる。死焔の使徒に注意しつつ、質問する。
「俺がリングに入るのは有りか?」
「これでも巨額の金が流れる博打でな。イレギュラーは排除せよとのお達しだ。君が自殺志願者なら私が相手になるだろう」
「聞けて良かったよ。兄さん操られてる感じだな。やれるのか?晃」
「ああ、智也も兄貴も俺が必ず助け出す!」
そうでなければ智也が死ぬ
銀次が死ぬ
神美も
そして自分も。全員の死のイメージが晃に恐怖と責任を感じさせた。心拍音が早くなり、肩で息をするほど荒くなる。
深い闇の中でどちらに進めばいいのか
どこに向かえばいいのか
どこまで何をすればいいのか
晃は絶望に押しつぶされそうになる中で奮起する。
(俺が何とかしないと⋯⋯全部俺が⋯⋯)
「晃、こっち向け」
「ーーー?」
葵は携帯をみせて通話をスピーカーに変える。
『晃君、一人で抱えこまないで!私達も手伝うよ!』
綾乃の声。
『ていうか、何で一人で突っ走るかなー。晃の悪い癖だよそれ。私も銀次さん一発殴りに行くからちょっと待ってて え?氷柱さんも来てくれるんですか?』
『うん。悪いけど、君のお兄さん泣きっ面になるまでボコボコにするけど構わないよね★』
心菜と氷柱の声
『あそこでのびてる智也君を解放しないと話にならないわね』
摩子の声
『私は綾乃の側を離れらんないから頑張りなさい』
洵の声
『主も協力してくれるとの事ですが、お兄さんを戻すには結局眠って貰う他無いとの事』
花音の声
「要するに、一回ぶっ飛ばせって事か」
「俺もお前を一発殴るか考えたけど、もう大丈夫だな?」
「ああ。ありがとよ葵。実際、殴られるより効いたぜ」
見えない闇に光が差し込んだ様に心が軽くなる。
「兄貴、俺がーーいや、俺達が必ず元に戻す!」
晃が決意し、葵も札を出して陰陽省の衣装に身を包む。それから紅桜を手にして、リングへ上がった。同時に死焔の使徒が葵の前に現れる。
「わざわざ死ぬと分かっての助太刀とは愚かだな」
死焔が曲刀を抜いて構える。
死を連想させる程の気を放つ相手に葵も緊張が伝わり冷や汗を流す。刀の切っ先を相手に向けて、葵も目の前の相手に構えを取った。




