The Steal Bride of Evil God 45
綾乃は戦いに大興奮し、摩子は開いた口が塞がらず、洵はゆっくりとエリザの隣に座って明らかなヤバい笑みを浮かべている。
「花音すごかったね!」
「凄いっていうか、花音さんの技術って確かナノマシンだっけ。未来過ぎない?」
「あれ何なんです?大量破壊兵器にしか見えませんけど?綾乃が二人になったとか超頭痛いんですけど?」
自動式人形と言うのは聞いていた。エリザと共に異世界からやって来た数百年前の型式の物だとも。人畜無害に思えていたが蓋を開けて見れば最新テクノロジーの塊であり、一夜にして世界を変えかねない歩くブラックボックスだった。魔法省が黙っている筈がないが一体どう追求を逃れたのかも気になる。
「昔、白虎を従えた退魔師にちょいと符術を教えて貰ってね。晴明からも術式や理論を聞いたが理解出来なかったけど、時間をかけてようやく形になったってとこだね。勿論綾乃ちゃんみたいに次元を超越する様な事は流石に無理だし、そこは安心してくれて良い」
どこが安心なのか、洵には理解出来ない。
「今後街が一つ滅ぶ様な大量破壊兵器の持ち主の監視も必要になってくる訳だけど。今の所安心出来る材料がありませんね」
「えぇ、友達を監視するのかい?綾乃ちゃん聞いたら悲しまないかい?」
それを聞いて洵は目を細める。
「その為に学校へ?」
「いや、たまたまだよ。未来がどうなるかなんて私に分かるはずも無い。綾乃ちゃんと花音が友達になったのはただの偶然。ただね、“奴”が復活する可能性があるなら、対抗手段は多いに越した事はないんだよ」
「何の話を?」
「杞憂で終わればそれで良い話さ。花音の監視というならあんたがすれば良い。花音は少なくともあれで世界をどうこうなんて考えは無いよ」
「花音には無くても、貴方の命令一つでしょうに」
洵は呆れて、エリザの側を離れて自席へ戻る。厄介事が増えたと頭を悩ませながら観戦を続けた。
Vipルーム観覧席には、神美と王禅、そしてパトロンの異国の人間達と死焔の使徒が観戦している。一番高い場所から、リングを見下ろせる様になっており、巨大モニターも壁に設置されてカメラから近距離での映像も映し出せる様になっていて迫力のある試合観戦が望める。防弾ガラス張りであり、何かあった際の防御も備えている広い個室の様な場所である。防弾ガラスがシャッターになっており自動で下に降ろす事も可能。扉からノックの音が聞こえ、ズルズルと服の擦れる音をさせながら死焔の使徒が少年二人の襟首を持ち引き摺って現れる。二人共傷ついており頭から血が流れているのが見て取れる。放り投げられて地面を転がり、王禅の前で止まる。
「廊下で彷徨いていた怪しい連中を連れて来ました」
「ほう、一体ここに何をしにきたのかね坂上晃君」
神美はその姿を見るなり驚き、王禅は興味深い面持ちで二人を見る。晃は神美よりも聞き覚えのある悍ましい声に恐怖が蘇る。
(ーーー最悪だ)
聞き覚えがある。忘れもしない幼少期の恐怖の思い出の声。ピクリとも動かぬ親友に、申し訳無い気持ちで一杯になる。智也は傷付き倒れ、自分も満身創痍。敵に囲まれて脱出出来る望みも無い。目の前に救出すべき存在が居るのに、何も出来ずに晃は殺されるかもしれない恐怖に耐えていた。




