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狼の牙と退魔師 10

 

 北から見上げる夜空の中、薄っすらと結界を囲む色が見える。音が聞こえて、亀裂が発生して、結界の崩れる音を聞いた。増殖した緑色の化け物は次々と解放されて出てくる。白虎は紅葉を後ろに乗せて、林の中を駆けた。雷で化け物の数を減らしながら、一直線に沼の方へと向かう。沼までは15分も掛からない場所にある為、そう難しい事では無かったが増殖の地点である沼では、異様な雰囲気に包まれている。時折、沼が緑色に光って、沼からボコボコと空気が水の中から湧いている。白虎から降りて、紅葉が急いで封印の術式を施そうとした矢先沼から緑色の化け物の集合体が姿を現した。


「糞っ⋯⋯⋯不味い、下がれ!!」


「え?あぐっ!!」


化け物から放たれた無数の細い腕に掴まれ押される様に紅葉が後ろにある木の幹に背中からぶつかり、悲鳴を上げた。それと同時に、白虎は紅葉を助け出す前に召喚の術が途切れてその場から消え去った。  南側では、自衛隊の居るラインにまで、化け物が押し寄せており時折銃声と悲鳴が聞こえる中、何とか歯を食いしばってこの場に耐える自衛隊の姿があった。迷彩服に身を包んでいるが、余り意味を為さいなと男は感じていた。相手は百戦錬磨の軍人でもなければ、死を覚悟した一命一殺のテロリストでもない。不死なる虚像の様な物。床を這いながらじりじりこちらに寄るモノ。木を伝って背後から強襲してくるモノその全てを銃で乱射し、命中させる。撃っても撃っても後から後から湧いて出る為、ラインを確保出来ずにジリジリと下がっているのが現状だった。幸い、恐怖の余り錯乱している者を除けばこちらの被害は未だゼロに等しい。そこでようやく、無線から連絡が入った。


【こちら、作戦司令部 残存部隊はナンバーの確認と現状の報告をお願いします】


【第3部隊、死傷者は今の所ゼロだ】


【第1部隊、逃げた腰抜けが居るせいでかなり下がってる】


【第2部隊、問題なく任務を遂行中】


他の部隊もそれなりに踏ん張っている。男は無線で現状を伝えた。


【第4部隊 下がりながら 同時進行で殲滅中。かなり分が悪い】


その後も、続々と現状の報告が続いた。


【こちら、作戦司令部 南に陰陽庁から数名の術者を現地に投入。また、ラインが下がり気味の所に遊撃出来る者を配置。各々もう暫くそのままラインの保持を】


【了解】



無線を終えると、黒い猫が林に迷い込んで来た。欠伸をしながら化け物にゆっくりと近づいて、2本の尻尾をゆらゆらと揺らしながら散歩を楽しんでいるようにも思える。


「ニャー」


可愛い声で鳴いたと思うと、二本の尻尾を持つ黒猫は化け物に向かって走っていく。みるみるうちに、一匹、二匹、猫の数が増えて気づけば自衛隊員の目に見える範囲全てに黒い猫だらけになっていた。縦横無尽にこの林を駆け巡りながら、爪で引っ掻き、尻尾の先を刀に変化させて切り刻み、ある猫は何十匹も集まって巨大な猫に変化して火を吐いた。化け物も負けじと応戦しているが、まるで相手になっていない。余りに無茶苦茶な光景に、思わずその手に持つ銃を持ったまま男は立ち尽くしてしまった。やがて、この場の化け物が一掃されると猫は姿を消していく。十数匹の猫の中に、その背に持つ刀に似つかわしく無い着物を着た幼子の姿が見えた。少年なのか少女なのかもわからぬ中性的な容姿ではったが10にも満たぬ幼子は、猫の声で男に一言告げてから消え、猫十数匹は次の化け物の居る所へと向かっていった。


「猫語で言われてもこっちはわからんよ」


 下がれ、といったのか、ここは大丈夫と告げたのかともあれ男は猫の去ったこの場所を堅持する事にし、部下と共に前進する旨を司令部に伝えた。東側の林の中で、晃が奮戦をしていたものの、四方から聞こえる銃声と悲鳴の声に、どうしていいかわからずパニックに陥っていた。助けにいくべきか?この場を離れれば自分の後ろが被害に遭うだけではないか?そんな考えと、次々と現れる化け物の対処に思考も麻痺し始める。やがて、背後に迫っていた化け物に気づかずに後ろから組み付かれてしまった。


「糞がっ」


焼き殺そうと思ったその矢先、轟音と熱と炎が周囲を包んだ。木々が燃え、周辺の温度が一気に上がる。炎が燃え盛るその中心に居るのは、真紅に燃える様な赤い髪の男。赤い特攻服と黒いズボンを履いた青年。目は鋭く、獲物に飢えた獣の目をさせている。


「面白そうな事になってんじゃねえか。俺も混ぜろよ晃」


目を大きく丸くして、晃は吃驚して叫んだ。


「ぎっ銀次兄ィ?何でこんなとこに」


「ちょっと別の仕事でな。ふらついてたら面白い事になってたから来てみたら、見てるだけじゃ物足りなくなっちまった。んじゃ、ちょっくら暴れてくらぁ」


狼の咆哮を上げ、自身を赤色の狼男に変貌させて、暴れ始めた。上半身、狼男で赤い特攻服と黒いズボンを履いた姿になってそれが何故か様になっているから驚きである。緑の化け物と、この周囲の木々が銀次の手によって燃やされていく。黒煙と炎が広がって、大規模火災へと発展してく。パチパチと燃える音と、煙が呼吸を困難にしている。


「これ、かなり不味くないか?」


そんな事をぽつりと呟いて、規格外の兄を晃はその場で見ていた。


 銀次の暴れっぷりを眺めながら、陰陽庁の要請で金髪碧眼のシスターが緑の化け物を青白く輝く剣で斬っていく。携帯で電話をして会話をしながらクリス・アルバートニーは京都の支部に報告をしていた。


「陰陽庁に恩を売るのが目的なのは透けて見えるけど、せめて武器くらい調達して欲しかったわね」


【すみません。ですが、貴方なら剣のみでも十分活躍出来ると本部から】


「もういいわ、実際どうにかなってるしね。

それじゃ中心に向かって元凶を殲滅すればいいのね」


【お願いします】


携帯を切って、緑の化け物を切り伏せながら、駆けていく。赤々と燃える炎を前にして、狼男を眺めながら彼女は沼に居る元凶を殲滅する為に走り始めた。



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