The Steal Bride of Evil God 9
喧嘩早い銀次の所業は商店街では噂の回りが早く、親には煩く言われる事も多くて家に戻らない事もしばしば。この頃は同じはみ出し者の所や女の所に転がり込む事も有った。夏の始まりを虫の声が知らせてくる。暗い日没の世界に点滅した街灯が辛うじて周囲を照らしている路上で銀次はある人狼の男と会っていた。
「お前、まだ仕事した事無かったな。どうだ、俺の傘下で働かねぇか?分け前は弾んでやるぜ?俺はお前の腕っぷしは買ってるんでな」
「考えておくから、早く教えてくれよ」
「しゃーねえな、来な。この世界に望んで骨を埋めたい馬鹿だしなお前。どの道すぐに泣きついてくんだろ」
銀次は裏稼業で生計を立てている先達に話を聞いて初めて仲介者を紹介して貰った。仕事を自分で取れるヤツはほんの一握り。数多くは仕事を任せたい者から紹介料を中抜きして仲介者が仕事の割り振りを行って斡旋する。仮に警察に目をつけられたとしても仲介者で捜査は行き詰り、依頼者までは辿り着く事はない。紹介された仲介者は女性らしい。赤い車から降りてくると、派手な色のスーツ姿で登場してくる。そして銀次を見るなりげんなりとした表情で男に言う。
「未成年を掴まえて正気かい?」
「こいつは普通の人狼とは違うレッドウルフだぜ。囲んでおけば損はないぜ」
「フーン、古株のあんたが言うんだから間違いは無いんだろうけどね」
指を鳴らして、暗がりから二人の大男が現れる。大きな斧を持った筋肉隆々の男達が銀次に襲い掛かる。銀次は思わず回避して手に炎を纏って火力を上げて二人に火の玉を放り投げた。炸裂して男達が炎に包まれる。苦しみ悶えて二人が地面に蹲り、炎が沈静化して女が笑みを浮かべる。大の男の悲鳴が路上に響き渡る。更に炎を見せつけてやると、男二人は戦意喪失したらしく尻餅をついて後退りする。
「あんたの言う通り、将来有望じゃないか」
「だろう?」
「これで、俺にも仕事を斡旋して貰えるって事で良いんだな」
「ああ、これ以降はこの携帯を使ってやり取りを行う。仕事の内容も割り振れる範囲の物をメールで送っとくよ」
(流石に、殺しまではまだ期待出来ないか)
女は軽傷の火傷でピンピンしている男二人を見て、銀次をそう評価した。携帯を投げてよこして、銀次はそれを受け取る。裏稼業人生の第一歩を掴んで、その日は夜遅くに家に戻った。家に明かりが灯り父が怒鳴り込んで来る。
「おい、こんな時間まで何してやがった!人様に顔向け出来ねえ事じゃねえだろうな!」
「してねえよ、まだ」
「まだって何だ!おい良いか、口酸っぱく言ってきたが、人様に悪い事した人狼は粛清対象になって殺される事もある!分かってるだろうな」
「分かってるっての」
貰った携帯をポケットにしまい込んで、銀次は親の忠告を無視して自室のベッドに寝転がって目をとじた。




