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狼の牙と退魔師 9

 

 午後20時を回る頃合、すっかり陽も落ちて暗くなっていた。陰陽庁の人達と連絡を取り合って、林の周囲を自衛隊が囲んでいる。車道の規制や、近くの近隣住民に嘘をついて、自衛隊が名目上でこの地に来て活動している事を伝えていた。ヘリコプターの音も煩く鳴り響く。自衛隊の囲んだラインの中で自分達が東西南北から中心に向かって進んで封印を施さなければならない。消滅が難しい以上は、それしか手がない。葵が北側、西に紅葉と白虎、東に晃が参加する。南には、陰陽庁の助っ人が来るらしいが、その情報はまだ入って来ていない。結界の中では無数の緑色の化け物がおり今か今かと解き放たれるのを待っている。携帯に連絡が入って、晃は電話に出ると、葵からだった。


「今なら、引き返せるけどいいのか?」


「こういうゾンビゲーやった事あるわ俺。つか今更言うなよ」


「俺達はとにかくその場で連中を食い止める。最悪漏れたやつは自衛隊に任せて西側に居る紅葉と白虎が中心に行って封印を施す」


「分かった、まぁお互い頑張ろうぜ」


携帯を切ると同時に、結界が壊れる。亀裂が走って、弾ける音と共に見えない壁が無くなった。


「さて、やるか」


最初から、力を解放して爪と犬歯が伸びる。ゆらゆらと髪が靡いて赤い髪の毛が揺れ、晃の周囲の温度が上がっていく。化け物が一斉に襲い掛かってくるが、次の瞬間には全て火達磨になっていた。彼の手から炎が上がり、化け物を全て燃やしていく。視線を横に移すと、円状に広がる様に化け物が拡大していく。横から、上から、斜めから、腕を伸ばして絡め取りに来たので晃は後ろに跳躍して回避する。


「不味いな、予想してたけど、かなり分が悪いぞこりゃ」


そう言いながら、見える範囲の化け物に炎を投げた。



 結界の壊れる音を聞きながら、葵は剣を構える。西側を見ると、時折闇夜に雷光が明るく光っているのが見え安堵した。恐らく白虎と紅葉が猪突猛進して中心に向かっているだろう。葵は襲い掛かる化け物を斬って動けなくしてから、札を貼って爆発させていく。札で爆発させた物は動きが鈍るが【斬っただけ】の奴はその場で元通りになる。動きが遅いとはいえ、数が多すぎて、ある程度下がりながら対処するしかない。影丸を召還して、手数を増やす。


「主、わし休業中」


ワラワラくる化け物に体に巻かれた鞄からゴソゴソと口で十数枚の札を取り出し札を空中から散布する。爆発が起きて、暫くその轟音が鳴り響く。


「やりゃー出来んじゃねーか」


それでも、剣が効かない以上は葵にとってはその場に留まり続けるだけでも危なくなってくる。すでに10体以上に囲まれ、伸ばしてくる手を回避しつつ後ろに下がる。話では、作戦時間はものの10分にも満たないはずだったがすでにその時間は越えている。気づけば、雷光の明かりが無くなっている。


(嫌な予感がする。いつもの雷はどうした白虎―――――)


戻ってきた影丸から、更に悪い知らせが入る。


「主、引き返した方が良い。白虎がこの場から【居なくなった】」


「ちょっと待てよ。どういう事だ」


「そのままの意味だ」


それはつまり、術者に何らかの問題が発生したという事。


どこかで銃声が鳴り響く。対処しきれずに自衛隊の居る所まで化け物が到達したらしい。やがて、悲鳴も聞こえてくる。360度、その方々で、奇声と悲鳴が交じり合い、化け物達から発せられる狂気とこの場に居る者が感じた恐怖がこの場を包み込んでいく。目の前には、数の衰えない化け物が迫ってきており気づけば、後ろは崖で後が無くなっていた。


「しまっ⋯⋯⋯」


化け物の攻撃を剣で受けたが、お陰で体制を崩して崖から踏み外した。長い空中の浮遊時間を体験し、何故か既視感を感じる。おかしいと気付いて落下する先に目を向けると、陰陽師の男と和服を着た女の子。段々近づいて、顔が見えた。抱き合って、落ちていくその二人は何故か自分と髪の黒い綾乃に見える。二人は葵を通り過ぎて先に川へ落ちていく。上を見上げれば、ぞっとする面の木の絡繰り人形が見下ろしている。そこで、世界は元に戻った。川に落ちて、背中を打ち付けられる。水に打ち付けられる衝撃で、水飛沫が上がった。打ち付けられた衝撃の痛みで呼吸困難になったが、何とか浮上して立て直した。暫く呼吸を整えていると、下からぼんやり光る赤い何かを水中で見つけた。潜って確かめると、先ほど、落ちてきた刀が今でも川底に刺さっている。手に取ると、驚く事に刀身に錆一つ無い状態だった。


(これさっきのやつか?まさかな)


それを手に入れて水上に浮上する。崖から影丸が吃驚して降りてくると、目を丸くした様子で言った。


「主、大丈夫か?」


「ああ、でもぼやぼやしてる暇ねーぞ」


「主、これを持っておけ」


縄の先を葵に持たせて、影丸は葵の頭を踏み台にしてそれから紐のついたクナイを口に咥えてそれを木へと放った。放物線を描いて木の枝に引っかかり葵は力を入れて、自分を元の崖へと引き上げる。周囲を見渡せば、先ほどの化け物で溢れている。


「影丸、悪いが突っ込むぞ」


「無謀だ主、ここは引くべき」


「紅葉に何かあったってんなら引けねーよ」


淡く赤く輝くその刀を、葵は化け物に構えた。目の前の化け物7匹に瞬時に斬りつけるとそのまま化け物は蒸発する。


「何だこの刀、普通じゃない」


「主、それをどうして持っている?」


「知ってんのかこれ」


「名は知らんが、その刀が妖刀の類である事は分かる。間違ってもわしに刺すなよ。死んじゃうぞゴルァ」


「はっはっは。そりゃ良い事を聞いたわ」


目の前に現れる大量の化け物を相手に、斬撃を繰り出して前へ進む。


「沼にいくぞ、紅葉が危ない」


「合点承知!!」


さっきの一瞬の出来事は一体何だったのか

白い世界の中で落ちていったこの刀と自分と綾乃。そして不気味な面の絡繰り人形。前に進みながら、先程の光景を思い出していた。


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