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狼の牙と退魔師 8

 放課後、葵と晃は京都の観光名所の一つ、伏見稲荷に来ていた。昼休みに話し合いを行う予定だったが、勘が良いのか綾乃が屋上に来ていたので、道すがら晃に事の経緯を説明する事になった。


「で、こんな所に妖怪がいんのか」


「まぁね。陰陽師、安倍晴明や陰陽庁によって人に仇なす妖怪は全国各地で封印されてる訳だが、ここだけは別らしい」


何でも、かの有名な九尾の狐が取り仕切る妖怪屋敷があるという。


「人に仇なす妖怪はって事は、そこに居る連中は人を襲わない奴らって事か」


「そうでもない。陰陽庁から九尾に会いに行って骨だけ戻ってきたケースもあるらしい」


「どういう事だ?」


「まぁ、なんつーか昔、陰陽庁が認めた妖怪自治区って事らしい。基本陰陽庁はこっちの世界の妖怪には敏感だけど、妖怪屋敷に居る妖怪までどうこうはしない。こっちが勝手に相手の領内に入る訳だから」


伏見稲荷は、千本鳥居で有名な、小さな鳥居が沢山並んでいる。葵と晃は半分くらいまで鳥居をくぐると、葵が一つの神社の鳥居に触れる。すると、目の前にある鳥居が急に暗くなり見えない闇に包まれた空間が浮上する。


「こん中入んのか」


「そうらしいな、じゃ、どうぞ」


「ふざけんな!ひょとして、お前も初めて?」


「保険は必要だろう?」


「絶対嫌だね、お前が先に入れ」


「いいや、お前が入れ」


「どっちでもいいから、早く行きなさいよ」


そういって、二人は後ろから背中を押されて空間へと入る。通った先は、先ほどの伏見稲荷ではない別のどこかに通じていた。見渡すと、山道の途中であり、上へと続く階段と鳥居が見える。綺麗な景観で、林と山と遠くに見える滝が虹を作っている。その頂には、大きな和風の屋敷が見えた。上空に装束に身を包んだ鴉天狗が何匹も降りてくる。太い昆の様な武器を持っている。


「人間が、ここに来るのは久しいな。陰陽庁の者か」


そういって、陰陽庁のバッジを見せると、鴉天狗も納得した。


「この山の上が、妖怪屋敷と呼ばれる屋敷だ。気をつけていかれるが宜しかろう」


「何だ、話の分かる奴で良かったじゃん」


鴉天狗は自分達が来た事を、伝えに先に山の上へと飛んでいく。それから、林の中でジロジロ様子を伺っていた妖怪達が、一斉に姿を現す。


その数およそ20数匹。


「血の美味そうな匂いだ」


「久しぶりに肉が食える」


「こいつら、殺したら不味いのか?」


晃がそういうと、葵は呆れて言った。


「正当防衛だろ」


戦いになる前に、落雷が周囲に降り注ぐ。


「焼き殺すぞ、ボケナス共が」


「お、今回は葵に当てなかったね。えらいえらい」


「やべっ忘れてた」


「お前な」


続いて、空間から現れたのは白虎と制服姿の紅葉だった。白虎が現れるや否や、一目散に妖怪は逃げ出す。一同、上を向いて大きな妖怪屋敷を見つめた。門を潜ると一本角の鬼が案内をしてくれ、迷わず九尾の狐の所まで来る事が出来た。時折、こちらを見る妖怪が不思議そうにしているのが目についた。兎に、鼠に、顔なしと種類様々であったが人の顔を持つ妖怪も存在していて、半妖ではないかと思われる者達も多数ここに居る。長い廊下を渡り歩いて奥の部屋へと通されると、そこには尻尾が九つ生えた九尾の狐がいた。年は20代の金髪の女性にしか見えないが、花魁の様な派手で妖艶な格好をしており、煙管を口に咥えて、ぷかぷかと煙を作って遊んでいる。葵が咳払いした後、尋ねる。


「陰陽庁より使いで参りました。今世間を騒がせている妖怪について伺いたいと思うのですが」


「おぬし等、我らの仕事が何だと思うておる?」


「全ての妖怪の、取締りであると⋯⋯違うのですか?」


「全然違うわこのたわけが。白虎も何をからかっておるのじゃ」


「まぁ、ここに来た事の無い奴には丁度良い機会だろうし」


「我は全ての妖怪の統括なんぞしておらん。ここに来る連中の受け入れとある程度の妖怪の【相互認識】の為に妖怪を把握しておるだけじゃ」


紅葉が目を細める。


「全然わかんない」


「そこからか面倒臭いのう。そもそも、妖怪とはどうして生まれる?」


「考えた事ないんですが。自然発生している物ではないんですか」


葵がそういうと、玉藻は指を鳴らして、廊下から黒い塊を呼び寄せた。スライム状の様な妖怪で、目が2つある。


「彼は我よりこの地上に存在しておる最古の妖怪のうちの一匹【人が闇夜の先に恐怖するモノ】として生まれた妖怪じゃ。名前が無いのも不便故、常闇とこやみと呼ばれておる」


スライムの様な形をしていて、どんな物にも変幻自在。人の恐怖を感じ取り、目の前の人間の【恐怖と創造】を模した形で現れる。


「つまり、妖怪とは人の【思い】から生まれてくるのじゃ」


「じゃあ世の中、妖怪だらけって事ですか?」


晃が質問すると、首を横に振った。


「陰陽庁が取り仕切っておるし、今のお前ら妖怪なんぞちっとも信じておらんじゃろ。それ故、恐怖が薄れて人の伝聞や記憶、記憶から消えて自然消滅した妖怪がごまんと居る状態でな。それでも新たに生まれてくる妖怪と消えつつある妖怪を【お互いが知る】事で最低限消滅せぬようにしておるのがここの専らの生業じゃ。まぁ、人間社会に紛れ込み、大手出版社に勤めて妖怪を題材にした漫画家を育てている者も中にはおるようじゃが、一昔前のブームはこんのう。無論、こうして陰陽庁の仕事も時折暇つぶしに協力してやっておる。感謝せいよ」


「酒とか米とか現物支給して貰ってんだよ。後で持ってくる様に!!」


常闇がそう言って、ソソクサとこの部屋から出ていった。


「余計な事を。まぁ大事な事なので油揚げも忘れぬように」


「ハハ、必ず陰陽庁に申し付けておきます」


「おい、話が進んでねえ。結局、幼子を殺した妖怪の足取りはわかんねえのか?」


「今回の一件と、恐らくその幼子の一件は全くの別物じゃ」


「どうしてそう言える」


「妖怪にも種類が存在しておる。先程申した人の思いから生まれる妖怪と我の様に長い年月を経て魔力が満ち、妖怪に昇華する物。お主の様に遺伝的に受け継がれる半妖。そして人の死後の思いが残り、化生へと転じたモノ。今回の一件は最後の物じゃ」


そういうと、昔を懐かしむ様に玉藻は語り始める。


「あの沼には、その昔戦国乱世の戦場で散った大勢の者達が今でも眠っていると聞く。そしてその最中で【さぞ恐ろしい目におうた】のであろうな。恐怖がこびり付き、かの昔を呼び起こして恐怖しておる。沈めるには、沼に行き元を鎮める他ないであろう」


九尾の狐が椅子に腰掛けて、再度煙管を咥えた。



 時刻はすでに午後6時を回って夕暮れ時になっていた。妖怪屋敷から元の場所へと戻った3人は、結局幼子の一件の情報が得られず、またその事件と今回の一件の関連性の無い事を告げられて、晃はがっくりと肩を落とした。


「ったく、何が妖怪屋敷だよ、結局手がかり一切無しじゃねえか」


「まぁ、お前の件はまた今度な。こっちはこっちで不味い事になってるんで」


「そうだね、早く行かないと結界壊れちゃう」


「待て、俺も行く」


「別にお前の追ってる件とは関係ないぞ?」


「俺の家の商店街の皆が襲われるかもしれないんだろ?そっちの子はともかく、お前は何か信用できねえ」


「まぁ、葵は剣術一辺倒だしねえ」


「陽動向きって言えよ」


そういうと、白虎が鼻で笑った。


「役立たずが良く言う」


「てめっ」


「とにかく―――俺ももう、無関係じゃないんだ。何言われようが手伝わせて貰う」


やり場の無い気持ちの矛先を拳に込めて晃は2人に協力する事を伝えたのだった。


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