For Whom the Bell Tolls 66
呪力が拡散され、黒炎が周囲を包み込む。綾乃自身も苦しみ藻掻いて頭を抱えて蹲っており、黒い身体に白く輝く皹が発生している。グラウスは急ぎ飛んで現場を確認して世界の終焉が間近である事を察知した。
「ええい、間に合えば良いが⋯⋯力ある者よ聞け!!今より5つの槍を用いて呪力を相殺するのに一時休戦し協力をして貰いたい!誰でも良い、力ある者は協力を願いたい!」
エノクがグラウスの口上を聞き、口を尖らせる。ロンギヌスの槍を5つの白銀の槍へと変化させて綾乃の周囲へと地面に突き刺した。
「ロンギヌスの槍を勝手に使用する等フザけた事を!!管理はどうなっているミカエル。あの槍がありながら早期に殺せなかった理由はなんだ。情けか!?」
「申し訳ありません」
「ロンギヌスの槍の真価は術式にある。力の残滓しか使えぬお前達では宝具の持ち腐れというもの。神の力を吸収して力に替え対抗手段とするのが神殺したる所以!!忌むべき力じゃが今は活用する他道はあるまい!!」
エノクが気が重い表情をした後、一歩前に歩み出る。
「良いだろう、一時休戦してやる。戦はこれが終わった後だ!!」
エノクが白銀の槍を手に持つと自身の力が吸われると同時に綾乃の身体から黒いオーラが槍へと収束される。ミカエルも一本の槍を掴み呪力を吸収し始めた。
「成る程、異界の神が警告する訳だ。頑張ってくれよお嬢ちゃん」
爆発的に拡散された呪力は異界にも影響を及ぼす。
「綾乃さん、今助けますから⋯⋯」
「綾乃、もう少し辛抱しておくれ」
グラウス、龍二と続いて、玉藻とウルズも加わる。二人は受けたダメージも深かったが槍に齧りつく思いで手に取った。白銀の槍がどんどんと黒化していく。綾乃の身体が先程よりも亀裂が生じ始めて崩壊の予兆を見せた。
グラウスが焦りを見せ叫ぶ。
「間に合わぬッ⋯⋯このままでは!!」
ーーーうぅ゙⋯怖いよ⋯⋯誰か助けて!!
幼い子供の、泣きじゃくる声が、聞こえる。
呪術契約を受けた香織の魂にも聞こえており
切迫した状況が伝わってくる。
「今、側に行くからね。待ってて綾乃」
遠藤の肩を貸して貰いながら、一歩ずつ近づく。
「香織!!それ以上近づくでないわ!!呪いで焼け死ぬ事となるぞ!!」
「香織さん!!この場所から離れて下さい!!」
香織がそれを聞いて、遠藤の肩を外してお礼を伝える。
「ここまで連れて来て下さってありがとう御座います。ここからは一人で歩けますので大丈夫です」
そう、笑顔で遠藤に伝える。
「いえ⋯ですが⋯⋯」
遠藤はウルズに智慧を授かり綾乃を子供に会わせなければいけない事は理解出来ている。その為にここまで肩を貸したと言っても過言ではない。だが目の前の状況までも把握している訳ではない。自分の行いが正しくないと後に後悔するその瞬間を、彼は彼女の覚悟も知らぬまま背中を呆然と見続け、一歩ずつゆっくりと香織は綾乃へと歩き始めた。




