For Whom the Bell Tolls 55
陰陽庁も自衛隊から報告を受け、政府からの打診もあり、水蓮は事態を重く見て春馬の代わりに呪術師との対戦経験のある者、実力が上位の者、呪術捜査官を動員させて少数精鋭の部隊を作り現場へ向かわせた。大多数は被災者でもあり、それでも他者の為に今動ける者達、水蓮を含めた十数名。叫びながら男女を追いかける白い甲冑を身に纏う騎士達。
斬りかかる間際、鋼糸が絡まり、振り下ろす事が出来ない。
「何だ!?」
「酷い人達ですね。被災にあった人達になんて事⋯⋯絶対に許せません!」
一人の少女が後方から糸を引っ張り剣を手から離させる。鋼鉄の糸を指先から切り離し、代わりに微弱に光輝く何本もの糸を放出させる。両手には特殊なグローブを着込んでおり、そこから、霊子の糸と鋼糸が出せる様になっている。霊子の糸は鋼糸程強度はないものの、数量と伸縮出来る範囲が拡がっている。全員を霊糸で固めて、身動きを封じた後、水蓮を始めとした者達が刀や槍で止めを刺し、要救助者の安否を確かめる。それから転移の術式で地下施設へと送り込み、避難所とした。
「効率が良いとは言えんな。圧倒的に人出が不足しておる」
「自衛隊もまともに動けていませんな。稼動出来る車は無いですし、ヘリが少なすぎる」
「水蓮様、この状況を打開する策はありますか?」
「そうさのう、他県の支部に応援要請をしてはおるが、まだ時間もかかろうな」
水蓮は上空を見上げる。京都市上空に巨大な転移の魔法陣が浮かび上がる。
「春馬の奴、事前に異界への協力を打診しておったか!」
出現したのは、翼を持つグリフォンに乗った魔術師達の軍。一人の号令により、それらが地上へ散っていく。騎士をグリフォンで上空に持ち上げて落下させると、悲鳴を上げて絶命する。また、逃げ遅れた被災者の元に駆けつけては、転移の術で陰陽庁の地下へと送り込んだ。土砂に埋もれた声が聞こえた場所に行くと、重力を操作して人命救助を行った。遠藤達もその魔術師達を目撃しており、我が目を疑う光景に、希望の光を垣間見た。老人が、ゆっくりと一人の青年の下へと降り立つ。腹部から血が地面に広がっており、天を仰いで空を憂いているかの様に見つめている。老人は息絶えた春馬の目をそっと閉じて、盟友の死を悼んだ。




