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狼の牙と退魔師 6


 商店街を抜けて、山へと続く山道に入り一気に気配が濃くなる。すでに人が襲われているが、一人は抵抗している。赤い髪の毛の少年で、人狼。刀を構えて、鞘から抜き放ち、化け物を切り刻む。


「全く、人狼が情報提供者って聞いたけど、忠告は聞かなかったみたいだな」


月夜に刀身が光り輝き、葵は尚も刀を構える。連撃を重ねて化け物を切り刻んで、晃を化け物から解放した。化け物は上半身が吹き飛んだようだが、すぐに元に戻る。鼻は無く、細い目と大きい口が特徴の化け物。腕も足も細長く人型を模しているがすでにその面影はない。心残りの思いか何か、強い残念の生み出す人の思いから生まれた化け物。何から生まれた物なのか、何を欲しているのか、それがわからない以上は何も手が打てない。残っている限り無限にその思いは続いているのだから。勿論、この化け物を消滅させる事は可能だが元を辿らないといずれ復活する。


「あんた、陰陽庁の?」


「そうだが、こいつは相手が悪い。今は引こう」


「何で引く必要がある?今ここで、こいつを殺せばいい」


少年の凄んだ表情で、葵も息を飲んだ。何かを決意している目。


「見ただろ、こいつは物理的に何やってもダメなタイプで【俺は苦手だ】。こいつと相性の良い奴に任せればいい」


葵が札を一枚取り出して、それを化け物に貼ると、爆発させる。またも上半身爆発四散してようやく悲鳴を上げたが、数に限りがある。印を組んで、小型の犬を召喚するが、化け物の異様さに犬はいち早く気付いた。


「すまん、主。わし帰るわ」


「来たとこだろうが!頼むからちっとは働け」


「今から有給取らせて頂きますワン」


「そんな制度ねーから!」


「労働基準法違反はんたーい」


「陰陽庁がブラックなのであって、そこは俺じゃねーだろ」


「漫才頑張ってるとこ悪いが、何か策はねーのか」


少年が突っ込むと、黒い装束の少年が犬に命令を下した。


「突っ込んで殉職してこい」


「絶対イヤ。寧ろお前が突っ込んでください」


「じゃあ逃げるから煙幕だけ張ってこい」


「それなら全力で任務を全うさせて貰う」


葵が放り投げた丸い球を咥えて犬が小走りで駆けて、化け物の攻撃を回避しながら背後に回り込んで跳躍し、その球を地面にぶつける。煙幕が周囲を包んで、その間に二人は倒れた男性を二人でかついでその場を後にした。商店街まで走り続けた所で、一息つく。


「もういいだろ、ここまで来れば」


「あの化け物をどうするつもりだ?」


「あの犬がマーキングして、見張りもする。どこに居ても追いかけられる様にはしてるし人に危害が及ぶ様な時は万全の策で今度こそ仕留めるさ」


(と、今はそう言っておこう。追いかけそうだし)


「あんたじゃ、あいつに勝てないのか?」


「言ったろ、あいつ普通じゃねえって。普通だったら人狼の一撃で終わってるさ。でも細胞単位で増殖してる感じだったろあれ」


「普通じゃないって、どういう事だ」


「説明する気はない。つかもう帰れ」


「嫌だね、何かお前じゃ無理っぽい気がする」


「やんのか人狼」


「やったるわ無能が」


見回りメンバーの面々がお好み焼き屋で集まって倒れた男性を介抱しながら、男性の無事を喜んだ。店の中から見知ったクラスメイトが現れ、会釈を済ませてその場を立ち去った。携帯を取り出して、陰陽庁に報告を入れた後、赤い髪の少年の揺るぎない目を月の夜空を眺めながら思い出していた。晃が黒い装束の少年に一言文句を言おうと思ったが、すでに姿は無かった。


「心菜、あいつどこに行ったかわかるか」


「橘君?さぁ⋯⋯⋯知らないけど」


「お前、あいつと知り合いなのか?どこで知り合ったんだ」


心菜は少し、怪訝そうな顔で晃を見つめて、答えた。


「知り合いっていうか――――――ぶっちゃけクラスメイトなんだけど」


明日も会えるよ、と笑顔で晃に答えたのだった。



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