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狼の牙と退魔師 5

 

 学校が終わって、葵は京都駅近くにある陰陽庁の窓口に来ていた。とはいえ、市役所の窓口にしては胡散臭い建築物であったが。【VOO DOO CHILD】と書かれた看板の建物の中に入ると沢山の呪いグッズが置かれてある。例えば、恋愛運の上がるアクセサリー。健康運の上がる小さい石。金銭運の上がる小石の入った小さい包み袋。等々、御札や壺なんかも置いてある何とも胡散臭いお店である。ただ、一つ違う所があるとすればどれも本物であるという点である。常人には理解出来ない微弱な力を感じ取る。それ故か、効果覿面と中高生に人気があり、芸能人も訪れる人がいるとかいないとか。


「何か御入り用ですか?どれも効き目は保障しますよ。ほんの少しだけっていう限定付きですけど」


「いや、まぁ健康運と仕事運はちょっと欲しいかも」


この店の主である中学生の少女は微笑んで言った。


「紅葉の従兄弟のお兄さんですよね、いつも話には聞いてます」


「あいつ人に何て言ってるんだか。今日は陰陽庁の仕事として来ました」


「伺っています。どうぞこちらへ」


奥の部屋に通されると、四角いテーブルを挟んで向かいに座る。ソファーの上に黒い猫が居たが、人が来たから飛び跳ねて床に降りゆっくりとこの部屋をドアの隙間から出ていく。


「賢い猫ですね」


「そりゃ、何百と生きてらっしゃる化け猫ですから」


「そうなの?」


少女はこくりと頷いた。


「その話はまたいずれ。今は仕事の話を進めましょう。先日人狼の方から情報がありまして、昨今少年を浚う妖怪の手がかりとして地下または下水の臭いがしたと」


「そらまた、えらく曖昧な情報だなぁ」


「まぁ正直これだけじゃ心もと無いのは確かです。ですので伏見稲荷にいらっしゃる九尾の狐様に会いに行って、情報を貰って来てください。全ての妖怪を束ねるのが仕事みたいなもんですし、手がかりは掴めるかと」


「妖怪屋敷に一人で行けと?」


「紅葉連れていけばいいじゃないですか。確かに、伏見から通じる結界の先から戻って来なかった者も居ますけど、彼女も今や京都の守護聖獣の一角を担う者。そこいらの妖怪が束になっても今の彼女には勝てっこありませんよ」


「分かりました。明日、伏見稲荷へ行って来ます。後純粋な質問なんだけど」


「はい?」


「あの呪い(まじない)グッズどうやって作ってるの?」


「ああ、あれは――――――」


何の変哲もない石を握りしめて、彼女がお祈りをしてほんの少し効果を願う。そうする事で、何の変哲もない石に微弱な力が宿る。


「貴方に、良い御縁がありますようにと祈りを込めました。良かったらどうぞ」


「すごい瞬間を見たはずなのに、何かショックだ」


「良く言われます。ですがおなじないなんて皆普段から良く使ってるはずなんです。あーした天気になぁれ、とか。痛いの痛いの飛んでいけ~とか、ね?」


彼女が笑顔でそういうと、黒猫がいつの間にか戻って来ており欠伸をかいて彼女の膝で眠り始めた。


 話がかなり脱線したせいもあって、帰る頃には陽が落ちていた。電車に乗って、何度か乗り換えを行い駅で10分程待っていると急に背筋が寒くなる。妖怪の気配を感じとり、周囲を警戒したが駅に居る訳ではない。


「くっそ、帰って飯食って寝ようとしたのにこれだ」


札を出して印を組むと、学生服から退魔師の衣装へと変化する。


(陽が落ちてて良かったかもな)


駅のホームに出ると刀を片手に持ち跳躍して駅の外の道路へと出る。それから妖怪の気配のする方へ一直線に駆け出した。

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