For Whom the Bell Tolls 25
総理は専門家を呼んで、再度会合を開いた。そもそも、何が起こったのか理解出来ないので状況を整理する必要がある。陰陽省、自衛隊のトップと、皇の関係者。そして教会に詳しい者達を交え、閣僚達と話し合いを行った。1時間が経過して反応は十人十色。まず、話が荒唐無稽過ぎてついていけない者から席を立ってその場を後にした。理解出来た者の何人かは、休憩時間に辞表を申し出てその場を去った。辞表を出さなかった者は教会へと駆け足で向かって、協力関係を結びたいと泣きつく者も居る。最初から教会と仲の良い者はその場に留まり状況をコントロールしようと躍起になった。それ以外の者はこの状況を何とかするべく、一枚岩となって反対する者を牽制していく。
「バカバカしい問題だ。少数と多数どちらが大切か割り切れば良いだけの事。教会に協力して生贄として差し出せば良いではないか」
「神の如き力の持ち主を相手にそれをやるのか」
「たかが幼児ではないか、何を恐れる。国家存亡の危機に線引出来ずして国民を守れるものかよ」
「そうだ!教会と連携を取って被害を最小に抑えるべきなんだよ!何を他に考える必要がある」
「最小だと!その為に自国民を差し出すのか!」
「当然だろう、それ以外にない。総理、決断を。議論するのもバカバカしい」
「何だと!言わせておけば!!」
怒号と罵声が飛び交い、国と国民と幼女を天秤にかける。状況が本物ならば幼女の力も本物だろう。総理は顔を曇らせて、手を組む。
「勝てるのかね、実際の所」
「どうあれ負けはないかと」
「少女頼みなんだろう?不確定要素があり過ぎないか。幼い彼女がどれだけ事態を把握出来、この問題を解決出来ると思うかね」
「生贄にした瞬間、恐らく彼等と幼女の戦いになるでしょうが⋯星を消す程の化け物を動かすというリスクを考えねばなりません。また、我々が敵だと認識されたと過程して日本は無事でいられますかどうか」
日本が地図から消えているかもしれない。幼女を下手に出せばうっかり日本が消えるかも
なんて言われた日には頭を抱えて蹲るしかない。
「これでは、どっちの化け物に付くかどうかの議論でしかないな」
「そう考えて頂いて結構です。相手の戦力は核兵器並かもしれませんが、星を砕く程でもそれを直す事も出来ません」
「大きな賭けだな」
会議は長引いたが、総理の考えも纏まりつつある。陰陽師、魔術師、教会の事は当然閣僚なら誰しも知る所、専門家の意見を聞き入れながら、教会の人間とも再度話を申し込む事を念頭に入れる。正直な所地球爆散については俄かには信じがたい。しかし教会が大きく動いている以上信じる他ないという相対的事実に基づいて事実とする他ない。その上で、幼女を差し出せと言うのであれば勝手にやって貰う分にはこちらとしても関与しないという線引きも取れる。開戦になるにせよ、ならないにせよ、国民の安全を第一に考えるなら生贄を差し出す方が被害は少なくて済むのだから。国の中枢が、綾乃を頼りに画策している最中、ウルズは香織と共に夕飯の手伝いを行っていた。この女神が幼女の力を封じようとしている事を彼等はこの時点で何も知らなかったのである。




